疾患関連情報

SPAF座談会

NOAC時代のAFアブレーション周術期の抗凝固療法

 非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)・リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®錠)の臨床使用開始から5年が経過し、リアルワールドエビデンス(RWE)が着実に蓄積されている。不整脈領域においてもNOACでは初めてとなる前向き無作為化試験VENTURE-AFや、日本人を対象とした観察研究JACREが報告された。本座談会では、国内外の不整脈を専門とするエキスパートにRWEの意義と解釈、臨床における応用について話し合っていただいた。

司会 熊谷 浩一郎 氏

◆ 臨床試験と一貫した結果が得られた国内外のリバーロキサバンのRWE

熊谷 非弁膜症性心房細動(NVAF)患者に対する抗凝固療法として、NOACが臨床導入されてから6年が経過し、RWEの構築が重視されるようになってきました。
里見 無作為化比較試験(RCT)では厳格な組み入れ基準/除外基準に則って患者選択が行われ、厳重に管理された環境下で治療やデータ収集が行われます。しかし、実臨床で遭遇する患者は多様な背景を有しており、また薬剤の用量設定なども医師の判断に基づいて行われるため、必ずしもRCTで得られた結果が当てはまるとは限りません。このようなRCTとリアルワールドのギャップを埋めるものとして、RWEは重要な役割を担うと考えられます。
熊谷 NVAF患者に対するリバーロキサバンの有効性・安全性は、国際共同第Ⅲ相試験ROCKET AF1)、ならびに国内第Ⅲ相試験J-ROCKET AF2)で確認されていますが、RWEについてはいかがでしょうか。
Cappato 国際前向き観察研究XANTUSでは、欧州、イスラエル、カナダの311施設でリバーロキサバンの投与を新たに開始したNVAF患者6,784例が登録され、1年間追跡されました3)。ROCKET AFで除外されていたCHADS2スコア0~1点の患者も含まれ、患者全体のCHADS2スコア平均値は2.0点でした。XANTUSにおける脳卒中/全身性塞栓症の発症率は0.8%/年、重大な出血の発現率は2.1%/年であり、ROCKET AFと一貫した結果が得られています。
熊谷 井上先生、日本のRWEについてご紹介ください。
井上 日本人は欧米人に比べて小柄で、出血リスクが高いなどの特徴があり、リバーロキサバンの承認用量についても通常用量15mg/日、低用量10mg/日と日本独自の設定がなされています。
 こうした背景のもと、NVAF患者を対象としたリバーロキサバンの国内前向き観察研究XAPASSが現在進行中で、2016年9月時点で約1万例のデータが収集、固定されています4)。XAPASSにはCHADS2スコア0~1点の患者が33%含まれており、ベースラインのCHADS2スコアの分布は、日本のAF登録研究であるFushimi AF Registry5)とほぼ同様で、登録症例の約半数は75歳以上の高齢者でした。
 J-ROCKET AFのリバーロキサバン群における重大な出血事象の発現率は3.00%/年、頭蓋内出血の発現率は0.65%/年であったのに対し、XAPASSの中間集計ではそれぞれ1.06%/年および0.47%/年でした。高リスク集団における頭蓋内出血の発現率は、高齢者0.60%/年、腎機能低下例0.81%/年、脳梗塞既往例0.87%/年でした。脳梗塞の発症率は、J-ROCKET AFのリバーロキサバン群で0.80%/年であったのに対し、XAPASSでは0.97%/年、高齢者、腎機能低下例および脳梗塞既往例ではそれぞれ1.42%/年、1.64%/年および2.01%/年でした()。
 以上より、XAPASSの中間集計結果は、全体集団、高リスク集団のいずれも、J-ROCKET AFの結果と一貫しているといえます。

◆ リアルワールドでの日本人高齢者・腎機能低下例における有効性と安全性

熊谷 XANTUS、そしてXAPASSのデータをご覧になっていかがでしょうか。
髙橋 両研究ともに、2スコア0~1点の患者を含むリアルワールドの患者集団において、臨床試験と一貫した結果だったことが重要です。また、XAPASSは75歳以上の患者を多く含んでいますので、高齢者における抗凝固療法のエビデンスとしても大変貴重です。
Cappato XAPASSの中で特に興味深いのは、腎機能低下例において、脳梗塞の発症率がJ-ROCKET AFと同程度であったにもかかわらず、頭蓋内出血が少なかった点です。
井上 一方、これらのRWEからは、実臨床においてNOACが不適切に減量投与される傾向にあることも明らかになってきました。リバーロキサバンは、クレアチニンクリアランス(CLcr)30~49mL/分の腎機能低下例に対しては低用量を選択するよう規定されています。しかし、XAPASSではCLcrが50mL/分以上であるにもかかわらず、低用量が選択された症例が全体の約4分の1を占めていました(図1)。
Cappato 同様の問題は、欧州でも認められます。例えば、XANTUSでは、1,410例(20.8%)が低用量のリバーロキサバン(15mg/日)で治療されていましたが、これらの患者の血栓塞栓症および重大な出血の発現率は、通常用量(20mg/日)群よりも高い傾向にあり3)、腎機能以外の要因を考慮して低用量が選択されている可能性が示唆されます。
熊谷 実臨床では腎機能が保たれていても、高齢などを理由に低用量が選択されるケースもあると思います。こうした減量投与について、先生方はどうお考えですか。
里見 通常用量を投与すべき患者に低用量を投与した場合、十分な有効性が得られないことを示唆するデータもありますので、やはり減量投与はその基準を満たす患者のみに行うべきだと考えます。
髙橋 私も同意見です。ただし、CLcrが境界値付近の高齢者などでは、安全性を重視して、低用量を考慮することはあると思います。

