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高齢心房細動患者における抗凝固療法の課題

 日本は未曽有の超高齢化社会を迎えようとしている。心房細動(AF)は高齢者に多くみられる不整脈疾患であり、重症脳梗塞である心原性脳塞栓症の原因疾患でもあることから、抗凝固療法を中心とした治療が重要となる。一方で、高齢AF患者では様々な併存疾患を有することも多く、また低体重、認知症、フレイル、ポリファーマシーといった高齢者特有の問題を抱えている。そのため診療の現場では、抗凝固療法を行うか否か、用量選択など悩むことも多いが、それを判断するための物差しがないことが最大の課題といえるかもしれない。
 そこで、われわれが行っている伏見AF患者登録研究(Fushimi AF Registry)からみえてくる、日本の高齢AF患者における抗凝固療法の現状と課題を中心に概説する。

日本人AF患者の半数以上が75歳以上の高齢者

 Fushimi AF Registryは、京都市伏見区の医療機関に通院するAF患者をできる限り全例登録し、患者背景や治療の実態調査、予後追跡を行っている。伏見区は、わが国の典型的な都市型人口構成であるため、Fushimi AF Registryのデータは、専門医だけでなく非専門医も含めたわが国のAF診療の実態を反映していると考えてよいだろう。
 2014年7月時点で追跡可能であった登録患者3,304例の平均年齢は73.7歳と高齢で、年齢分布は75歳以上が51.4%、80歳以上が30.8%、さらに85歳以上の超高齢者も14.5%を占めていた(図11、2)。この年齢分布から、日本人AF患者の半数以上が75歳以上の高齢者であることが示唆される。
 一方、経口抗凝固薬の処方率は全体で53.0%であり、十分な抗凝固療法が実施されているとはいえない現状が明らかになった。年齢別でみると75~79歳の60.1%をピークとして、その後は年齢が上昇するにつれて処方率が低下し、85歳以上では41.3%と有意に低下していた(p<0.01、χ2検定)。その背景には、出血リスクを懸念して、経口抗凝固薬の処方が手控えられている現状が窺える。

AF患者の血栓塞栓症リスクは年齢とともに上昇

 こうした背景下での年齢別の転帰から、高齢AF診療の課題が浮かび上がる。脳卒中/全身性塞栓症の発現率は、74歳以下の群で1.3%/年であったのに対し、75~84歳の高齢者群では2.8%/年、85歳以上の超高齢者群では5.1%/年と、高齢になるほど有意に上昇した。一方、これとは対照的に、大出血は年齢による有意な上昇はみられず、85歳以上の超高齢者においても2.0%/年であった(図2、表1)。
 AF患者の血栓塞栓症リスクの年齢に伴う上昇は、大出血のリスク上昇よりも顕著であるという本結果は、高齢という理由のみで抗凝固療法を手控える姿勢には注意する必要があることを示唆するものと考える。

高齢AF患者における抗凝固療法のベネフィット・リスク

 高齢になるほど抗凝固療法の重要性が高まる一方で、高齢者特有の問題が存在するため、抗凝固療法を行うか否かを一律に考えることは難しい。たとえば老年医学の分野では、最近、高齢者の虚弱を「フレイル(Frailty)」と表現し注目されているが、フレイルの高齢者では出血リスクを危惧して抗凝固療法が避けられる傾向があることが報告されている。さらにその転帰をみると、フレイル例では大出血の発現率や死亡率が高いと同時に、脳梗塞の発現率も有意に高かった3)
 日常診療下では、大規模臨床試験でそれほど多く検討されていないフレイルのような患者にも遭遇し、その場合、抗凝固療法を行ったほうがよいのかどうか悩むケースも多い。今後、同領域の知見の集積が望まれるが、フレイルということだけで抗凝固療法を控えるのではなく、個々の患者ごとに抗凝固療法のベネフィットとリスクを考慮し、患者(あるいは家族)の意向や希望を汲んで合意形成した上で、治療方針を決めることが大切である。

高齢AF患者に対するNOACのリアルワールドデータ

 高齢化が進む日本において、今後AF診療の主たる対象者は高齢者となることは容易に想像がつくが、臨床試験における高齢者の症例数は少なく、参考となるエビデンスが十分にあるとはいえない。では、高齢AF患者に対する抗凝固療法を検討する際に、何を拠りどころにすればよいのだろうか。それを補うのがリアルワールドデータであると考えている。
 最後に、臨床試験の限界と、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)のリアルワールドデータに寄せられる期待について述べる。

高齢AF患者の治療選択におけるリアルワールドデータの重要性

 治験をはじめとする臨床試験は、限定的な患者集団において、投与量、投与スケジュールなどが厳格に規定されたプロトコルの下で実施される。厳密な条件下で薬剤の有効性と安全性を評価するという点では重要であるが、併存疾患をもつ患者や高齢の患者などが除外されることも多い。また、登録されたとしても例数が少ないため、特定の背景をもつ患者に対する薬剤の有効性と安全性のデータを得ることは困難である。
 たとえばNOACに関しては、大規模臨床試験の除外基準に年齢の上限はないが、85歳以上のエントリーはごく少数でありエビデンスはほとんどない。さらに、欧米のAF患者の登録が中心となった大規模臨床試験では、平均体重が軒並み80㎏を超え、超高齢者でも平均70㎏を超えている。ところが、Fushimi AF Registryの登録患者をみると、平均体重は60㎏を下回り、超高齢者では50㎏を切っており、圧倒的に低体重である(表22)。また、日本人AF患者の特殊性として欧米人に比べて易出血性であることもあげられ、これは日本のワルファリンのPT-INR目標域が特に高齢者で低く設定されていることにもあらわれている。
 このようなわが国特有の特殊性がある一方で、大規模臨床試験における75歳以上の症例をさらに日本人に限ると数十例~百数十例程度であり、日本人高齢AF患者に対する有効性や安全性に関するデータは十分とはいえない。
 そのため、日本人高齢AF患者に対するNOACの有効性と安全性を確立するためには、リアルワールドにおける大規模なデータの収集と分析が重要となる。

NOACの大規模なリアルワールドデータへの期待

 現在、NOACの日本人高齢AF患者に対するリアルワールドデータとして、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®)の前向き観察研究(特定使用成績調査)であるXAPASSが進行中であり、その最終報告が待たれている。XAPASS中間集計における75歳以上の高齢AF患者の割合は48.7%(4,817例/9,896例)であり(図34)、Fushimi AF Registryの51.4%(図11、2)とほぼ一致する。日本のリアルワールドを反映しており、高齢AF患者に対する抗凝固療法の適応を検討する際の一つの目安になると考えてよいだろう。
 高齢AF患者に対する抗凝固療法については、世界の中でも高齢化が著しいわが国が先頭になって解決していかなければならない課題の一つと考える。抗凝固療法の中心がNOACへと世代交代していこうとする今、XAPASSのような日本人高齢AF患者に対するリアルワールドデータが集積されることにより、NOACの個々の患者への最適な使用指針が明確となり、より良好な心原性脳塞栓症予防が可能になると期待している。


    引用文献

  • 1) 赤尾昌治 編:これが伏見流! 心房細動の診かた、全力でわかりやすく教えます。 羊土社 2017: 39-45.
  • 2) Yamashita Y et al.: Chest 2016; 149: 401-412.
  • 3) Perera V et al.: Age Ageing 2009; 38: 156-162.
  • 4)イグザレルト特定使用成績調査の現状報告(2012年4月18日~2016年9月15日時点での調査票収集・データ固定症例での中間集計)
  • COI:4)はバイエルからの支援あり

L.JP.MKT.XA.07.2017.1527