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NOACによる積極的なPE/DVT治療を考える〜リスクを有する患者にどう臨むか〜

 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(PE/DVT)は、発症から1~3週間に再発が多いとされている。そのため、発症初期に高度の抗凝固療法を行うことは妥当といえる。非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)のリバーロキサバンは、PE/DVTの初期強化療法から維持療法までを単剤で行うという従来にはないコンセプトで開発され、その治療に大きな変革をもたらした。その後、国内外でさまざまなデータが着実に蓄積されつつある。そこで今回、本領域のエキスパートにNOACを用いたPE/DVT治療について、データに基づき話し合っていただいた。

司会 伊藤 浩 氏

◆ PE/DVT治療を大きく変えたシングルドラッグアプローチ

伊藤 PE/DVTに対しては、発症時の重症度に応じ適切な処置が選択されます。薬物治療の主体は抗凝固療法で、日本ではこれまで未分画ヘパリンとワルファリンの併用が標準治療とされてきましたが、NOACの登場により選択肢が広がりました。これを踏まえ、さまざまな背景を有するPE/DVT患者に対してどのような抗凝固療法を行えばよいのでしょうか。これまでに得られたデータを基に議論したいと思います。
波多野 発症初期の3週間にわたり強化療法を行う妥当性については、PE/DVTの再発が発症後3~4週間で高率であることを示したメタ解析結果が支持しています(図11)。また、不十分な抗凝固療法が原因の1つである血栓の残存はPE/DVT再発や血栓後症候群(PTS)発症のリスク上昇に関与するとされています2)
 こうした中、シングルドラッグアプローチ、すなわち発症初期から維持期までをリバーロキサバンの単剤経口投与で管理することが可能となり、PE/DVT治療に大きな変化をもたらしました。
Bauersachs シングルドラッグアプローチの安全性と有効性は、海外第Ⅲ相試験EINSTEIN-PE3)およびEINSTEIN-DVT4)の統合解析5)で検討されました。その結果、症候性静脈血栓塞栓症(VTE)の再発率は標準治療群、リバーロキサバン群でそれぞれ2.3%、2.1%であり、非劣性が検証されました〔ハザード比(HR)0.89、95%CI 0.66〜1.19、非劣性マージン1.75、P<0.001、Cox比例ハザードモデル〕。また重大な出血の発現率はそれぞれ1.7%、1.0%でした。
赤澤 日本人と欧米人ではワルファリンコントロールの目標値やリバーロキサバンの曝露量が異なることから、日本の医療環境を反映した国内第Ⅲ相試験J-EINSTEIN PEおよびDVT6)が実施され、EINSTEIN-PE/DVTと一貫した結果が得られています。
波多野 これらの知見を踏まえ、「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)7)」では、急性PEまたはDVTの薬物治療として、リバーロキサバンの一定期間の高用量による初期治療後に常用量で投与することがクラスI、エビデンスレベルAで推奨されました。
赤澤 先ほど波多野先生から、血栓の残存はPE/DVT再発やPTS発症のリスク上昇に関与するとのお話がありましたが、J-EINSTEIN PE/DVTでは、血栓の退縮・消失が検討されています。リバーロキサバン15mg 1日2回群、15mg 1日1回群における初期強化療法後および治療終了時の血栓消失率は、それぞれ30.8%、66.7%で、標準治療群と比べて高い血栓消失効果が示されました6)

図1

◆ 長期抗凝固療法におけるリバーロキサバンの可能性

伊藤 PE/DVT患者の中には、長期の抗凝固療法を要する患者も少なくありません。PE/DVT患者に対するNOAC長期投与のデータはありますか。
Bauersachs 抗凝固療法を6~12カ月継続した患者に対する効果を、リバーロキサバンとプラセボで比較したEINSTEIN-Extension4)、リバーロキサバンと低用量アスピリンで比較したEINSTEIN-CHOICEが実施されています。ここではEINSTEIN-Extensionを紹介します。
 EINSTEIN-Extensionは、抗凝固療法を6~12カ月間継続したPE/DVT患者が対象で、割り付け後、6カ月または12カ月間リバーロキサバン(20mg/日、海外用量)あるいはプラセボが投与されました。なお、EINSTEIN-PE/DVTからの継続例が約半数を占めています。検討の結果、症候性PE/DVTの再発率はリバーロキサバン群で1.3%、プラセボ群で7.1%と、リバーロキサバンのプラセボに対する優越性が検証されました(HR 0.18、95%CI 0.09〜0.39、P<0.001、Cox比例ハザードモデル)。重大な出血の発現率は、リバーロキサバン群0.7%、プラセボ群0%でした。
波多野 PE/DVTの発症にはさまざまなリスク因子が関与していますが、これらに対してどれくらいの期間抗凝固療法を継続すればよいのでしょうか。
Bauersachs 抗凝固療法の継続期間については、PE/DVT治療の中で恐らく最も難しい質問だと思います。その上で私は、手術や経口避妊薬などの誘因があるPE/DVTで3~6カ月、血栓傾向が強い、先天性の血栓性素因、複数のPE/DVT、重篤なPEなどの場合は可能な限り長期間継続しています。再発リスクが両者の中間にあるケースでは、患者ごとに抗凝固療法の種類と期間を判断しています。
山下 無症候性のPE/DVTや、遠位型のDVTに対する抗凝固療法は、どのように判断されていますか。
Bauersachs これも画一的な方針はないのですが、がん患者の無症候性PEでは抗凝固療法を行うべきだと思います。しかし、血栓が亜区域枝に限局している場合は必要ないと思います。遠位型DVTは、がん、特発性などのリスク因子があれば抗凝固療法を考慮します。

