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PE/DVT座談会


初期治療から維持療法までを単剤で行うシングルドラッグアプローチ*の有用性が国内外の臨床試験で確認された第Xa因子阻害剤リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®錠)は、2015年9月に「深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制」の適応を取得し、現在もさまざまな研究が進行中である。今回、肺血栓塞栓症(PE)治療の第一人者であるStavros V. Konstantinides氏をドイツよりお招きし、リバーロキサバンの臨床試験とリアルワールド(実臨床)双方のエビデンスをご紹介いただくとともに、PE/深部静脈血栓症(DVT)治療における現在の課題やリバーロキサバンの位置づけ、リバーロキサバンへの今後の期待についてご討議いただいた。

*初期治療から維持療法までリバーロキサバン単剤投与を可能とした治療コンセプト




  基調講演
  PE/DVT治療における抗凝固療法の進歩 ―リバーロキサバンの知見を通じて

Prof. Stavros V. Konstantinides
Center for Thrombosis and Hemostasis, University Medical Center of the Johannes
Gutenberg University, Germany
Department of Cardiology, Democritus University of Thrace, Greece

◆ リアルワールド(実臨床)エビデンスでも示されたリバーロキサバンの有用性

  従来、PE/DVTの標準的な治療は、ヘパリンなどの注射剤とワルファリンを併用し、ワルファリンのコントロール安定後にワルファリン単独投与に移行するというものでした。この治療法は良好な治療効果をもたらしますが、簡便性や出血リスクの面で課題を抱えていました。こうした背景のなか、PE/DVTに対する抗凝固療法の新たな選択肢として登場したのが非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)です。
  なかでもリバーロキサバンは、ヘパリンなどの注射剤による初期治療を必要とせず、治療開始時から経口薬単剤によるシングルドラッグアプローチが可能であり、その優れた有効性、安全性は海外大規模第Ⅲ相臨床試験 EINSTEIN-PE1)、EINSTEIN-DVT2)で検証されました(詳細:EINSTEIN-PE/DVT結果)。特に、重大な出血事象の発現率は、リバーロキサバン群で1.0%、従来療法群で1.7%と、リバーロキサバン群で低値でした3)
  大規模臨床試験で得られたこの優れた有用性は、リアルワールド(実臨床)エビデンスでも示されています。本領域として初のNOACを用いた国際共同前向き観察研究XALIA4)では、急性DVT患者(PE合併例を含む)を対象とし、リバーロキサバンと従来療法の有効性および安全性が比較検討されました。リアルワールド(実臨床)で5,000例以上もの患者が登録された本研究の結果は、EINSTEIN-DVTの試験成績と一貫しており、大規模臨床試験で確認された有用性がリアルワールド(実臨床)でも再確認されました()。
  シングルドラッグアプローチを活用すれば、これまで入院治療が当然とされてきたPE患者でも、病態によっては早期退院、外来治療も期待できます。この可能性に、より明確な指針をもたらすべく現在実施されているのがHoT-PE5)です。HoT-PEは右室拡大、右室機能不全および右房右室に浮遊血栓のない急性PE患者を対象とし、リバーロキサバンの初回投与は入院中に行い、48時間以内に退院させて、3ヵ月間にわたり追跡する、目標症例数1,050例の大規模前向き観察研究です6)。ESC急性PEガイドラインでは外来治療が推奨されている低(Low)リスクの患者から入院加療が推奨されている中〜低(Intermediate-Low)リスクの患者までをも含むこの新たなリアルワールド(実臨床)データ6)は、興味深い結果をもたらすことが期待されます。

