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SPAF座談会

リアルワールドエビデンスの意義とリバーロキサバンのエビデンスからの知見(2)

 登場から7年目を迎えた非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の有用性と利便性は、いまや多くの人々の知るところとなった。臨床現場ではNOACによる治療が着実に浸透しており、現場発の「リアルワールドエビデンス(RWE)」が続々と登場している。RWEは、臨床試験では検証できなかったさまざまなリスクを有する患者に対する結果を再確認する意味で、なくてはならないエビデンスである。本座談会では、RELAXED研究を含めた最近のRWEとその意義について議論していただいた。

司会 豊田 一則 先生

◆ 海外のRWE;XANTUSとREVISIT-USの意義

豊田 2015年から2016年にかけ、XANTUS1)およびREVISIT-US2)というリバーロキサバン(商品名:イグザレルト®錠)に関する2つのリアルワールドエビデンス(RWE)が海外で発表されました。Diener先生は、リバーロキサバンの国外第Ⅲ相臨床試験ROCKET AF3)のドイツにおける統括責任者を務めていらっしゃいましたが、臨床試験とリアルワールドの違いも含めて、これらのRWEの意義について解説していただけますか。
Diener 臨床試験では、厳格な組み入れ基準と除外基準に則して患者が選ばれます。つまり、患者背景は臨床試験とリアルワールドで異なりますので、必ずしも臨床試験の結果がリアルワールドに当てはまるとは限りません。また、たとえ数千人規模の大規模臨床試験であっても、発症頻度が1%にも満たない事象のリスクを正確に評価するには、十分なサンプルサイズとはいえません。
 こうした臨床試験の限界を補うものがRWEです。特に前向き登録研究は、無作為化比較試験(RCT)に次いで質の高いエビデンスと位置付けられています。XANTUSはそうした前向き登録研究の1つであり、リバーロキサバンの投与が新たに開始された欧州およびカナダの非弁膜症性心房細動(NVAF)患者6,784例が登録され、1年間追跡されました。
 本コホートは、ROCKET AFでは対象とされなかったCHADS2スコア0~1点の低リスク症例が4割含まれていました。またROCKET AFには、脳梗塞既往例がおよそ半数含まれていましたが、XANTUSでは約2割でした。
 XANTUSにおける脳卒中または全身性塞栓症の発生率は0.8%/年、重大な出血の発現率は2.1%/年であり、ROCKET AFと一貫した結果が示されました。
 一方、REVISIT-USは、米国の健康保険データベースを解析した後ろ向き研究です。後ろ向き研究は、エビデンスの質は劣りますが、大量のデータを効率よく収集できる点が強みです。REVISIT-USの結果もROCKET AFと一貫したものとなっています。

◆ 国内のRWE・XAPASS(中間集計);“under dose”の問題も浮き彫りに

豊田 Diener先生、ありがとうございました。1つ確認させていただきたいのですが、XANTUSに参加した欧州・カナダの21カ国と、REVISIT-USが行われた米国でのリバーロキサバンの用量は、全て通常用量20mg/日、低用量15mg/日でしょうか。
Diener はい、その通りです。原則として、クレアチニンクリアランス(CLcr)が30~49mL/分の患者には低用量を投与します。
山上 そのルールは厳格に守られているのでしょうか。日本では、腎機能に問題がないのに低用量のNOACが使われるケースが多く、問題視されています。
Diener いわゆる“under dose”ですね。その問題は欧米でも指摘されています。Under doseでは、通常用量投与時より有効性が下回る可能性があるので、減量を要する明確な理由がない限り、通常用量のNOACを投与すべきであることを強調しておきたいと思います。
豊田 同感です。山上先生、その点も含めた日本のリアルワールドデータをご紹介いただけますか
山上 ご存じのように、日本におけるリバーロキサバンの承認用量は、通常用量が15mg/日、低用量が10mg/日です。したがって、日本で市販後登録研究として行われたXAPASS4)の知見は、この用量による唯一のRWEです。これまでに1万1,000例以上の患者が登録され、2016年9月時点で調査票収集・データ固定症例は1万例を超えました。
国内第Ⅲ相試験J-ROCKET AF5)は、CHADS2スコア2点以上の高リスク症例が対象でした。一方、XAPASSでは、CHADS2スコア0~1点の低リスク症例も含まれており、ベースライン時のCHADS2スコアの分布は、これまでに報告されたわが国の登録研究のデータ6)とほぼ同じです。
J-ROCKET AFでは、重大な出血事象の発現率が3.0%/年、頭蓋内出血の発現率が0.7%/年(表1)であったのに対し、XAPASSの中間集計(2016年9月時点)においては、それぞれ1.06%/年、0.47%/年でした。頭蓋内出血の発現率を脳卒中リスクの高い患者群別に集計したところ、高齢者(75歳以上)で0.60%/年、腎機能低下例(CLcr 30~49mL/分)で0.81%/年、脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)・全身性塞栓症の既往例で0.87%/年でした(表2)。
 脳梗塞の発現率は、高齢者ではJ-ROCKET AFの1.25%/年に対し、XAPASSでは1.42%/年、脳梗塞・TIA・全身性塞栓症の既往例ではそれぞれ1.10%/年、2.01%/年でした。したがってXAPASSの結果は、全体集団、リスクを有する患者集団のいずれについても、J-ROCKET AFの結果とほぼ一貫しているといえます。
 なお、XAPASSでは全体の約半数に当たる4,496例に低用量のリバーロキサバンが投与されていました。しかし、そのうち2,417例は腎機能が正常であったにもかかわらず、高齢や出血への不安から、低用量が選択されていたのです。
 これらの知見から浮かび上がるのは、出血への懸念から投与量の減量が行われるケースが多いという、わが国のリアルワールドの現実です。その結果、高齢者や二次予防例のような高リスク患者において、脳梗塞が十分に予防できていないことが懸念されます。