◆ 日本のアブレーション周術期におけるRWEでリバーロキサバンの有効性と安全性を確認

熊谷 次に、AFアブレーション周術期の抗凝固療法の話題に移ります。NOACは、ワルファリンに比べて薬効の発現や消失が速やかであり、導入も簡便であることから、アブレーション周術期に使用されるケースも増えています。
Cappato ブレーション周術期におけるNOACの使用については、十分なエビデンスがありません。そこで、アブレーション施行予定のNVAF患者248例を対象に、リバーロキサバンとワルファリンの継続投与を比較する無作為化臨床試験VENTURE AFを実施しました(図26)
 その結果、重大な出血の発現率は両群ともに低く、リバーロキサバン群では0例、ワルファリン群では1例でした。血栓塞栓イベントは、リバーロキサバン群では認められず、ワルファリン群では2例であり、アブレーション周術期の抗凝固療法として、リバーロキサバン継続投与は、ワルファリン継続投与と同様に有用であることが示唆されました。
熊谷 わが国でもアブレーションを多く手掛けている施設を中心に、前向き登録観察研究JACREが実施されました。
井上 JACREは、既にリバーロキサバンまたはワルファリンが投与されているアブレーション施行予定のNVAF患者を対象とした登録観察研究で、リバーロキサバンコホート(JACRE-R、1,118例)とワルファリンコホート(JACRE-W、204例)からなります(図37)。また、JACRE-Rではリバーロキサバンの投与方法などが主治医の判断に任されていたことから、日本のリアルワールドを反映したデータといえます。
 解析の結果、JACRE-Rにおける主要評価項目(血栓塞栓症および重大な出血の複合)の発現率は0.6%(7例)と低く、血栓塞栓症が0.2%(2例)、重大な出血が0.4%(5例)でした。また、非重大な出血の発現率は2.4%(27例)で、ヘパリンブリッジあり例でより多く認められました。
 アブレーション前後のリバーロキサバンは、8割以上の患者が術前日および術翌日の朝に投与されていました。また、42%の患者は術当日にも服薬しており、そのほとんどは術後でした。
 以上の結果から、日本のアブレーション周術期においても、リバーロキサバンは安全かつ有効に使用できると考えられます。

◆ アブレーション周術期におけるリバーロキサバン投与のタイミング

熊谷 Cappato先生、JACREの結果をご覧になっていかがでしょうか。
Cappato 大変素晴らしいデータだと思います。JACREにおけるイベント発現率は低く、日本のアブレーションの水準は世界でもトップレベルだと言えるでしょう。
 また、約6割の患者が術当日にリバーロキサバンを休薬していたのも興味深い点です。欧州では、リバーロキサバンの服用は夕食後が一般的であるため、術当日でも投与を中断せず、継続して投与しています。
熊谷 先生方は、アブレーション前後のリバーロキサバンはどのように投与されていますか。
髙橋 私たちの施設では、午前中にアブレーションを施行しますので、術当日の朝は投与を中止し、夕方から再開しています。
井上 当院も同じ方法です。
里見 私たちは、術当日の朝は休薬し、翌朝から投与を再開しています。術前の休薬時間が長い患者や持続性AF患者に対しては、ヘパリンブリッジを行っています。
熊谷 アブレーション周術期におけるリバーロキサバンの有用性は示されつつありますが、今後はより適切な投与方法の確立に向けて、術当日の投与方法などについても検討していくことが望まれますね。
 本日は、大変有意義なディスカッションをありがとうございました。

    文献
  • 1)Patel MR, et al. N Engl J Med 2011: 365: 883-891
  • 2)Hori M, et al. Circ J 2012; 76: 2104-2111
  • 3)Camm AJ, et al. Eur Heart J 2016; 37: 1145-1153
  • 4)イグザレルト®錠特定使用成績調査の現状報告‐2012年4月18日~2016年9月15日時点の調査票収集・データ固定症例での中間集計
  • 5)Akao M, et al. J Cardiol 2013; 61: 260-266
  • 6)Cappato R, et al. Eur Heart J 2015; 36: 1805-1811
  • 7)Okumura K, et al. Circ J 2016; 80: 2295-2301
  • COI:1)~7)はバイエルからの支援あり

ROCKET AF、XANTUSおよびVENTURE-AFは、リバーロキサバンの海外承認用法・用量(20mg 1日1回、CLcr 50mL/分未満では15mg 1日1回)で実施されました。国内外の臨床試験成績を用いた薬物動態シミュレーションの結果、日本人に15mgおよび外国人に20mgのリバーロキサバンを投与した際の曝露量は同程度であることが確認されています。なお、国内承認用法・用量は15mg 1日1回(CLcr 50mL/分未満では10mg 1日1回)です。

L.JP.MKT.XA.10.2017.1633