疾患関連情報

SPAF座談会

リアルワールドデータから考えるNOAC時代の抗凝固療法

 実臨床で診る非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の大半は高齢者である。一方、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の開発治験(第Ⅲ相臨床試験)では、高齢者を含むさまざまなリスクを有する患者の組み入れが限定的であったため、リアルワールドデータ(RWD)に寄せられる期待は大きい。しかし、RWDはあくまでも調査した範囲内での現実を示すものであり、その解釈には注意が必要である。そこで今回、本領域のエキスパートにお集まりいただき、NVAF患者の抗凝固療法におけるRWDの重要性と、本年発表されたEXPAND studyの解釈について討議していただいた。

司会 下川 宏明 氏

リアルワールドデータにおける「一貫性」の重要性

下川 抗凝固療法の開発治験は、プロトコルに基づき限られた集団で実施されるため、NVAF患者の半数以上を占める高齢者や、その他のリスクを有する患者が組み入れられないことがしばしばありました。これに対して近年、実臨床のNVAF患者を対象としたRWDが注目され、その集積が進んでいます。臨床現場における診療の実態を知るには、RWDの収集と分析、そして結果の正しい解釈が不可欠です。
 山下先生、RWDを正しく読み解き、解釈するにはどうすればよいのでしょうか。
山下 下川先生が説明されたように、抗凝固療法においてもRWDが重視されるようになりました。しかし、さまざまなレベルのRWDが氾濫している状況だとの声も聞かれます。開発治験では仮説を立て、それを検証することが目的ですが、RWDは仮説なしに現状何が起こっているかを調査することを目的としています。RWDの結果には多様性があること、実臨床では理想的でない治療も行われていること、誤差の幅が広いことなどの特徴を念頭に置いて、結果を解釈する必要があります。
 なお、解釈に当たって重要なのはデータの一貫性で、これを基軸とする必要があります。
内山 RWDには医師主導型の前向き登録観察研究や、企業が省令に基づいて実施する市販後調査(PMS)などがありますが、これらの一貫性をどのように検討するのですか。
山下 RWD間の一貫性を評価する方法は、まだ確立されていません。例えば、登録観察研究と保険償還データベース研究は異なるものなので、同じ方法で解釈はできません。現時点では、メタ解析で複数の研究結果が同じ傾向にあれば、一貫性があるだろうと見なしています。
下川 リバーロキサバンの登録観察研究であるEXPAND study1)とPMSのXAPASSを比べると、RWDでも研究組織や調査方法、追跡基準、イベント評価方法が異なることが分かります(表1)。
井上 主治医が評価するPMSでは現実に即した結果が得られる一方で、その評価をリアルワールドに広げていいのか、その現場に限定して見るべきなのかを慎重に考える必要があります。試験にはそれぞれ特徴があることを理解した上で、RWDを解釈することが求められます。

追跡率99.7%の医師主導型前向き登録観察研究 EXPAND study

下川 EXPAND studyは日本の実臨床におけるリバーロキサバンの有効性、安全性の評価を目的とした医師主導型前向き登録観察研究です。全国684施設からリバーロキサバンを処方中または処方予定のNVAF患者7,178例を登録していただき、7,141例で追跡が完了しました(除外例を除く追跡率99.7%)。有効性主要評価項目は脳卒中/全身性塞栓症(SE)、安全性主要評価項目は重大な出血です。
 平均観察期間は897日(2.46年)で、評価対象の患者背景(表2)は男性67.7%、平均年齢71.6歳(75歳以上40.9%)、平均体重62.8kg、平均クレアチニンクリアランス値69.7mL/分、平均CHADS2スコア2.1点でした。リバーロキサバンの用量は15mg/日投与が56.5%でした。CHADS2スコアで最も多かったのは2点(28.9%)で、0~1点が全体の37.4%を占めていました。0〜1点の割合はJ-RHYTHM Registry2)よりも少なく、Fushimi AF Registry3)と同程度です。
 有効性(安全性)主要評価項目の結果は、脳卒中/SEの発現率が1.0%/年、重大な出血は1.2%/年でした(図1)。重大な出血の内訳は、頭蓋内出血と消化管出血が各0.5%、その他の部位が0.3%でした。CHADS2スコアおよびCHA2DS2-VAScスコア別に脳卒中/SEの発現率を見ると、いずれもスコアが高くなるほど上昇しました(図2)。
 なお、リバーロキサバンの国内第Ⅲ相臨床試験J-ROCKET AF4)における脳卒中/SEの発現率は1.5%/年、重大な出血は3.0%/年でした。また、欧州・イスラエル・カナダで行われた医師主導型前向き登録観察研究XANTUS study5)での脳卒中/SEの発現率は0.8%/年、重大な出血は2.1%/年でした。
 有効性副次評価項目の発現率は、主要心血管イベント(脳卒中/SE、心筋梗塞、心血管死)が1.7%/年、脳卒中が1.0%/年、脳梗塞が0.7%/年、心血管死が0.7%/年などで、全死亡が1.6%/年でした。
 有効性(安全性)主要評価項目の発現率を用量別に解析すると、10mg/日投与例の脳卒中/SEは1.1%/年、重大な出血は1.4%/年で、15mg/日投与例ではそれぞれ0.9%/年、1.1%/年でした。リアルワールドでは、高リスクの患者さんに対し低用量の10mg/日が用いられていることを示唆するデータと考えられます。

