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静脈血栓塞栓症(VTE)の外来治療をどのように進めていくか

 リバーロキサバンは非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)で初めて、静脈血栓塞栓症(VTE)の発症初期から維持期までを経口薬単剤で治療するシングルドラッグアプローチを実現した。2019年にはHoT-PE試験1)の結果が発表され、慎重に選択された低リスクの急性肺血栓塞栓症(PE)患者において、リバーロキサバンによる外来治療の有用性が示された。今回、HoT-PE試験の研究責任者で、欧州心臓病学会(ESC)/欧州呼吸器学会(ERS)の急性PE診療ガイドライン作成委員会班長を務めるStavrosV.Konstantinides氏を迎え、新たな知見やガイドラインを踏まえ、どのようにVTEの外来治療を進めていくかについて日本の専門医3氏と話し合っていただいた。

司会 山本 剛 氏

◆ リバーロキサバンによるVTE治療のエビデンス:
シングルドラッグアプローチにより早期退院・外来治療も可能に

山本 PE/深部静脈血栓症(DVT)に対する薬物療法は、NOACの登場によりその在り方が大きく変わりつつあります。
杉村 PE/DVT治療において、モニタリングや用量調節の不要なNOACが使用できるようになった意義は大きいと思います。中でもリバーロキサバンは非経口抗凝固薬を先行させることなく、初期治療から維持治療まで単剤で管理するシングルドラッグアプローチを可能にしました。海外第III相試験EINSTEIN-PE2)およびEINSTEIN-DVT3)の統合解析4)では、リバーロキサバンによるシングルドラッグアプローチの有効性と安全性が示されました。サブグループ解析4,5)では、高齢者や腎機能低下例などリスクを有する患者においても、同様の結果でした。
 こうした知見に基づき、近年改訂された『肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)』6)では、血行動態の安定している急性PE患者ならびに中枢型DVT患者に対し、リバーロキサバンなどNOAC2剤を高用量による初期治療後に常用量で投与することがクラスI、エビデンスレベルAで推奨されています。
Konstantinides 私たちは、低リスクの急性PE患者に対するリバーロキサバンを用いた外来治療の有用性を検討すべく、前向き観察研究HoT-PE試験1)を実施しました(表1)。対象は、血行動態が安定しており重篤な併存疾患がなく、右室機能不全および右心内浮遊血栓のない急性PE患者です。これらの患者に対し、入院中にリバーロキサバンを開始し、発症から48時間以内に退院させた後、3カ月間追跡しました。
 その結果、入院期間は34時間(中央値)で、主要評価項目である登録後3カ月以内の症候性VTEの再発率または致死的PEの発現率は0.6%(3/525例)、重大な出血の発現率は1.2%(6/519例)と良好な成績が示されました。これらの結果から、低リスクPE患者において、リバーロキサバンによる早期退院と外来治療の有用性が確認されたといえます。

表2

◆ がんを有するPE患者も状態に応じて外来治療は可能

山本 急性PE患者において早期退院や外来治療を考慮する際には、適応となる患者を慎重に見極める必要があります。
Konstantinides 2019年に改訂されたESC/ERSの急性PE診療ガイドライン7)では、早期退院や外来治療を考慮できる低リスク患者の分類がより厳格になりました。血行動態の安定している全てのPE患者に対して、臨床リスク評価で低リスクであることに加えて、心臓超音波検査またはCT肺動脈造影(CTPA)で右室機能障害が陰性であることを確認するとの記述が新たに追加されました。右室機能評価を必須としたのは、近年のメタ解析において、臨床リスクスコアにより低リスクと診断された症例であっても、右室機能障害があれば早期死亡リスクが高いとの結果が示されたためです8)
杉村 日本では、既に心臓超音波検査による右室機能評価が広く行われていますので、欧州のガイドラインが日本の実情に近づいてきたと感じます。
山下 日本では急性PEの臨床リスク評価に簡易版PESIスコアが用いられますが、「がん」が評価項目に含まれるため、がん合併PE患者は必然的にスコア1点以上の高中リスクに分類されます。こうした患者は他にリスク因子がなくても、入院が必要なのでしょうか。
Konstantinides がん患者であっても化学療法が終了し、容態が安定していれば外来治療は可能です。
 PESIスコアはがん患者のリスクを過大評価する可能性があるため、ESC/ERSのガイドライン7)では、PESIスコアに加え、評価項目にがんや年齢が含まれていないHestia基準も使用可能としました。Hestia基準と右室機能評価に基づく外来治療の適応選択はHoT-PE試験でも採用されており、実臨床においても有用であると考えられます。

