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NOAC時代の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者に対する抗凝固療法

NVAF|ディスカッション

〜リアルワールドエビデンスを読み解く〜

 

司会:上野 高史 氏

久留米大学病院 副院長

久留米大学循環器病センター(内科)教授

 

Stuart J. Connolly 氏

慶應義塾大学 循環器内科 専任講師

 

森野 禎浩 氏

岩手医科大学 内科学循環器内科 教授

 

阿古 潤哉 氏

北里大学 循環器内科学 教授

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非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)はその有用性と扱いやすさから臨床現場に浸透し、非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の脳梗塞予防に不可欠な存在となった。リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®錠)は臨床使用開始から5年が経過し、さまざまなリアルワールドエビデンス(RWE)が集積されつつある。本座談会では、NVAF患者の抗凝固療法に対するRWEの解釈と応用、今後の展望について5人の専門家に話し合っていただいた。

RWEで臨床試験結果を検証

 

上野:

欧州心臓学会(ESC)会期中に4人の先生方にお集まりいただきました。先日のLate breaking clinical trials sessionではConnolly先生が共同統括責任者を務めたCOMPASS試験の結果が発表され1)、いまだ興奮冷めやらぬところです。

NOACをめぐっては、COMPASS試験や現在進行中のわが国のAFIRE研究などにより新たな可能性の模索が進む一方、既にNOACが臨床の場に浸透しているSPAF(Stroke Prevention in Atrial Fibrillation)領域では多くのRWEが蓄積されつつあります。Connolly先生、臨床試験とRWEは何が違うのでしょうか。

 

Connolly:

臨床試験は治療の有効性や安全性の評価を目的としています。高品質なデータを得るために厳格なプロトコルが設定され、エビデンスレベルが高い手法で行われます。その一方で、プロトコルに適合しない患者は対象から除外されてしまいます。

しかし、リアルワールドには多様な背景因子を持つ患者が存在し、治療環境もさまざまですので、画一的な条件下でなされた臨床試験の結果は必ずしも当てはまりません。そこで、市販後に実施される登録観察研究や医療保険データベースなどのリアルワールドデータを解析し、臨床試験の結果がリアルワールドにも当てはまるかどうかを検証することが必要なのです。

 

上野:

認知機能の低下した高齢者や脳梗塞急性期例など、臨床試験から除外されている集団について、薬剤の効果と安全性を確認することは重要ですね。

 

香坂:

NOACの場合は、特に高齢者のエビデンスが不十分だと思います。実際に、NOACの第Ⅲ相臨床試験コホートに含まれていた日本人高齢者(75歳以上)の数は、これまでに上市された4剤の試験2~5)を合計しても500例程度でした。日本では今後ますます高齢化の加速が予想されていますので、高齢者におけるRWEは不可欠だと思います。

 

森野:

臨床試験実施施設の多くは大学病院や専門医療機関ですが、リアルワールドにおけるNVAF診療の主体は開業医です。RWEにはその違いが現れるかもしれません。

 

阿古:

特に日本人では抗凝固療法による出血が多いため、抗凝固療法がしばしば弱めにコントロールされています。その辺りの影響を見るためにも日本におけるRWEは必要ですね。

リバーロキサバンは高齢者でも臨床試験とリアルワールドで一貫した結果

 

上野:

そうした中、日本ではリバーロキサバンのRWEであるXAPASS<sup>6)</sup>が進行中で、約1万例の中間集計結果が報告されました。香坂先生、その概要を紹介してください。

 

香坂:

XAPASSは、わが国におけるリバーロキサバンの市販後調査として実施されている登録観察研究です。2012年4月18日以降に同薬の服用を開始したNVAF患者1万例以上が登録され、そのほぼ半数が75歳以上の高齢者です。今回の中間集計では、2016年9月15日までに調査票を収集、データ固定された10,001例をもとに解析されました。

その結果、全ての出血は4.5%/年、重大な出血は1.1%/年、頭蓋内出血は0.5%/年であり、同薬の国内第Ⅲ相臨床試験であるJ-ROCKET AF3)と一貫した結果でした。また脳塞も同様にJ-ROCKET AFと一貫した結果が得られました(表1)。

 

森野:

リバーロキサバンは臨床試験とRWEで一貫した成績が示されたNOACということになりますね。

 

香坂:

XAPASSの特徴として、75歳以上の高齢者が対象の半数を占めている点が挙げられます。加齢はそれ自体がさまざまなイベントのリスク因子である上、年齢とともに増加する合併症もアウトカムに影響を及ぼします。こうしたリスクの高い高齢者を多く抱えたXAPASSが、高齢者比率が2割足らずであるJ-ROCKET AFと、イベント発現率が同程度という点は特筆すべきかと思います。

 

上野:

臨床試験と観察研究では、対象患者や方法が異なるため、これらのデータを直接比較することはできません。しかし、このような前提を考慮しても、XAPASSにおける出血性副作用の発現率は低いといえます。

 

香坂:

XAPASSではさらに、頭蓋内出血と脳梗塞の発現率を脳卒中リスクの高い患者層〔75歳以上の高齢者、腎機能低下例、脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)・全身性塞栓症既往例〕別にサブ解析を行っています。その結果、頭蓋内出血の発現率は高齢者で0.6%/年、腎機能低下例で0.8%/年、脳梗塞・TIA・全身性塞栓症の既往例で0.9%/年でした。脳梗塞の発現率はそれぞれ1.4%/年、1.6%/年、2.0%/年でした(表2)。このように高リスク例の検討においてもXAPASSの結果はJ-ROCKETの結果に近いものとなっています。