◆ 国内のRWE・SAMURAI-NVAF研究;NOAC時代の抗凝固療法の実態を調査

豊田 後半では、脳梗塞急性期のNVAF患者に対する抗凝固療法の実際について議論してまいりたいと思います。
 まずDiener先生にお伺いしたいのですが、脳梗塞発症後、欧州では抗凝固療法をいつから開始していますか。
Diener 欧州では、欧州心臓病学会(ESC)が提唱する“1-3-6-12ルール”が広く用いられています。簡単にいうと、TIAであれば即日、軽症の脳卒中なら3日目、中等症なら6日目、重症なら12日目の開始を推奨するものです。しかし、これはあくまでも専門家の見解に基づくものであり、エビデンスはないのが現状です。そのためわれわれは現在、1万例規模の前向き登録研究の計画を進めているところです。日本ではどんな状況でしょうか。
豊田 日本では、1-3-6-12ルールよりやや早めに抗凝固療法が開始されているように思います。これに関して、われわれが実施した多施設共同前向き観察研究・SAMURAI-NVAF研究7)を紹介します。本研究は、2011年以降NOACが相次いで発売された状況に鑑み、日本における抗凝固療法の実態を調査する目的で行われました。
対象は、ワルファリンまたはNOACによる抗凝固療法を受けた脳梗塞/TIA後のNVAF患者です。2011年9月~2014年3月に登録された1,192例について解析したところ、抗凝固療法の開始時期(中央値)はワルファリンが発症3日後、NOACが発症4日後でした。NOACの開始時期(中央値)を梗塞サイズ別に見ると、小さい症例で3日後、中程度の症例で4日後、大きい症例で6日後でした。NIH脳卒中スケール(NIHSS)別の検討では、TIA症例で2日後、軽症例で3日後、中等症例で4日後、重症例で5日後という結果でした()。
なお、3カ月後の脳卒中または全身性塞栓症の発症率はNOAC投与群で2.84%、ワルファリン投与群で3.06%〔補正ハザード比(HR)0.96、95%CI 0.44~2.04〕、頭蓋内出血はそれぞれ0.23%、1.00%(補正HR 0.17、95%CI 0.01~1.15)でした8)

◆ RELAXED研究;脳梗塞急性期における抗凝固療法の至適開始時期を検討

豊田 脳梗塞急性期におけるリバーロキサバンの至適開始時期を検討するRELAXED研究9)について、その概要をご紹介いただけますか。
矢坂 RELAXED研究は、NVAF患者の脳梗塞急性期/TIAにおけるリバーロキサバンの至適投与開始時期を検討することを目的とした多施設共同前向き観察研究です。脳梗塞/TIA発症後30日以内にリバーロキサバンの投与が開始されたNVAF患者を登録し、発症90日後までの転帰とリバーロキサバン開始時期、梗塞サイズなどとの関連性を考慮した上で、至適投与開始時期を明らかにすることが目的です。主要評価項目は脳梗塞の再発と重大な出血です(表3)。
 RELAXED研究は、2014年2月から2016年4月までの期間で実施されましたが、先頃解析を終えたところです。梗塞サイズが小さいほど早期にリバーロキサバンが開始されており、豊田先生らが行われたSAMURAI-NVAF研究と類似した結果が示されました。
豊田 先生方のお話から、NOACのRWEが着実に構築されてきていることを確認できました。提示された知見を踏まえると、NOACは心原性脳梗塞急性期患者の抗凝固療法に大きく貢献するものと期待されます。本日はありがとうございました。