◆ リスクを有するPE/DVT患者に対するリバーロキサバンのエビデンス

伊藤 次に、高齢者や腎機能低下例、がん患者などリスクを有するPE/DVT患者の治療についてうかがいます。
山下 PE/DVT患者に占める高齢者の割合は多く、それに伴い腎機能低下例、がん患者の割合も多くなると考えられます。実際、日本で実施された多施設コホート研究COMMAND VTE Registry8)でも、登録患者3,027例のうち75歳以上が37%、慢性腎臓病(CKD)合併例が19%、活動性悪性腫瘍患者が23%を占めていました(図2)。これらの患者は、PE/DVT再発と出血の両方のリスクが高いとされていますので9, 10)、再発リスクと出血リスクのバランスを考えながら抗凝固療法を行うことが大切です。
伊藤 リバーロキサバンには、高齢、腎機能低下、がん患者に関するデータもありますね。
Bauersachs EINSTEIN-PE/DVT統合解析では、各リスク因子別のサブ解析が実施されています。年齢75歳超5)、クレアチニンクリアランス(CLcr)50mL/分未満11)、活動性悪性腫瘍患者12)において、リバーロキサバン群の重大な出血と症候性PE/DVT再発の頻度は、全体の解析結果で示されたように、標準治療群より低いことが報告されています()。
赤澤 がんはPE/DVT再発の最も重要なリスク因子で、これは日本人でも同じです。EINSTEIN-PE/DVTの活動性悪性腫瘍患者のサブ解析結果をお示しいただきましたが、近年はいわゆるがんサバイバーの方も多くいらっしゃいます。PE/DVT再発や出血は、がん既往のみの患者でも多いのでしょうか。
Bauersachs このサブ解析では、活動性悪性腫瘍患者だけでなく、がん既往患者、がんの既往がない患者についても解析されています。がん既往患者のPE/DVT再発、重大な出血の頻度は、いずれもがんの既往がない患者と同程度でした。
山下 日本のガイドライン7)では、がんが治癒している、または活動性でなければPE/DVTリスクは低下するため、抗凝固療法の中止を検討するとされています。COMMAND VTE Registryでもがん患者のサブ解析を行いたいと思います。

図2 表

◆ XASSENT:リバーロキサバンによるPE/DVT治療の特定使用成績調査

伊藤 日本では、リバーロキサバンの実臨床データも蓄積されつつありますね。
赤澤 現在、PE/DVT患者におけるリバーロキサバンの使用実態下での安全性および有効性を把握するために特定使用成績調査XASSENTが進行中です。2015年9月~17年9月のデータ固定症例については中間集計13)が行われています。
 初期治療としてリバーロキサバンが導入された1,219例の治療開始用量は、初期強化用量の30mg/日が1,002例(82%)で、同用量の継続期間は21または22日が最多でした。初期治療導入例において中間集計期間に発現した重大な出血は2.6%、PE/DVTの再発は0.9%でした。また、75歳以上の高齢者、CLcr 50mL/分未満の腎機能低下例では重大な出血の発現は、それぞれ1.9%、2.6%で全体集団(2.3%)と同程度でした。
Bauersachs 実臨床ではさまざまな背景を持つ患者に遭遇し、それぞれの患者で最適な治療が判断されます。PE/DVT患者に対し、どのタイミングで、どのような治療を行い、どのような成績が得られたかについて、リバーロキサバンを含め把握することは大変重要です。
波多野 腎機能の低下した活動性悪性腫瘍患者では、やはり出血が懸念されます。この場合のNOACの用量についてはどのようにお考えですか。
山下 活動性悪性腫瘍患者では、PE/DVTの再発リスクが相当に高いことを前提にすべきだと思います。出血リスクも高いのですが、層別化の方法やその有益性は明らかになっていません。原則として、通常用量が望ましいと思います。
Bauersachs 私も同じ意見です。
伊藤 PE/DVTは、突然死や日常生活に影響する恐れがあるため、しっかり治療しなければならない疾患です。リバーロキサバンは、高リスク患者に対するデータも蓄積されつつあり、こうした情報が今後のPE/DVTの実臨床に大きく貢献することを期待しています。本日はありがとうございました。

    文献
  • 1)Limone BL, et al. Thromb Res 2013; 132: 420-426.
  • 2)Prandoni P, et al. Semin Thromb Hemost 2015; 41: 133-140.
  • 3)The EINSTEIN-PE Investigators. N Engl J Med 2012; 366: 1287-1297.
  • 4)The EINSTEIN Investigators. N Engl J Med 2010; 363: 2499-2510.
  • 5)Prins MH, et al. Thromb J 2013; 11: 21.
  • 6)Yamada N, et al. Thromb J 2015; 13: 2.
  • 7)日本循環器学会.肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf(2018年9月閲覧)
  • 8)Yamashita Y, et al. Circ J 2018; 82: 1262-1270.
  • 9)Monreal M, et al. Am J Med 2006; 119: 1073-1079.
  • 10)Prandoni P, et al. Blood 2002; 100: 3484-3488.
  • 11)Bauersachs RM, et al. Thromb J 2014; 12: 25.
  • 12)Prins MH, et al. Lancet Haematol 2014; 1: e37-e46.
  • 13)イグザレルト特定使用成績調査(PE/DVT)の第2回中間報告―2015年9月24日~2017年9月15日時点の調査票収集・データ固定症例での中間集計―.
  • COI:3〜6)、8)、11〜13)はバイエルからの支援あり
PP-XAR-JP-0175-16-10