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SPAF座談会

非弁膜症性心房細動(NVAF)に対する抗凝固療法として非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)が上市されてから6年目を迎えた。NOAC は、リアルワールドでの普及が急速に進んでいるが、国内外のさまざまなレジストリ研究やデータベースの構築が進む一方で、診療実態における課題も明らかになってきた。
今回、米国からManesh Patel先生をお招きし、国内の循環器専門の先生方とともに、第Xa因子阻害剤リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®錠)のリアルワールドエビデンスから得られた知見と解釈についてご討議いただいた。


  基調講演
  リアルワールド(実臨床)における心房細動(AF)患者へのNOAC投与の実態

Dr. Manesh Patel
Division of Cardiology, Duke University Medical Center and Duke Clinical Research Institute,
Durham, North Carolina, USA

◆ リアルワールド(実臨床)での抗凝固薬は低用量が選択される傾向

  AFの診療では、医師は血栓塞栓症のリスクと出血のリスクの双方に配慮しながら抗凝固薬を決定する必要があります。しかし、出血リスクが懸念される患者では、弱めの抗凝固療法が行われているという現状があります。GARFIELD AFレジストリ1)は、新規にNVAFと診断され、かつ1つ以上の脳卒中リスクを有する患者を登録する国際大規模登録観察研究です。ビタミンK拮抗薬(VKA)投与患者のプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)の測定結果をみると、およそ3割で治療域を下回っており1)、この中にはPT-INRが弱めにコントロールされている患者が含まれていると考えられます。このような患者群は、もともと出血リスクが高いだけでなく、抗凝固薬の用量不足で脳梗塞リスクも高くなることが問題となります。
  NOACのリアルワールドでも、用量不足は問題とすべきです。NOACのリアルワールドデータが明らかとなるに従い、低用量NOACの使用は臨床試験時よりも多いことが表面化しています。これは単に減量基準に合致する患者がリアルワールドで多いだけでなく、VKAの場合と同様に出血への懸念から低用量が選択されている患者も含まれているからだと考えます。減量基準に合致しない患者でも、低用量を選択せざるを得ない状況はあり得ますが、そのような患者は脳梗塞のリスクが高いことに注意し、慎重に診ていく必要があるでしょう。

◆ 臨床試験とリアルワールド(実臨床)で一貫した有用性が示された リバーロキサバン

   リバーロキサバンでは、大規模臨床試験に加えて、リアルワールドにおけるさまざまな研究も進められています (図1)。
  XANTUS2)は、NVAF患者6,784例のデータを解析した国際共同前向き登録観察研究です。腎機能低下患者や、ROCKET AF3)には含まれないCHADS2スコア0~1点の患者なども多く含まれ、その結果はROCKET AFと一貫したものでした。これは、リバーロキサバンの臨床試験結果がリアルワールドにおいて再確認されたことを示しています。
  ROCKET AFが報告されてから5年が経過しましたが、これまでに多くのサブ解析結果が報告されています。加えて、前向き研究のDresden NOAC registry4)(n=1,204)や米国国防総省の電子健康記録データベース解析結果(n=27,467)5)等、さまざまなリアルワールドエビデンスが報告され、有効性と安全性の双方で臨床試験の結果が再確認されたのは素晴らしいことです。これらのデータを考慮することで、今後より適切な抗凝固療法が可能となるでしょう。

