目的
症候性PE又はDVTを合併する活動性悪性腫瘍患者を対象に、低分子量ヘパリン(ダルテパリン※1)とイグザレルトを比較すること。
対象
症候性PE又はDVTを伴う活動性悪性腫瘍患者(ECOG PS≦2)406例 活動性悪性腫瘍は、早期又は局所進行がん、転移がん、血液がんのいずれかに該当するものとした。
方法
イグザレルト群は、初期3週間はイグザレルト15mgを1日2回、その後は20mgを1日1回※2食後経口投与とした。ダルテパリン群は初期30日間はダルテパリン200IU/kgを、その後は150IU/kgを1日1回皮下投与とした。治療期間は6ヵ月とした。
評価項目
有効性主要評価項目:VTEの再発
副次評価項目:重大な出血、重大ではないが臨床的に問題のある出血(ISTH基準)、QOLなど
判定基準
VTEの再発は、圧迫法超音波検査により診断(新しい非圧縮性静脈セグメント、超音波検査で以前に異常があった部分で完全圧縮中に血栓の直径の実質的な増加(4mm以上)又は静脈造影上の新しい腔内充填障害がある場合)し、重大な出血はISTH基準で判定した。
解析計画
Kaplan-Meier法で6及び12ヵ月時点のVTE再発率及び95%信頼区間を推定し、同様に安全性パラメータや生存率などについて推定した。事前に規定されたサブグループとして、がんのステージ、血小板数、VTEのタイプ、がん種別で解析した。
※1
VTEの治療及び再発抑制としては国内未承認[本邦で承認された効能又は効果は、「血液体外循環時の灌流血液の凝固防止(血液透析)」及び「汎発性血管内血液凝固症(DIC)」]
※2
国内外の臨床試験成績を用いた薬物動態シミュレーションの結果、日本人に15mg1日1回及び外国人に20mg1日1回のイグザレルトを投与した際の曝露量は同程度であることが確認されている。なお、本邦で承認された用法及び用量は発症後初期3週間はイグザレルト15mg1日2回、その後は15mg1日1回食後経口投与である。
Young AM et al. J Clin Oncol 2018; 36: 2017-2023
COi 本研究はバイエルの資金により行われた。また、著者にバイエルより講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれる。
参考)がん関連静脈血栓症治療におけるDOACの役割(ISTHのガイダンスより抜粋)1)
①
患者との共有意思決定後に、個別化された治療を行うことを推奨する。
②
PE/DVTの急性期で、出血リスクが低く、全身治療のための薬物との相互作用のリスクが低いがん患者に特定のDOACの使用を考慮してもよい。現在、悪性腫瘍患者においてLMWHとRCT2,3)で比較したデータが存在するDOACは、リバーロキサバンとエドキサバンのみである。
③
PE/DVTの急性期、かつ出血リスクが高いがん患者*1には低分子景ヘパリンの使用を考慮する。*2特定のDOAC(エドキサバン及びリバーロキサバン)は全身治療のための薬物との相互作用がない場合、許容可能な選択肢となる。
*1原発性の消化器がん患者、あるいは泌尿生殖器系、膀脱や胃痩チューブからの出血リスクのあるがん患者、十二指陽漬瘍、胃炎、食道炎又は大腸炎のような消化管粘膜異常のある患者
*2低分子ヘパリンはVTEの治療及び再発抑制に対し本邦未承認
なお、最終的な治療の推奨は、DOACにより再発リスクは低減するが、出血リスクが高くなる可能性と、患者の好みや価値を踏まえた患者との共有意思決定後に行われるべきである。
ISTH 固際血栓止血学会、DOAC 直接作用型経口抗凝固薬、RCT ランダム化比較試験
1) Khorana AA et al. J Thromb Haemost 2018; 16; 1891-1894 2) Young AM et al. J Clin Oncol 2018; 36; 2017-2023
3) Raksob GE et al. N Eng J Med 2018; 378; 615-624
[主要評価項目]
[副次評価項目]
Young AM et al. J Clin Oncol 2018; 36: 2017-2023より作図
安全性
全期間中の重大な出血はイグザレルト群11例(5. 4%)、ダルテパリン群6例(3. 0%)、臨床的に問題となる出血はそれぞれ25例(12. 3%)、7例(3. 4%)であった。主な重大な出血はイグザレルト群で消化管出血8例(3. 9%)、血尿1例(0.5%)等、ダルテパリン群で消化管出血4例(2.0%)等であった。
6ヵ月以内の死亡はイグザレルト群48例、ダルテパリン群56例、出血が各群1例、PE関連死も各群1例に認められた。
9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋)
9.2
腎機能障害患者
9.2.1
腎不全の患者
投与しないこと。成人を対象とした国内外第Ⅲ相試験において、クレアチニンクリアランス15mL/min未満の患者は除外されている。
9.2.2
〈静脈血栓塞栓症の治療及び再発抑制〉 投与しないこと。成人を対象とした国内外第Ⅲ相試験において、クレアチニンクリアランス15~29mL/minの患者は除外されている。また、小児等を対象とした臨床試験では、eGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者は除外されている。
9.2.3
中等度の腎障害のある患者
本剤投与の適否を慎重に検討すること。成人ではクレアチニンクリアランス30~49mL/min、小児ではeGFRが30~60mL/min/1.73m2の患者で本剤の血中濃度が上昇することが示唆されており、出血の危険性が増大することがある。
9.8
高齢者
一般に腎機能などの生理機能が低下している。なお、非弁膜症性心房細動患者を対象とした国内第Ⅲ相試験において75歳以上の患者では75歳未満の患者と比較し、重大な出血及び重大ではないが臨床的に問題となる出血の発現率が高かった。