目的:
安全性におけるリバーロキサバンのワルファリンに対する非劣性の検証
対象:
日本人の非弁膜症性心房細動患者1,280例(心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病のうち2つ以上のリスクを有する、または虚血性脳卒中/TIA/全身性塞栓症の既往を有する患者)
方法:
リバーロキサバン15mg(CLcr 30~49mL/分の患者には10mg)およびワルファリンプラセボ、あるいは用量調節ワルファリン(目標PT-INR:70歳未満は2.0~3.0、70歳以上は1.6~2.6)およびリバーロキサバンプラセボを1日1回投与し、最長31カ月間観察した。
有効性主要評価項目:
脳卒中または全身性塞栓症
安全性主要評価項目:
重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象
解析計画:
安全性主要評価項目に関して非劣性(安全性解析対象集団/治験薬投与下)を検証した。有効性の検証には十分な検出力を有していなかったが、有効性(プロトコル適合集団/治験薬投与下)についても評価し、さらに本試験における有効性および安全性成績を国外第Ⅲ相試験(ROCKET AF)と比較検討することで、日本人への外挿可能性を評価した。
結果:
有効性主要評価項目(脳卒中または全身性塞栓症)の発症率は、リバーロキサバン群1.3%/年、ワルファリン群2.6%/年であった(ハザード比0.49[95%信頼区間:0.24~1.00]、P=0.050、Cox比例ハザードモデル)。
安全性主要評価項目(重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象)の発現率は、リバーロキサバン群18.0%/年、ワルファリン群16.4%/年であり、リバーロキサバンのワルファリンに対する非劣性が検証された(ハザード比1.11[95%信頼区間:0.87~1.42]、非劣性マージン 2.0、P<0.001)。
有害事象:
副作用(臨床検査値異常を含む)はリバーロキサバン群639例中326例(51.0%)、ワルファリン群639例中291例(45.5%)に認められた。主要な事象は、リバーロキサバン群では鼻出血88例(13.8%)、皮下出血50例(7.8%)等、ワルファリン群では皮下出血62例(9.7%)、鼻出血49例(7.7%)等であった。重篤な副作用はリバーロキサバン群で35例(5.5%)、ワルファリン群で29例(4.5%)認められた。主要な事象は、リバーロキサバン群では突然死6例(0.9%)、出血性胃潰瘍3例(0.5%)等、ワルファリン群では胃腸出血4例(0.6%)、出血性腸憩室3例(0.5%)等であった。投与中止に至った有害事象(治験薬投与下、因果関係を問わない)はリバーロキサバン群で84例(13.1%)、ワルファリン群で98例(15.0%)に認められた。主要な事象は、リバーロキサバン群では虚血性脳卒中8例(1.3%)、血尿4例(0.6%)等、ワルファリン群では虚血性脳卒中21例(3.3%)、血尿2例(0.3%)等であった。死亡に至った有害事象(全試験期間中)はリバーロキサバン群で14例(2.2%)、ワルファリン群で12例(1.9%)に認められた。主要な事象は、リバーロキサバン群では突然死(心突然死を含む)9例等、ワルファリン群では突然死、肺炎、事故(交通事故を含む)がそれぞれ2例ずつ等であった。
PT-INR:プロトロンビン時間国際標準比
    文献
  • 1)Camm AJ, et al. Eur Heart J 2016; 37: 1145-1153
  • 2)Coleman CI, et al. Curr Med Res Opin 2016; 32: 2047-2053
  • 3)Patel MR, et al. N Engl J Med 2011; 365: 883-891
  • 4)イグザレルト®錠特定使用成績調査の現状報告-2012年4月18日~2016年9月15日時点の調査票収集・データ固定症例での中間集計
  • 5)Hori M, et al. Circ J 2012; 76: 2104-2111
  • 6)Akao M, et al. J Cardiol 2013; 61: 260-266
  • 7)Toyoda K, et al. Int J Stroke 2015; 10: 836-842
  • 8)Arihiro S, et al. Int J Stroke 2016; 11: 565-574
  • 9)Yasaka M, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis 2016; 25: 1342-1348
  • COI:1~6)、9)はバイエルからの支援あり

ROCKET AF、XANTUSは、リバーロキサバンの海外承認用法・用量(20mg 1日1回、CLcr 50mL/分未満では15mg 1日1回)で実施されました。国内外の臨床試験成績を用いた薬物動態シミュレーションの結果、日本人に15mgおよび外国人に20mgのリバーロキサバンを投与した際の曝露量は同程度であることが確認されています。なお、国内承認用法・用量は15mg 1日1回(CLcr 50mL/分未満では10mg 1日1回)です。

L.JP.MKT.XA.07.2017.1517