EXPAND studyから分かった日本人用量の意義

下川 EXPAND studyの結果についてコメントはありますか。
山下 リバーロキサバンの承認用量は海外が20mg/日、日本が15mg/日と国内外で異なり、体格差を考慮しても日本の用量設定は低いのではないかとの声がありました。しかし、EXPAND studyの有効性(安全性)主要評価項目がいずれも約1%/年であったことは、日本での用量設定が日本人に適していることを示唆するものと思います。
清水 CHADS2スコアの構成分布が、実地医家の症例が多く登録されたFushimi AF Registryと似ており、循環器専門施設の症例を登録したJ-RHYTHM Registryのそれとはやや違っていたことから、EXPAND studyに組み入れられた症例が日常診療の患者層に近いことがうかがえます。80歳以上の高齢者やCHADS2スコア0~1点の症例など、開発治験にはなかった結果が得られたことも評価できます。
 興味深いのはJ-ROCKET AFと比較すると、安全性主要評価項目(重大な出血)は3.0%/年 vs. 1.2%/年とEXPAND studyが低いのに対し、有効性主要評価項目(脳梗塞/SE)では1.5%/年 vs. 1.0%/年とあまり差が見られなかった点です。これについてはどのように考察されていますか。
内山 今後のサブ解析でその理由は明らかにされると思いますが、現時点では、再発リスクの高い脳卒中発症後2週間以内の症例がJ-ROCKET AFでは除外され、EXPAND studyでは含まれていることが影響しているのではないかと考えています。
下川 日本で実施された他のRWDと比べてどうですか。
山下 RWD同士の比較は難しいのですが、心研データベース・Fushimi AF Registry・J-RHYTHM Registryの無投薬例の統合解析結果6)を見ると、CHADS2スコア0、1点における脳梗塞の発現率はEXPAND studyの方が低いです。同じことが診断群分類包括評価(DPC)データ7)の抗凝固療法なし群の結果からもいえます。つまり、リバーロキサバンはCHADS2スコア0、1点の症例に対しても脳梗塞予防効果を示すのではないかと推測されます。一方、ワルファリンで脳梗塞が有意に減少したのは、CHADS2スコア2点以上です8)
 また、海外の報告ではCHA2DS2-VAScの0点と1点には脳卒中/SEの発現率に差があるのですが9)、EXPAND studyでは0.4%/年、0.3%/年とその差が見られないことが、他の日本のRWDと共通しています。

75歳以上の高齢者を約2,900例含むEXPAND study

下川 NVAF患者の大半を占める高齢者に対し、どのように抗凝固療法を行っていくべきか、一次予防の観点から井上先生に伺います。
井上 年齢が高くなるほど塞栓症と出血の両リスクは高まります。さらに腎機能の低下、腎排泄の遅延で薬物動態にも影響が生じるなど、高齢者は抗凝固療法が難しい集団と言えます。75歳以上の高齢者を40.9%(約2,900例)含むEXPAND studyでこのような結果が示されたことは、評価に値すると思います。実際に高齢者の治療に臨む際には、高血圧や心不全など心房細動のリスクを高める疾患の管理も同時に行うことが重要と考えます。
下川 臨床現場ではいかに出血を回避できるかが重要になると思いますが、何か工夫されていますか。
山下 75歳以上の患者さんでは、抗凝固薬によってプロトロンビン時間が極端に延びる人が多くなるという印象があります。そこで高齢者に処方する際には、血中濃度の分布が広がっていることを意識しています。
下川 医師主導の登録観察研究EXPAND studyにより、日本におけるリバーロキサバンの使用実態が明らかになったことは、実臨床における抗凝固療法の現状を知る上でも意義があると考えます。今後、サブ解析の結果が学会発表や論文などを通して逐次発信されていくと思いますが、これらの情報を基に、個々の患者さんに最適な抗凝固療法が行われるようになることを期待します。本日は貴重なお話をありがとうございました。

    文献
  • 1) Shimokawa H, et al. Int J Cardiol 2018; 258: 126-132.
  • 2) Atarashi H, et al. Circ J 2011; 75: 1328-1333.
  • 3) Akao M, et al. J Cardiol 2013; 61: 260-266.
  • 4) Hori M, et al. Circ J 2012; 76: 2104-2111.
  • 5) Camm AJ, et al. Eur Heart J 2016; 37: 1145-1153.
  • 6) Suzuki S, et al. Circ J 2015; 79: 432-438.
  • 7) Koretsune Y, et al. J Cardiol 2017; 70: 169-179.
  • 8) Suzuki S, et al. Circ J 2016; 80: 639-649.
  • 9) Joundi RA, et al. Stroke 2016; 47: 1364-1367.
  • COI:1), 3)〜6)はバイエルからの支援あり
L.JP.MKT.XA.06.2018.1921