※:当初DVTのみの患者を対象としていたが、PEに対する欧州連合(EU)での認可後、PEを合併したDVT患者も組み入れ可能とした。

◆ 長期投与における有効性、安全性を確認したEINSTEIN-Extension

   それでは、PE/DVTに対する抗凝固療法はいつまで継続するべきでしょうか。それは非常に難しい質問であり、議論が続いています。ACCPガイドラインでは、危険因子が一過性の場合や危険因子が特定されない特発性の患者で出血リスクが高い場合には3ヵ月、特発性患者で出血リスクが中~低の場合やがん患者では、それ以上の継続が提案・推奨されています7)。また、6ヵ月間の抗凝固療法を受けた特発性PE患者を対象にワルファリンの延長治療を検討した無作為化プラセボ対照比較試験PADIS-PEでは、無作為化後18ヵ月時点でワルファリンによる抗凝固療法を中断した直後からVTEの再発率が上昇し始めたことが報告されています8)。これは、特発性PEに対する抗凝固療法は2年以上の継続が必要であることを示唆しています。
  NOACの長期投与に関するデータはまだ少ないのですが、リバーロキサバンでは、長期投与の有効性および安全性を検討するEINSTEIN-Extension2)、EINSTEIN-CHOICE9)といった試験が実施されています。EINSTEIN-Extensionは、6〜14ヵ月間の抗凝固薬投与を受けた症候性PE/DVT患者を対象とし、6または12ヵ月間にわたりリバーロキサバン20mg 1日1回(海外用量)を投与した無作為化プラセボ対照試験です。約半数がEINSTEIN-PE/DVTからの参加症例であり、有効性主要評価項目である症候性VTEの再発はリバーロキサバン群で82%の有意なリスク低下を示しました〔ハザード比(HR):0.18、95%信頼区間(CI):0.09-0.39、p<0.001、Cox比例ハザードモデル〕(図1)。安全性主要評価項目である重大な出血事象はリバーロキサバン群で0.7%(4例)、プラセボ群では認められませんでした。なお、リバーロキサバン群で発現した重大な出血はいずれも臨床的に管理可能な出血でした。EINSTEIN-CHOICEは、6〜12ヵ月間の抗凝固薬投与を受けた症候性PE/DVT患者を対象とし、1年間にわたりリバーロキサバン10mg 1日1回(PE/DVTの治療および再発抑制では未承認用量)、20mg 1日1回(海外用量)またはアスピリンを投与する無作為化試験です。2016年8月時点で3,000例以上が登録されており、現在も進行中です。PE/DVTに対する抗凝固療法を最初の数ヵ月で中断した後、アスピリンに切り替えるという治療は今も行われていますが、本試験の結果が報告されれば、アスピリンへの切り替えとNOACの継続のどちらが有用性が高いかの指針となるデータが示されるのではないでしょうか。


  ディスカッション
  NOAC登場により変化し続ける抗凝固療法

◆ シングルドラッグアプローチにより早期退院、外来治療が可能に

阿古  現在実施中のHoT-PE、EINSTEIN-CHOICEも含め、リバーロキサバンの興味深い試験をご紹介いただきました。
横井  アスピリンによるVTE再発予防効果については限定的なデータしかないのが実情だと思います。そのため、EINSTEIN-CHOICEの結果はとても楽しみですね。
新家  リバーロキサバンは日本でも海外と同様のプロトコールで国内第Ⅲ相試験J-EINSTEIN PE/DVT10)が実施され、シングルドラッグアプローチの有効性、安全性が日本人でも確認されていますね。本試験では画像検査による血栓消失率(血栓消失が認められた患者の割合)が評価されており、初期強化療法後(治験薬投与開始22日目)の血栓消失率はリバーロキサバン群で31%と、従来療法群16%の約2倍でした(図2)。評価例数は少ないですが、これは注目すべき結果だと思います。
阿古  シングルドラッグアプローチは従来療法に比べて管理も簡便であり、医師と患者双方にとって負担の少ない治療だと思いますが、より重篤な病態であるPEに対しては、もう少し詳細な検討が必要ではないかと考えています。先生方は、どのようにリバーロキサバンを投与していますか。
横井  われわれの施設では、PE患者には最初に未分画ヘパリンを短期間投与し、その後リバーロキサバンの初期強化療法に切り替えています。血栓の画像評価やD-dimerの顕著な低下をみても、リバーロキサバンの15mg 1日2回投与による初期強化療法は非常に効果的であるという実感をもっています。
田邉  当施設ではCTスキャンにより無症候性のPEを偶然発見することがよくあります。状態が安定していれば、こうした患者は最初から外来治療によるシングルドラッグアプローチを考慮します。比較的若い患者や、低リスク患者を中心にシングルドラッグアプローチを実施しており、これまでのところ大きな問題はありません。
新家  シングルドラッグアプローチを適切に活用することにより、PE患者でも入院期間の短縮や外来治療が可能ということですね。
Konstantinides  PE患者の入院期間は国によって大きく異なりますね。
新家  日本では入院期間が長い傾向があります。
Konstantinides  欧州のなかでも、スペインでは約10日間と長く、ドイツでは約4日間、オランダでは1日間です。PE患者の入院治療をどれぐらいの期間続けるべきかという問題に対しては、各国の医師たちの間で考え方に大きな相違があるようです。


