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「脳卒中治療ガイドライン2015」改訂のポイント
シリーズ 2 ~「Ⅱ脳梗塞・TIA」の改訂点を中心に~

   脳卒中治療ガイドライン2009(以下、2009年版と略す)が発表されてから既に5年以上が経過した。この間、脳梗塞・一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)の治療技術は飛躍的に進歩し、画期的な薬剤や治療機器が開発、国内導入された。
   今回の脳卒中治療ガイドライン2015(以下、2015年版と略す)では、こうした治療技術の進歩、新規薬剤や治療機器の開発・導入を反映して、いくつかの治療分野では大改訂がなされた。
   なかでも「Ⅱ脳梗塞・TIA」の章では、抗血栓療法に関する分野が主に改訂された(表1)。
   ここでは、富山大学附属病院 神経内科 教授の田中耕太郎先生に本章における主な改訂ポイントについて解説いただく。

  脳卒中治療ガイドライン2015「Ⅱ脳梗塞・TIA」の主な改訂のポイント

富山大学附属病院 神経内科 教授 田中 耕太郎 先生

脳梗塞急性期

rt-PAによる治療可能時間の延長と、抗血小板薬2剤併用の推奨

   2009年版からの主な改訂点は2点です。1点目は、「血栓溶解療法」の項で、遺伝子組み換え組織プラスミノゲン・アクティベータ(rtーPA)静注療法による治療可能時間が「発症3時間以内」から「発症4.5時間以内」へ延長されたことです(表2)。2点目は、「急性期抗血小板療法」の項で、心原性脳塞栓症以外の脳梗塞・TIAに対する亜急性期までの治療法として、抗血小板薬の2剤併用療法が新たに推奨されたことです。なお、急性期の抗凝固療法に関しては、2009年版からの大きな変更はありません。

脳梗塞慢性期

抗血小板薬の推奨グレードの見直し、NOACに関する推奨が追加

   2009年版からの改訂点として、再発予防のための抗血小板療法において、アテローム血栓性脳梗塞およびラクナ梗塞に対して、アスピリンやクロピドグレルに加え、シロスタゾールがグレードAでの推奨となりました(表3)。これは日本と中国で実施した臨床試験の結果が評価されたことに基づきます。

   また、抗凝固療法では、非弁膜症性心房細動(以下、NVAFと略す)を有する脳梗塞・TIA患者の再発予防に、NOACの推奨が加わったことが大きな改訂点になります。

再発予防のための抗凝固療法にNOACがグレードBで推奨

   抗凝固療法の選択肢は長年にわたりワルファリンのみでした。しかし、2011年以降、NOACが使用可能になり、NVAF患者の脳梗塞・TIA再発予防は一変しています。
   NOACは、いずれも脳卒中または全身性塞栓症の発症予防効果については、ワルファリンと同等かそれ以上であることが示されています。また、安全性に関しては、特に頭蓋内出血の発症を、NOACは大幅に低下させました。このことは、頭蓋内出血への懸念が大きい日本人には大きな利点です。2015年版でも、この点が高く評価されています。
   表4に、再発予防のための抗凝固療法の推奨の抜粋を示します。NVAFのある脳梗塞・TIA患者の再発予防として、ワルファリンと並んで、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンの推奨が加わりました。特に頭蓋内出血を含め重篤な出血合、NOACで明らかに少なく、NOACの選択をまず考慮するよう勧められるとした点が重要な点です。
   現在、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンについては脳梗塞・TIA既往例(以下、既往例と略す)におけるサブ解析結果が発表されています。いずれも全体成績と一貫した結果でした。また、これらの成績をメタ解析した結果、NOACはワルファリンに対し脳卒中または全身性塞栓症を有意に減少させ、大出血や頭蓋内出血の発症も有意に減少させました。一方で、既往例に対するNOACのエビデンスは十分とはいえません。リバーロキサバンのROCKET AFやJ-ROCKET AFでは、既往例が試験全体の半数以上を占めていた点で評価されます。しかし、それ以外の試験における既往例の占める割合は試験全体の2割程度です。そのため2015年版では、 NVAFのある脳梗塞・TIA患者の再発予防に対し、NOACをグレードBでの推奨としました。
   われわれ脳卒中専門医の立場からは、既往例のみを対象にNOACの有用性を検討したエビデンスの創出に期待したいところです。

