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「脳卒中治療ガイドライン2015」改訂のポイント
~「Ⅰ脳卒中一般」の改訂点を中心に~
シリーズ 1

   2015年 6月、日本脳卒中学会より「脳卒中治療ガイドライン2015」(以下、2015年版と略す)が公表された。「脳卒中治療ガイドライン2009」(以下、2009年版と略す)の刊行から6年が経過し、この間、治療技術の進歩や新薬の登場など、脳卒中診療の進歩は目覚ましいものがあった。これらの背景を踏まえ、2015年版では、最新知見に基づく大幅な変更が加えられた。2009年版同様、7章から構成され、その主たる改訂点は表1のとおりである。
   その中から、今回は、「第1章 脳卒中一般」の作成にあたり班長をつとめられた広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門脳神経内科学/教授の松本昌泰先生に、本章に おける主な改訂ポイントについて解説いただいた。


  「Ⅰ脳卒中一般」の改訂ポイント

広島大学大学院医歯薬保健学研究院 応用生命科学部門脳神経内科学 教授松本昌泰先生

主な改訂点について

   わが国は、2015年にいわゆる「団魂の世代」が65歳以上となり、ますます高齢化が加速されます。現在、わが国の「脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)」による死亡者は年間約13万人で、死亡原因の第4位を占めています。さらに「脳卒中」は寝たきりの最大の原因でもあり、その「発症予防」は、もっとも重要なテーマになります。
   表1が今回の「脳卒中治療ガイドライン2015」での主な改訂点になります。「Ⅰ脳卒中一般」では、急性期における全身管理や医療体制、脳卒中一般の発症予防、地域連携などについて、主に改訂が行われました。なかでも「3.発症予防」の項では、危険因子の管理として「高血圧」と「心房細動」に関し大きな変更が加えられました

たとえば「高血圧」では、後期高齢者の降圧目標が最新のエビデンスや国内外の高血圧治療ガイドラインでの降圧目標の改訂を受け、 150/90mmHg未満への降圧が推奨されました。
   また、「心房細動」では、非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(NOAC)の推奨が加わりました。

「心房細動」の改訂ポイント

「心房細動」の項における推奨内容は、表3に示すとおりです。
   2009年版では、脳卒中またはTIAの既往があるか、うっ血性心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病のいずれかの危険因子を2つ以上合併した非弁膜症性心房細動(NVAF)患者にはワルファリンが強く推奨される(グレードA)とされていました(表4)。
   2015年版も考え方としては2009年版と同様ですが、脳卒中リスクの層別化にCHADS2スコアの使用が明記されました。日本循環器学会でも本スコアによるリスク評価が推奨されています。
   抗凝固薬の使用はこのCHADS2スコアに応じて、推奨されることになりますが、従来は経口抗凝固薬としては唯一ワルファリンしかありませんでした。しかし、2011年以降のNOACの上市を受け、ワルファリンに加えすべてのNOACの推奨が加わったことが最も大きな改訂点となります(表5)。

ワルファリンとNOACの位置づけについて

   NVAF患者に対しては、NOACあるいはワルファリンのいずれかの使用が推奨されました。特に CHADS2スコア2点以上の場合には、NOACもしくは、ワルファリンによる抗凝固療法の実施が強く勧められるとしてグレードAでの推奨となっています。
   特にNOACは第Ⅲ相試験において、いずれの薬剤もワルファリンと比較して、脳卒中発症予防効果は同等かそれ以上、重大な出血発症率は同等かそれ以下、頭蓋内出血は大幅に低下することが示されています。
   このようなエビデンスを踏まえ、2015年版では、ワルファリンよりもNOACの使用を推奨する形になっています。

CHADSスコア1点の場合

   さらに、CHADS2スコア1点では、NOACによる抗凝固療法のみがグレードBで推奨されました。リバーロキサバンとエドキサバンでは、第Ⅲ相試験の中にCHADS2スコア1点の症例が含まれていませんでしたが、本ガイドラインでは、NOAC間での推奨レベルに差を設けず、同列での推奨としました。
   その理由は、血栓塞栓症リスクのみならず出血性合併症のリスクも高い二次予防症例での有用性が臨床試験で確認されていれば、二次予防の症例を主として診ているわれわれの経験上、一次予防の症例にも適用可能と判断したためです。

CHADSスコア0点の場合

   CHADS2スコア0点でも、65歳以上や血管疾患、心筋症の合併は他の危険因子と同様にリスクとなるとの報告もあります。しかし、十分な科学的根拠はなく、2015年版ではこれらの症例に対しては抗凝固療法を考慮して良い(グレードC1)という位置づけにしました。また、危険因子のない60歳未満のNVAF患者に対しても抗血栓療法を考慮しても良い (グレードC1)となっています。
   なお、NVAF患者に対するアスピリンの使用については、ワルファリンと比較したこれまでのエビデンスに加え、NOACの大規模試験でもアスピリンの有用性が確認されなかったことから、抗凝固薬の代替としてのアスピリン投与は推奨されないと位置づけています。

ガイドライン改訂と今後の展望

   日本人は欧米人と比較し、脳卒中の発症が多く、脳卒中の病型も異なります。人種的差異も示唆されることから、欧米での基準をそのまま日本人に適応することには懐疑的な意見もありました。そのため、「日本人による、日本人のための、日本のエビデンスを重視したガイドラインの作成が必要」という背景のもと、初版となる脳卒中治療ガイドライン 2004が発刊されました。その後、新たな治療法やエビデンスが次々と報告されており、2009年版に続き、今回、2回目の大改訂に至っています。
   ガイドラインは当然のことながら、「Evidence Based」であるべきです。しかしながら、ときに欧米 でのRCTの結果は必ずしも日本の実情に沿っていないことがあります。大切なことは、目の前の患者さんに最適な医療を提供することであり、本ガイドラインの作成にあっては、単に文献情報だけにとらわれず、われわれの臨床経験や日本の実情も十分配慮したものとしました。
   わが国は今後さらなる高齢化社会を迎えます。
日本人にとって脳卒中は依然深刻な問題であり、その発症を予防することは、重要なテーマのひとつとなります。なかでも、最も重篤な転帰となる「心房細動」を原因とする「心原性脳塞栓症」の発症予防への取り組みは急務となります。
   一方、その予防に必須となる抗凝固療法が十分に行われていないという現状があります。長い間、抗凝固療法においてはワルファリンがそのほとんどの役割を担わざるを得ませんでした。しかし、 NOACの登場により治療の選択肢が広がり、今回のガイドラインでも NOACに対する明確な推奨が行われたことは、大きな進歩だと思います。
   本ガイドラインが脳卒中専門医の先生方のみならず、一般医家の先生方にも広く普及し、これらに基づく治療を実践いただくことで、一人でも多くの患者さんが不幸な転帰から救われることを心より願っています。


L.JP.MKT.XA.09.2017.1567