◆ 個々の患者における適切な初期強化療法の期間はさらに検討が必要

阿古 リバーロキサバンでは臨床試験での投与法に基づき、初期強化療法が発症後の初期3週間とされていますが、この継続期間についてはどうお考えですか。
新家  NOACを用いた抗凝固療法における初期治療は薬剤によって大きく異なり、初期強化療法の期間がもっと短い薬剤もあります。実臨床での個々の患者における適切な初期強化療法の期間については、さらなる検討が必要ではないでしょうか。われわれの施設では、シングルドラッグアプローチを実施する際、初期強化療法開始後1~2週間で血栓の画像評価を行っており、その評価で血栓の消失が確認できれば、維持療法に切り替えています。
Konstantinides  規定されている用法・用量で治療を行うことはもちろん重要ですが、一方で、医師が熟慮のうえ、患者に適した治療を試みることに私は同意します。臨床試験でリバーロキサバンの初期強化療法が3週間に設定されたのは、従来療法で初期3週間のVTE再発率が特に高いことが報告されていたこと11)や第Ⅱ相試験において1日2回の強化療法が3週間後の画像評価で良好な血栓退縮効果を示した12)からですが、それより以前に血栓の消失が認められれば、出血リスクを考慮して維持療法に移行するのは実際的なアプローチだと思います。
田邉 日本では多くの医師が画像検査による血栓の確認を行っているため、そうした医師たちは初期強化療法をより短い期間で実施することを好むかもしれません。
Konstantinides 心房細動患者における抗凝固療法に比べると、本領域のリアルワールド(実臨床)エビデンスはまだ少ないのが現状ですが、リバーロキサバンにおける現在実施中の数々の調査が、こうした疑問に回答をもたらしてくれるのではないでしょうか。
阿古 欧州を中心としたリアルワールド(実臨床)エビデンスであるXALIAの結果や、J-EINSTEINの血栓消失データは非常に示唆に富むものでした。日本のリアルワールド(実臨床)でも特定使用成績調査(PMS)が進行中のリバーロキサバンは、今後のPE/DVT治療への大きな貢献が期待されます。本日はありがとうございました。




目的:
有効性における低分子量ヘパリン(エノキサパリン)/ビタミンK拮抗薬(従来療法)に対する非劣性の検証
対象:
EINSTEIN-PE;急性症候性PE患者(症候性DVTの有無を問わない)4,833例、EINSTEIN-DVT;急性症候性DVT患者(症候性PE を伴わない)3,449例
方法:
・リバーロキサバン群*は、初期3週間はリバーロキサバン15mgを1日2回、その後は20mgを1日1回食後経口投与とした。
・従来療法群は、少なくとも初期5日間はエノキサパリンナトリウム1mg/kgを1日2回皮下投与し、ビタミンK拮抗薬経口投与との併用下でプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が2回連続で2.0以上となった後、ビタミンK拮抗薬単独投与(目標PT-INR:2.0~3.0)とした
結果(EINSTEIN-PE およびDVT の統合解析):
■有効性:
有効性主要評価項目(症候性VTE の再発)の発症率は、リバーロキサバン群2.1%、従来療法群2.3%であり、急性症候性VTE(症候性DVTあるいは症候性PE)患者における有効性について、リバーロキサバンの従来療法に対する非劣性が検証された(ハザード比0.89[95%信頼区間:0.66~1.19]、非劣性マージン 1.75、p<0.001、Cox比例ハザードモデル)。
■安全性:
安全性主要評価項目(重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象)の発現率は、リバーロキサバン群9.4%、従来療法群10.0%で同程度であった(ハザード比0.93[95%信頼区間:0.81~1.06]、p=0.27、Cox比例ハザードモデル)。また、重大な出血事象の発現率は、 リバーロキサバン群1.0%、 従来療法群1.7%であった。
副作用:
主な副作用は、鼻出血(5.8%)、月経過多(2.4%)、挫傷(2.0%)等であった(詳細はDIページをご参照ください)。