  ディスカッション
  NOAC時代の心原性脳塞栓症予防
  ―リアルワールド(実臨床)エビデンスの最新知見から

◆ リアルワールド(実臨床)の課題とエビデンス構築の意義

平山 Patel先生のご発表では、抗凝固薬の用量不足について触れられていましたが、どういったケースで減量投与がなされているのでしょうか。
Patel 主に高齢の患者さんに対して減量投与されているようです。いくつかのリアルワールドデータでは、減量投与により脳梗塞のリスクが若干上昇するとの結果が得られています。たとえ高齢で女性であっても、高血圧もなく、腎機能が正常であれば通常用量を用いるべきだと考えます。
香坂 日本人の易出血性のために、わが国では出血を気にする医師は多く、それが減量投与につながる可能性も考えられます。
池田 日本国内で承認されているNOACでは、投与量を決める際にクレアチニンクリアランスの考慮のみで良い場合もあれば、ほかの指標の考慮も必要な場合もあるため、診療現場ではしばしば混乱を招くこともあるようです。また日本では、リスク層別化にCHADS2スコアを使用することが推奨されていますが6)、欧州ではCHA2DS2-VAScスコアとHAS-BLEDスコアが使用されています。プライマリケア医が使用するには複雑すぎるのではないでしょうか。
Patel 用量決定の指標は、シンプルであるに越したことはありません。リバーロキサバンの用量決定で用いるクレアチニンクリアランスは、計算方法が複雑だという印象がありますが、意外と簡単に計算できます。また、クレアチニンクリアランスのみで用量が決まるため、シンプルな方法だともいえます。欧州ではこれまでCHA2DS2-VAScスコアに加えてHAS-BLEDスコアの使用を推奨してきました。しかしHAS-BLEDスコアはエビデンスに乏しく、また抗凝固療法の可否の判断に使うべきものではありません。このような背景もあり、2016年のESCガイドライン7)ではHAS-BLEDスコアが削除され、リスクの層別化法はシンプルになりました。
平山 リアルワールドでは、臨床試験ではみえなかった服薬アドヒアランスや服薬継続性の問題、また減量投与の実態などさまざまな課題がありますが、患者さんに最適な投与方法を模索するためにもリアルワールドエビデンスの蓄積が大切だと思います。

◆ 心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法にリバーロキサバンは使用可能

平山  日本においてもさまざまなレジストリ研究が進められているリバーロキサバンですが、なかでもJACRE8)はカテーテルアブレーションが施行されたNVAF患者を対象に、アブレーションを多く手掛ける施設が中心となって実施された登録観察研究です。
井上 JACREは、リバーロキサバンコホート(JACRE-R)とワルファリンコホート(JACRE-W)からなります(図2)。1,118例が登録されたJACRE-Rにおいて、リバーロキサバンの主要評価項目(血栓塞栓性イベントおよび重大な出血事象)の発現率は0.6%(7/1,118例)と、予想以上に少ない結果でした(内訳:血栓塞栓症2例、重大な出血事象5例)。この結果は、アブレーション周術期の抗凝固療法としてリバーロキサバンも適していることを示唆しています。
香坂 近年アブレーション周術期の抗凝固療法にNOACを使用するケースが多くなっています。JACREの結果は、日本のアブレーション周術期の現状が反映されており、今後参考にする機会も多いと思います。
平山 アブレーション前後のNOACの中止・再開はどのようなパターンが多いのでしょうか。
池田 日本では、術当日はNOACの投与を中止し、翌日から再開することが多いのではないでしょうか。
井上 JACREの結果8)でも、リバーロキサバンは翌日の朝から再開されていることが最も多く、術後の夕方に当日朝の分を内服されていることが次いで多かったです。
Patel NOACは半減期が短く、術前後の休薬・再開の自由度が高いことが、アブレーション周術期の抗凝固療法におけるメリットだと考えます。

◆ さまざまなリアルワールド(実臨床)エビデンスで安全性・有効性が再確認された
 リバーロキサバン

平山 リバーロキサバンは、国内第Ⅲ相試験J-ROCKET AF9)で安全性と有効性が確認されていますが、リアルワールドではいかがでしょうか。
池田 J-ROCKET AFにおけるワルファリン群、リバーロキサバン群の脳梗塞発症率はそれぞれ2.0%/年、0.8%/年、頭蓋内出血発現率はそれぞれ1.3%/年、0.7%/年でした10)表1)。リバーロキサバンでは現在、NVAF患者を対象とした前向き観察研究XAPASS11)が進行中です。XAPASSは2016年6月時点で9,860例のデータが収集、固定されていますが、この時点における脳梗塞および頭蓋内出血の発現率は、それぞれ0.9%/年、0.4%/年であり、J-ROCKET AFの結果と一貫した結果が得られています(表2)。
香坂 XAPASSによって、リバーロキサバンの臨床試験で除外されているCHADS2スコア0~1点の低リスク患者や脳梗塞急性期患者の状況を確認することができますね。また、日本では低体重の患者さんが多いという特徴があるため、XAPASSの結果が日本における今後の的確な診療に役立つものと期待しています。
井上 先にも議論があったように、リアルワールドでは、通常用量を選択すべき患者さんであっても主治医の判断で低用量が処方されていることがしばしばあります。こうした判断が正しいのかどうかを確認する点においてもリアルワールドエビデンスは重要で、将来の医療を正しい方向に導くものだと考えています。
Patel リバーロキサバンでは、AF患者を対象としたさまざまな研究が並行して実施され、多くのデータが集積されて実臨床に活かされています。今後もさまざまな患者背景でのリアルワールドエビデンスを検討する必要があるでしょう。
平山 AF患者は冠動脈疾患を合併していることが多いですが、こうした患者さんにおけるリバーロキサバンの有用性を検討するための臨床試験PIONEER AF-PCI12)やAFIRE13)も実施中です。近い将来、幅広い患者背景を想定したエビデンスが発表されることを期待しています。本日はありがとうございました。