抗凝固薬による治療開始時期については、エビデンスの創出が求められる

   NVAFを伴う脳梗塞は重篤で再発率も高く、抗凝固療法による再発抑制が期待されます。しかし、頭蓋内出血のリスクも高いことから、急性期の抗凝固療法開始時期についてはワルファリンを含め明確なエビデンスがないのが現状です。そのため、2015年版では、「ワルファリン、NOACの治療開始の時期に関しては、脳梗塞発症後2週間以内が一つの目安となる」とし、従来通りグレードC1での推奨としました。
   一方、NOACはワルファリンと比較して、抗凝固作用が速やかに発現すること、頭蓋内出血のリスクが低いことから急性期抗凝固療法の有力な選択肢と考えます。現在、日本において、NVAF患者の脳梗塞・TIA急性期からのリバーロキサバン投与による安全性・有効性を検討するRELAXED試験が進行中です。本試験を通じて、抗凝固療法の至適治療開始時期に関する日本発のエビデンスを創出していくことが重要だと考えます。

脳梗塞・TIA再発予防に対する今後の展望

   2004年にわが国はじめての脳卒中治療ガイドラインが発表され、以降10年以上が経過しました。今回、2回目の大きな改訂となりますが、この間、推奨グレードやエビデンスレベルの評価法に変化がありました。また、時代とともに臨床現場で使われなくなった薬剤や治療法、逆に新たに登場した薬剤や治療法もあります。そこで、今回の2015年改訂版では、それぞれの治療法および薬剤についてのエビデンスレベルと推奨グレードを厳しく再点検し、根拠となった臨床試験およびそれらのメタアナリシスについて、批判的吟味を徹底しています。
   しかしながら、欧米で行われた臨床試験の結果は、必ずしも日本人にあてはまるとは限りません。特に日本人は欧米人に比べ頭蓋内出血のリスクが高いという特性があります。そのため、本ガイドラインでは、それぞれの臨床試験結果を詳細に分析するとともに、日本のエビデンスや日本の実情を重視したものとなっています。
   歴史的には、rt-PA静注療法において欧米で承認されている0.9㎎/kgよりも少ない0.6㎎/kgが、日本独自の臨床試験や市販後研究の結果に基づき推奨されたという経緯があります。またワルファリンの至適目標域も、高齢者では海外より低い1.6-2.6での目標域が推奨されています。
   NOACに関しても、リバーロキサバンでは日本人向けに減量し、日本の基準に準拠したワルファリン療法と比較したJ-ROCKET AFが行われています。NOACの有用性はワルファリンに対する相対比で評価されます。ワルファリン療法における日本の実情を踏まえると、このことは、特に日本人NVAF患者に対するNOACの安全性を確認する上で大変重要な意味をもつと考えます。
   本ガイドラインの目指す、「日本人による、日本人のための、日本のエビデンスを重視したガイドライン」として、本指針が広く普及することがわたしたち脳卒中専門医の願いです。本ガイドラインの推奨に基づく治療を行っていただくことで、日本における脳梗塞患者さんが一人でも減少することを願ってやみません。

【エビデンスレベル】レベル1:RCTメタアナリシス、 レベル2:RCT/劇的な効果のある観察研究、 レベル3:非ランダム化比較コホート/追跡研究、 レベル4:症例集積研究/症例対照研究/ヒストリカルコントロール研究、 レベル5:メカニズムに基づく推論 【推奨グレード】A:行うよう強く勧められる(1つ以上のレベル1の結果)、 B:行うよう勧められる(1つ以上のレベル2の結果)、 C1: 行うことを考慮しても良いが、十分な科学的根拠がない、 C2:科学的根拠がないので、勧められない、 D:行わないよう勧められる

L.JP.MKT.XA.09.2017.1568