目的:
症候性PEまたは症候性DVT患者(6~14ヵ月の抗凝固薬投与歴がある)を対象に、リバーロキサバンを長期投与した際の有効性と安全性をプラセボと比較検討した。
対象:
症候性PEまたは症候性DVT患者(6~14ヵ月の抗凝固薬投与歴がある)1,197例方法:リバーロキサバン20mgあるいはプラセボ錠を1日1回投与した。予定投与期間は無作為割付時に医師の判断により6または
結果:

■有効性:
有効性主要評価項目(症候性VTEの再発)の発症率は、リバーロキサバン群1.3%、プラセボ群7.1%であり、症候性VTE(症候性DVTまたは症候性PE)の再発抑制に対する有効性について、リバーロキサバンのプラセボに対する優越性が検証された(ハザード比:0.18[95%信頼区間:0.09-0.39]、p<0.001、Cox比例ハザードモデル)。
■安全性:
安全性主要評価項目(重大な出血事象)の発現率は、リバーロキサバン群0.7%、プラセボ群0.0%であった。リバーロキサバン群で発現した重大な出血はいずれも臨床的に管理可能な出血であった。
副作用:
リバーロキサバンが投与された598例中98例(16.4%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められた。主な副作用は、鼻出血17例(2.8%)、血尿10例(1.7%)、挫傷10例(1.7%)等であった。

目的:
リバーロキサバンの有効性および安全性を未分画ヘパリン/ワルファリン(従来療法)と比較検討すること。
対象:
J-EINSTEIN PE;急性症候性PE患者(症候性DVTの有無を問わない)40例、J-EINSTEIN DVT;急性症候性DVT患者(症候性PEを伴わない)60例。
方法:
・リバーロキサバン群*は、初期3週間はリバーロキサバン(J-EINSTEIN PE:15mg、J-EINSTEIN DVT:10**または15mg)を1日2回、その後は15mgを1日1回食後経口投与とした。
・従来療法群は、少なくとも初期5日間は未分画ヘパリン〔活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)が正常対照の1.5~2.5倍で用量調節〕を静脈内投与し、ワルファリンカリウム経口投与との併用下でプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が2回連続で1.5以上となった後、 ワルファリンカリウム単独投与(目標PT-INR:1.5~2.5)とした。
結果(J-EINSTEIN PEおよびDVTの統合解析)***:
■有効性:
有効性主要評価項目である症候性VTE の再発は、リバーロキサバン群が55例中1例、従来療法群が19例中0例で同様であった。
■安全性:
安全性主要評価項目である「重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象」は、リバーロキサバン群5.5%(3/55例)、従来療法群5.3%(1/19例)で同様であった。また、「重大な出血事象」に関しては、両群ともに認められなかった。
副作用:
主な副作用は皮下出血(10.4%)、鼻出血(7.8%)、血便排泄(5.2%)等であった(詳細はDIページをご参照ください)。



*確定診断を待たずに治療開始が推奨されているPE/DVTの疾患特性から、無作為割付前48時間以内の非経口抗凝固薬による治療は可能とした。
**10mg 1日2回群は、15mg 1日2回投与の安全性を確認する目的で設定された。
***リバーロキサバン群は承認用法・用量の初期治療15mg 1日2回投与群


    文献
  • 1)The EINSTEIN–PE Investigators. N Engl J Med 2012; 366: 1287-1297.
  • 2)The EINSTEIN Investigators. N Engl J Med 2010; 363: 2499-2510.
  • 3)Prins MH, et al. Thromb J 2013; 11: 21-30.
  • 4)Ageno W, et al. Lancet Haematol 2016; 3: e12-e21.
  • 5)EU Clinical Trials Register. EudraCT Number: 2013-001657-28
  • 6)Barco S, et al. Thromb Haemost 2016; 116: 191-197.
  • 7)Kearon C, et al. CHEST 2016; 149: 315-352.
  • 8)Couturaud F, et al. JAMA 2015; 314: 31-40.
  • 9)Weitz JI, et al. Thromb Haemost 2015; 114: 645-650.
  • 10)Yamada N, et al. Thromb J 2015; 13: 2. Doi: 10.1186/s12959-015-0035-3.
  • 11)Breddin HK, et al. N Engl J Med 2001; 344: 626-631.
  • 12)Agnelli G, et al. Circulation 2007; 116: 180-187.

  • COI:1〜6)、8〜10)、12)はバイエルからの支援あり

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