 

阿古:

NOACの歴史はまだ10年足らずですが、既にNVAFにおける抗凝固療法として欠かせない存在となっています。臨床試験のエビデンスをリアルワールドで確認していくことは、抗凝固療法を適切に行う上で大変重要だと思います。

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抗凝固療法で見られる不適切な減量投与;適正用量の投与でリスクを回避

 

Connolly:

リバーロキサバンの日本での承認用量は15mg/日または10mg/日とのことですが、リアルワールドにおける用量選択はどのように行われていますか。

 

森野:

リバーロキサバンの用量は、クレアチニンクリアランス(CLcr)に基づき50mL/分以上の症例では15mg/日、15~49mL/分では10mg/日と設定されています。しかし、高齢の患者さんに対しては出血を懸念して10mg/日を選択される開業医の先生が少なくないように思います。CLcrが50mL/分以上であるにもかかわらず10mg/日投与されたのであれば、それは不適切な減量投与です。

 

Connolly:

カナダでも同様に出血を懸念した不適切な減量投与が行われ、問題となっています。

 

香坂:

XAPASSでは初回投与量が10mg/日であった症例の約半数で、CLcrが50mL/分以上でした。10mg/日の選択理由で最も多かったのが、出血リスクが高いことで、次いで高齢、腎障害でした(図)。

 

阿古:

特に高齢者は、出血だけでなく脳梗塞のリスクも高いため、この理由だけで低用量を選ぶのは正しくないのではないでしょうか。不適切な減量投与の結果、防ぎえたはずの脳梗塞が生じてしまっては意味がありません。CLcrが50mL/分以上であれば15mg/日を投与すべきです。

 

香坂:

同感です。根拠のない不適切な減量は、かえって脳梗塞リスクを高めることになります。NVAF患者では、脳梗塞を予防するために抗凝固療法を行っていることを再確認すべきです。

 

上野:

かねてから指摘されていることですが、日本では出血への懸念により抗凝固療法を弱めにコントロールする傾向があります。Fushimi AF Registryでは登録症例の約半数がワルファリンを使用していましたが、登録時のプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が治療域にあった症例はその54.4%にとどまり,その他の多くは治療域を下回っていました7)

 

Connolly:

リアルワールドにおいては、一定の患者で十分な抗凝固療法が行われていないと考えられますね。それを踏まえ、必要十分な用量の抗凝固薬を使うことを心がければ、さらに良好なアウトカムを期待できると思います。

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エビデンスの蓄積と今後の抗凝固療法

 

上野:

では最後に、蓄積されつつあるNOACのRWEへの期待についてお聞かせください。

 

香坂:

NOACにおけるRWEは、医療の現場のリスク - ベネフィットの考え方を直接反映します。私たちや患者さんの考え方に偏りが出ないかどうか、健全にモニターしていくという意義は大きいと思います。

 

森野:

NOACを使用するに当たっては、ワルファリン時代に私たちが培った「臨床医としての薬剤用量の感覚」を見直さないといけないということをRWEが示しているのだと思います。RWEデータの今後のさらなる蓄積が、この点を明らかにすることを期待しています。

 

阿古:

NOACのRWEは今後も数多く報告されると思います。それを見て日常診療を振り返り、抗凝固療法をより良いものにすることができると信じています。

 

上野:

新たな治療法の可能性を探り、その有効性と安全性を確認する臨床試験と、リアルワールドの患者データで臨床試験を補完し、日常診療のに有益な情報をもたらすRWEは、EBMを支える両輪だと思います。リバーロキサバンは、その双方で一貫した結果が得られたNOACです。さらに、出血や脳梗塞リスクの高い日本人高齢患者においても、臨床試験とRWEの結果が一貫していました。

臨床上の課題解決を目指し、現在も多くの臨床試験とリアルワールド研究が進行中です。新たな可能性を広げ、実臨床に役立つさまざまな知見をもたらすこれらの研究の成功を祈念しつつ、本座談会を終えたいと思います。

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文献

1)Eikelboom JW, et al. N Engl J Med 2017; 377: 1319-1330.

2)Connolly SJ, et al. N Engl J Med 2009; 361: 1139-1151.

3)Hori M, et al. Circ J 2012; 76: 2104-2111.

4)Granger CB, et al. N Engl J Med 2011; 365: 981-992.

5)Giugliano RP, et al. N Engl J Med 2013; 369: 2093-2104.

6)イグザレルト® 錠特定使用成績調査の現状報告-2012 年4 月18 日~ 2016 年9 月15 日時点の調査票収集・データ固定症例での中間集計.

7)Akao M, et al. Circ J 2014; 78: 2166-2172.

COI: 1), 3), 6), 7)はバイエルからの支援あり


ROCKET AF、XANTUS およびVENTURE-AF は、リバーロキサバンの海外承認用法・用量(20mg1日1回、CLcr 50mL/ 分未満では15mg 1日1回)で実施されました。国内外の臨床試験成績を用いた薬物動態シミュレーションの結果、日本人に15mgおよび外国人に20mgのリバーロキサバンを投与した際の曝露量は同程度であることが確認されています。なお、国内承認用法・用量は15mg 1日1回(CLcr 50mL/分未満では10mg1日1回)です。