◆ 簡易版PESIスコア0点+右室機能障害なしが外来治療可の指標

山本 次に、山下先生に日本のVTE治療の現状について解説していただきます。
山下 ワルファリン時代のデータになりますが、私たちが実施した多施設コホート研究COMMANDVTERegistry9)には、2010年1月~14年8月に急性症候性VTEと診断された患者3,027例が連続的に登録されています。興味深いことに、これらの患者の76%は院外でVTEを発症していました。また、院外でPEを発症した患者の90%は入院で治療されており、入院期間中央値は17日と長いことが示されています。
 一方で、同研究に登録されたPE患者の簡易版PESIスコアを見ると、0点例が22%を占めており、その30日死亡率、VTE再発率、重大な出血の発現率は、1点以上の患者に比べて低いことが明らかになりました10)。この結果から、日本人PE患者においても、簡易版PESIスコアを用いて低リスク患者を同定することは可能であり、低リスクに該当する約20%の患者では、早期退院や外来治療を考慮できると考えられます。
杉村 NOACが普及して以降、PE患者の入院期間はさらに短縮され、当院では1週間前後になっていると思います。
山下 私の経験でも、10日を超える入院は重症例以外ほとんど見なくなってきました。また当院では、簡易版PESIスコアが0点で右室機能障害のないPE患者については、何か問題が起きた場合はすぐに来院するという条件付きで、外来治療を選択することが増えています。
山本 NOACのうち3剤がVTEの治療に使用可能ですが、外来治療という観点からはどのようにお考えですか。
山下 シングルドラッグアプローチが可能なリバーロキサバンは有用性が高いと思います。
杉村 リバーロキサバンには、VTEの再発リスクが最も高い発症初期3週間11)にしっかりと強化療法が行えるという利点があります。国内第III相試験J-EINSTEINPEおよびDVT12)では、強化療法終了時および治療終了時に、従来療法を上回る血栓消失効果が示されました(図、表2)。この結果から、慢性期に見られる慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)などの後遺症の観点からも良い選択肢になると考えられます。
Konstantinides VTEに使用可能なNOACはいずれも有効性・安全性が示されていますが、私は1日1回投与という利便性からリバーロキサバンを使うことが多いです。

図 表2

◆ 可逆的なリスク因子を有する患者以外は長期の抗凝固療法を考慮

山本 急性PE患者では、CTEPHなどの重篤な後遺症を発症する場合もあるため、退院後も定期的にフォローアップを行うことが重要です。
Konstantinides ESC/ERSのガイドライン7)では、PE発症の3~6カ月後に、呼吸困難の症状および呼吸困難や換気障害に伴う運動機能制限、VTEの再発の徴候、抗凝固療法に伴う出血性合併症などの評価が初めて採用されました。退院後のフォローアップでは、専門医とかかりつけ医との連携も重要です。これを推進する目的で、ドイツではPE発症3カ月後および1年後に、入院していた施設がフォローアップ診療を行うという取り組みを始めています。
山本 VTE患者に対する抗凝固療法は、いつまで継続すべきでしょうか。
Konstantinides 非常に難しい問題ですが、VTE患者を対象としたリバーロキサバンの長期投与試験に基づく解析では、手術や外傷などの主要な一過性の出血リスク因子を有する患者以外は、いずれもVTE再発リスクが高く、長期抗凝固療法のベネフィットがある可能性が示されています12)。また、ESC/ERSガイドライン7)においても、主要な一過性または可逆的なリスク因子のある患者を除く全てのPE患者に対し、3カ月以上の抗凝固療法を推奨するとされており、大部分のPE患者で長期抗凝固療法が必要になると考えます。
山下 私も、明らかな誘因がないVTEに対しては、再発リスクが高いことを考慮すると長期間の抗凝固療法が必要だと思います。その際、重要なのは出血リスクの評価です。VTEの領域で出血リスクのスコアが確立されれば、治療期間を決める際の参考になると思います。
山本 抗凝固療法の継続期間については、出血リスクスコアの開発も含めて、今後もさらなる検討が必要ですね。本座談会を通じて、シングルドラッグアプローチが可能なリバーロキサバンは、外来治療という観点からも非常に有用な選択肢になることが理解できました。日本でも低リスクの急性PE患者に対する外来治療が進みつつありますが、そのさらなる普及を目指し、先生方には今後も引き続き啓発に努めていただきたいと思います。本日は貴重なご討議をありがとうございました。

    文献
  • 1)Barco S, et al. Eur Heart J, 2020; 41: 509-518.
  • 2)The EINSTEIN-PE Investigators. N Engl J Med 2012; 366: 1287-1297.
  • 3)The EINSTEIN Investigators. N Engl J Med 2010; 363: 2499-2510.
  • 4)Prins MH, et al. Thromb J 2013; 11: 21.
  • 5)Bauersachs RM, et al. Thromb J 2014; 12: 25.
  • 6)日本循環器学会、他.肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版).
    http://j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf (2020 年 3月閲覧)
  • 7)Konstantinides SV, et al. Eur Heart J; 2020; 41: 543-603.
  • 8)Barco S, et al. Eur Heart J 2019; 40: 902-910.
  • 9)Nishimoto Y, et al. Circ J 2019; 83: 1377-1384.
  • 10)Yamashita Y, et al. Eur Heart J Acute Cardiovasc Care 2018,
    https://doi.org/10.1177/2048872618799993 (2020年3月閲覧)
  • 11)Laliberté F et al. Curr Med Res Opin 2014; 30: 1513-1520.
  • 12)Yamada N, et al. Thromb J 2015; 13: 2.
  • 13)Prins MH, et al. Blood Adv 2018; 2: 788-796.
  • COI : 1-4)、6)、8)、12 -13)はバイエルの資金により行われた。また、著者にバイエルより講演料、コンサルタント料を受領している者が含まれる。
PP-XAR-JP-1450-27-02