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「2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン」改訂のポイント

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はじめに

 日本循環器学会による心房細動(AF)の薬物治療に関するガイドラインとしては,「不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版)」,「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」(以下,2013年改訂版)が公開されていました。今回はこれら2つに「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)」を加えた3つのガイドラインを統合する形で,「2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン」(以下,2020年改訂版)1)として発表しました。
 近年,大規模ランダム化比較試験(RCT)で明らかになってきたエビデンスに基づき,欧米諸国を中心にガイドラインが発行,あるいは改訂されてきています。しかし,これらRCTの多くは,欧米諸国が主体となって行われたものであり,使用できる薬剤や投与量に関して,わが国とは実情が異なります。また人種差や生活習慣の違い,遺伝的要因などを考慮すると,日本人に直接その結果を当てはめることへの大きな懸念がありました。これらの問題を解決すべく,わが国でも独自の臨床研究が計画され,その成果が構築されつつあります。
 そこで2020年改訂版は,わが国でのエビデンスをできるだけ考慮しました。2013年改訂版に比べ大きく変わった点としては,直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)の普及によってAFに対する抗凝固療法が大きく変遷してきたことを受け,その対象となる疾患の定義などをより明確にした点です。
 人工弁置換(機械弁・生体弁)はこれまで「弁膜症性」と定義されていましたが,2020年改訂版では生体弁は「非弁膜症性」と取り扱うことにしました。また,長きにわたってワルファリンの管理目標値はわが国独自の基準を設定してきましたが,わが国のエビデンスJ-RHYTHM Registry研究の結果に基づき,日本人に最適な基準として再設定したのが大きな特徴となっています。
 本ガイドラインは現時点における標準的な日本人向けの指針として努めました。しかし,新知見が加われば変更は加えられるものであり,普遍的なものではありません。治療方針は個々の患者さんの病態や意向を把握したうえで主治医によって決定されるものですので,本指針がより多くの先生方の日常診療の一助となれば幸いです。

 AFは日常診療で遭遇するもっとも一般的な不整脈であり,高齢化が著しいわが国ではその有病率は今後ますます増加していくことが予測されています。より有益で安全な治療が求められてくる中,非弁膜症性AF(NVAF)患者に対する抗凝固療法は,DOACの普及により,近年大きく変遷してきたといえます。この恩恵を適切に受けるため,より明確な対象疾患の定義,対象患者の評価が重要になったことが今回の改訂の背景となります。

1. 対象疾患の定義

 2013年改訂版では機械弁・生体弁はともに人工弁として,リウマチ性僧帽弁膜症(おもに狭窄症)とともに「弁膜症性」と定義していました。しかしその後,少数例ではありますが,生体弁術後のAF患者に対するDOACの使用成績が複数発表されました。有効性に関してDOACはワルファリンと同等,出血リスクについてはDOACで低い可能性が示唆されています。このような状況を踏まえ,2020年改訂版で生体弁は「非弁膜症性」として扱うこととしました。なお,生体弁術後3ヵ月間はワルファリン投与とし,その後にDOACへの切り替えは可能としました。その理由は,術後3ヵ月間におけるDOACのエビデンスがないためです。

2. リスク評価

 NVAFにおける血栓塞栓症のリスク評価は,欧米のガイドラインではCHA2DS2-VAScスコアが採用されています。しかし,2020年改訂版では2013年改訂版を踏襲し,CHADS2スコアを採用しました(表1)。これは,臨床現場でのリスク評価の普及を目的とした場合,より簡便なものがよいという点に加え,わが国の代表的なレジストリーの統合解析2)で,年齢(65~74歳),血管疾患,女性が血栓塞栓症の有意な危険因子ではなかったためです。
 一方,年齢(65~74歳)や血管疾患は,2013年改訂版でもその他のリスクとして扱っており,2020年改訂版ではこれらに加え,わが国のレジストリー研究から明らかになった腎機能障害や低体重(≦50kg)などが追加されました(図1)。
 抗凝固療法の推奨に関して,2013年改訂版ではCHADS2スコア1点ではDOACの推奨に差がありました。しかし,2020年改訂版では1点以上ではすべてのDOACを推奨,ワルファリンは考慮可としました(図1)。
 その他,ワルファリンの国際標準比(INR)管理目標についても,これまでの年齢に基づく推奨範囲から改訂されました。脳梗塞の既往がない一次予防で比較的低リスク(CHADS2スコア2点以下など)と,脳梗塞既往を有する二次予防や高リスク(CHADS2スコア3点以上など)に分類しています。前者では年齢にかかわらず1.6~2.6,後者では≧70歳で1.6~2.6,<70歳では2.0~3.0とし,なるべく2.0以上を目指すとしました。これは,J-RHYTHM Registry研究3-5)で,日本人のINR至適範囲として年齢にかかわらず1.6~2.6が同定されたこと,一方で脳梗塞発症後のAF患者では,≧2.0で管理されていた場合に重症度や予後が比較的良好であったことに基づきます。

 DOAC投与が可能なNVAF患者に対し,2020年改訂版ではワルファリンよりDOACがクラスI,エビデンスレベルAで推奨されました(表2)。出血リスクが高い患者に対しては,第III相試験や東アジア人集団のサブグループ解析の結果を踏まえて一部のDOACが推奨されています。

 ただし,DOAC間の直接比較は行われておらず,また大規模RCTの登録患者の背景は薬剤ごとに異なるため,DOAC間を単純に比較することはできません。重要な点は,いずれのDOACも定められた用法・用量にしたがって投与された大規模臨床試験において,ワルファリンに比し同等以上の有効性および安全性が認められたということです。そのため,DOAC投与の際は,定められた用法・用量の遵守が原則となります(表3,表4)。