目的:
安全性におけるリバーロキサバンのワルファリンに対する非劣性の検証。
対象:
日本人の非弁膜症性心房細動患者1,280例(心不全、高血圧75歳以上、糖尿病のうち2つ以上のリスクを有する、または虚血性脳卒中/TIA/全身性塞栓症の既往を有する患者)。
方法:
リバーロキサバン15mg(クレアチニンクリアランス30~49mL/minの患者には10mg)およびワルファリンプラセボ、あるいは用量調節ワルファリン(目標PT-INR:70歳未満は2.0~3.0、70歳以上は1.6~2.6)およびリバーロキサバンプラセボを1日1回投与し、最長31ヵ月間観察した。
有効性主要評価項目:
脳卒中または全身性塞栓症
安全性主要評価項目:
重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象
解析計画:
安全性主要評価項目に関して非劣性(安全性解析対象集団/治験薬投与下)を検証した。有効性の検証には十分な検出力を有していなかったが、有効性(プロトコール適合集団/治験薬投与下)についても評価し、さらに本試験における有効性および安全性成績を国外第Ⅲ相試験(ROCKET AF)と比較検討することで、日本人への外挿可能性を評価した。
結果:
■有効性:有効性主要評価項目(脳卒中または全身性塞栓症)の発症率は、リバーロキサバン群1.3%/年、ワルファリン群2.6%/年であった(ハザード比0.49[95%信頼区間:0.24~1.00]、p=0.050、Cox比例ハザードモデル)。
■安全性:安全性主要評価項目(重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象)の発現率は、リバーロキサバン群18.0%/年、ワルファリン群16.4%/年であり、リバーロキサバンのワルファリンに対する非劣性が検証された(ハザード比1.11[95%信頼区間:0.87~1.42]、非劣性マージン 2.0、p<0.001)。
有害事象:
リバーロキサバンが投与された非弁膜症性心房細動患者639例中326例(51.0%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められた。主要な事象の内訳は、鼻出血88例(13.8%)、皮下出血50例(7.8%)、歯肉出血40例(6.3%)等であった。重篤な副作用は35例(5.5%)に認められた。主要な事象の内訳は、突然死6例(0.9%)、出血性胃潰瘍3例(0.5%)、貧血、心不全、脳出血、鼻出血がそれぞれ2例ずつ(0.3%)等であった。リバーロキサバンの投与中止に至った有害事象(治験薬投与下、因果関係を問わない)は84例(13.2%)に認められた。主要な事象の内訳は、虚血性脳卒中8例(1.3%)、血尿4例(0.6%)、出血性胃潰瘍3例(0.5%)等であった。死亡に至った有害事象(全試験期間中、因果関係を問わない)は14例(6.3%)に認められた。死亡原因は、突然死(心突然死を含む)9例、虚血性脳卒中、頭蓋内出血、脳挫傷、肺炎および小細胞肺癌がそれぞれ1例ずつであった。
PT-INR:プロトロンビン時間国際標準比


    文献
  • 1)Fitzmaurice DA, et al. Br J Haematol 2016; 174: 610-623.
  • 2)Camm AJ, et al. Eur Heart J 2016; 37: 1145-1153.
  • 3)Patel MR, et al. N Engl J Med 2011; 365: 883-891.
  • 4) Hecker J, et al. Thromb Haemost 2016; 115: 939-949.
  • 5) Tamayo S, et al. Clin Cardiol 2015; 38: 63-68.
  • 6)日本循環器学会ほか.心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版).
  • 7)Kirchhof P, et al. Eur Heart J 2016. [Epub ahead of print]
  • 8)Okumura K, et al. Circ J 2016; 80: 2295-2301.
  • 9)Hori M, et al. Circ J 2012; 76: 2104-2111.
  • 10)大橋陽平ほか.血栓止血誌2015; 26: 385-395.
  • 11)イグザレルト®錠特定使用成績調査の現状報告−2012年4月18日~2016年6月1日時点の調査票収集・データ固定症例での中間集計
  • 12)Gibson CM, et al. Am Heart J 2015; 169: 472-478.e5.
  • 13)ClinicalTrials.gov ID: NCT02642419
  • COI:1~5)、7~13)はバイエルから支援あり

L.JP.MKT.XA.10.2016.1265