高齢者への最適な治療を考える
The reality of Active Senior
介護を必要としない高齢者
「アクティブシニア」と呼ばれる元気な高齢者が増加している今、65歳以上を“高齢者”とひとくくりに捉えて治療方針を決めてしまってよいものでしょうか。ここでは、高齢者の要介護者と介護不要者に関するデータを紹介しながら、アクティブシニアの心房細動治療について考察します。
- 第1号被保険者(65歳以上)における要介護者と介護不要者の割合
* 元気な高齢者:介護不要者
出典:みずほコーポレート銀行産業調査部. みずほ産業調査 Vol.39. 2012.より一部改変
方法:
厚生労働省が平成12年度から毎年報告している『介護保険事業状況報告』のデータをもとに、介護不要者数および要介護者数の実態、および将来予測をグラフ化した。
65歳以上の高齢者の数は年々増加する。それに伴って、要介護者の数も増えるが、介護を必要としないアクティブシニアの数も増加する。
約8割は介護を必要としないが、健康状態はさまざまである。アクティブシニアがアクティブな状態を維持できるよう、フレイルの存在にも留意する必要がある。
データを読み解く
年齢だけを治療決定の判断基準にしない。フレイルの概念を心房細動診療にも取り入れる。
このデータは、要介護かそうでないかの2群の割合を見たものですが、介護を必要としない群のなかには、「フレイル」と「元気な高齢者(アクティブシニア)」の2つの集団があることを意識することが大切だと思います。一般に、フレイルになってしまうと治療上の制限が生じるため、元気であるうちに十分な診療を行い、フレイルに移行しないように努める必要があります。
心房細動に関して言えば、アクティブシニアの場合は若年の患者さんと変わらない抗凝固療法が選択できるケースが多いでしょう。カテーテルアブレーションが適応となる患者さんも少なくありません。しかし、フレイルでは転倒などでの出血リスクもあるため、抗凝固薬の用量変更を考慮せざるを得なくなる場合もあります。したがって、高齢の心房細動患者さんの診療では、心房細動自体を診ることはもちろん、フレイルを回避するための診療も同時に行うことが求められます。フレイルにならなければ、通常の抗凝固療法の継続が考慮できるので、患者さんのQOLの維持にも寄与するだろうと考えています。
心房細動の治療方針は、年齢だけで規定されるものではないことを日々の臨床で痛感します。高齢者、特に75歳以上を対象としたエビデンスは十分ではなく、どのような高齢者にどのような治療を行うかについての明確な答えはありませんが、「元気な高齢者が元気なうちに十分な抗凝固療法を行う」ことは、重要な視点の1つであると考えています。
心臓血管研究所 所長
山下 武志 先生