1. 除細動時の抗凝固療法

 除細動施行前後の抗凝固療法についても,すべてのDOACが追加されました(図2)。服用期間は,除細動施行前にリスクの高い症例では経食道エコーを施行し,心房内血栓が認められた場合は ≧ 3週間,除細動後は ≧ 4週間の抗凝固療法を行います。

2. 観血的手技施行時の抗凝固療法

 観血的手技施行時の抗凝固療法について,2020年改訂版では手技ごとに出血リスクを定義し,それぞれに低リスク(休薬不要),中リスク(可能なら休薬を避ける),高リスク(休薬が必要)と定義しました(表5)。AFアブレーションは出血と塞栓症の両方が高リスクとして,抗凝固薬の継続ないし短期休薬が推奨されています。
 ただし,これらの分類はあくまでも標準的な観血的手技のケースを想定したものです。たとえ出血低リスクに分類される手技であっても,症例によっては出血リスクが高く,休薬を要するケースが存在することには留意すべきです。また,本推奨は待機的な手技が対象であり,緊急手術には適応されません。

3. 出血時の対応

 出血時の対応については,重症度に応じたフローチャートを提示し,より簡便に理解しやすいようなものとなっています。2013年改訂版からの変更点としては,ワルファリンの効果を是正する場合にビタミンK投与以外にも,プロトロンビン複合体製剤などについても推奨クラスIとしました。
 DOAC服用中の出血については,2013年改訂版より大幅に加筆されました。ダビガトラン療法中ではイダルシズマブ(推奨クラスI,エビデンスレベルB),Xa阻害薬療法中では,わが国では未承認ですがandexanet alfa(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC)が追加されています。

 2020年改訂版では,虚血性心疾患合併AFに対する抗血栓療法についての項目が新たに設けられました。AF患者における虚血性心疾患の合併は1~2割程度と比較的高く,実臨床でもそのような症例に直面することが多くなっています。
 これらの患者では抗血小板薬と抗凝固薬による管理が必要となりますが,出血リスク上昇の問題がありました。なかでも冠動脈ステント留置後のAF患者に対しては,抗血小板薬2剤併用療法に抗凝固薬を加えた3剤併用療法が必要となります。ただし,3剤併用療法は出血リスクが大幅に上昇するため,適切な薬剤選択とその併用期間が課題でした。
 しかし,WOEST研究6)を皮切りに抗血小板薬を減らすという考え方が支持されるようになりました。さらにPIONEER AF-PCI研究7)から,抗血小板薬との併用においてもワルファリンよりもDOACを支持する結果が示されています。そこで2020年改訂版では,これらの患者に対してはワルファリンよりもDOACでの抗凝固療法を推奨クラスI,エビデンスレベルAでの推奨としました(表6)。
 抗血栓療法の併用期間については,血栓リスクならびに出血リスクの程度により推奨内容が定められました(表6,図3,表7)。先述のエビデンスを踏まえて,周術期以降は2剤併用療法をクラスI,エビデンスレベルAでの推奨としています。
 一方,慢性期(1年以降)の冠動脈ステント留置例あるいは冠血行再建術を受けていない冠動脈疾患合併AF患者では,これまで十分なエビデンスはありませんでした。しかし,昨年発表されたAFIRE研究8)の結果を受け,抗凝固薬の単剤投与を推奨クラスI,エビデンスレベルBでの推奨としました。ただし,現時点でエビデンスとして示されているのはリバーロキサバンのみである点は注意が必要です。

  • 1) 日本循環器学会,日本不整脈心電学会.2020 年改訂版不整 脈薬物治療ガイドライン. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp- content/uploads/2020/04/JCS2020_Ono.pdf
  • 2) Suzuki S, Yamashita T, Okumura K, et al. Incidence of ischemic stroke in Japanese patients with atrial fibrillation not receiving anticoagulation therapy--pooled analysis of the Shinken Database, J-RHYTHM Registry, and Fushimi AF Registry. Circ J 2015; 79: 432–438. PMID: 25501800
  • 3) Inoue H, Okumura K, Atarashi H, et al. J-RHYTHM Registry Investigators. Target international normalized ratio values for preventing thromboembolic and hemorrhagic events in Japanese patients with non- valvular atrial fibrillation: results of the J-RHYTHM Registry. Circ J 2013; 77: 2264–2270. PMID: 23708863
  • 4) Yamashita T, Inoue H, Okumura K, et al. J-RHYTHM Registry Investigators. Warfarin anticoagulation intensity in Japanese nonvalvular atrial fibrillation patients: a J-RHYTHM Registry analysis. J Cardiol 2015; 65: 175–177. PMID: 25169015
  • 5) Kodani E, Atarashi H, Inoue H, et al. J-RHYTHM Registry Investigators. Target intensity of anticoagulation with warfarin in Japanese patients with valvular atrial fibrillation – subanalysis of the J-RHYTHM Registry. Circ J 2015; 79: 325–330. PMID: 25492037
  • 6) Dewilde WJ, Oirbans T, Verheugt FW, et al. WOEST study investigators. Use of clopidogrel with or without aspirin in patients taking oral anticoagulant therapy and undergoing percutaneous coronary intervention: an open-label, randomised, controlled trial. Lancet 2013; 381: 1107-15. PMID: 23415013
  • 7) Gibson CM, Mehran R, Bode C, et al. Prevention of Bleeding in Patients with Atrial Fibrillation Undergoing PCI. N Engl J Med 2016; 375: 2423-34. PMID: 27959713
  • 8) Yasuda S, Kaikita K, Akao M, et al. AFIRE Investigators. Antithrombotic Therapy for Atrial Fibrillation with Stable Coronary Disease. N Engl J Med 2019; 381: 1103-1113. PMID: 31475793
PP-XAR-JP-1591-10-05