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◆ 特別企画

リバーロキサバン投与下の 抗凝固能をどう評価するか?

  
非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の脳梗塞・全身性塞栓症予防は,リバーロキサバン(商品名;イグザレルト®錠)などの新規経口抗凝固薬の導入後,大きく前進した。食事や他薬との相互作用が少なく,従来薬で欠かせなかった定期的モニタリングが不要となり,利便性も向上した。しかし緊急手術や出血といった特殊な状況では,このメリットが逆にデメリットになることもあり,臨床現場では抗凝固能の評価に有用となるなんらかの指標を求める声も多い。
  こうした点から,第28回日本不整脈学会学術大会モーニングセミナーにおいて,心臓血管研究所所長・付属病院長の山下武志氏と弘前大学大学院循環呼吸腎臓内科学講座教授の奥村謙氏がリバーロキサバン投与下の抗凝固能の評価について解説。プロトロンビン時間(PT)測定の意義やJ-ROCKET AF*試験から解析されたPT推移シミュレーションデータの解釈,最適な試薬の選択などについて議論した。
*Japanese Rivaroxaban Once Daily Oral Direct Factor Xa Inhibition Compared with Vitamin K Antagonism for Prevention of Stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation

  リバーロキサバン投与下のPTでは血中濃度を決定することはできない

  初めに山下氏が登壇し,リバーロキサバン投与下の抗凝固能評価について解説した。
  リバーロキサバンは,抗凝固能の定期的モニタリングが不要な新規経口抗凝固薬である。しかしながら,抗凝固能の測定を要するケースもあるという。例えばイタリアで発表されたposition paperには,新規経口抗凝固薬の抗凝固能検査が推奨される状態として,血栓塞栓症や出血が生じた例,外科手術など抗凝固状態の緊急解除が必要な例,腎・肝機能障害例,相互作用のある薬物投与例,高・低体重例が挙げられている(Clin Chem Lab Med 2012; 50: 2137-2140)。
  では,リバーロキサバン投与下の抗凝固能評価では何を指標とすればよいのか−。同氏は,PTで血中濃度をある程度定量化できると解釈する向きがあるが,それは誤りであると指摘する。確かにPTは血中濃度と直線的に相関する(Clin Chem Lab Med 2012; 50: 1799-1807)。しかし,PTと血中濃度の関係には個体差があることが分かっているのだ。
  同氏は,英国血液学標準化委員会による「PTはリバーロキサバンの血中濃度を決定するために用いるものではない」との指摘(Br J Haematol 2012; 159: 427-429)を引きながら,「PTは個人の反応性を反映する指標であり,リバーロキサバン投与下では,同薬による抗凝固能の相対的強度を見るものにすぎないという前提で用いるべきである」と明言した。
  また,リバーロキサバン投与下の抗凝固能評価に当たりプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)を用いる例が見られるが,これも誤りであると同氏は注意を促す。国際感度指数(ISI)は,ワルファリン投与下の抗凝固能測定のために試薬ごとに算定されたものである。そのISIを基に計算されるPT-INRをリバーロキサバンに応用することは適切ではない。同氏は加えて,「PTはリバーロキサバンに対する試薬の感受性によって数値が異なること(図1),投与後の時間による影響を受けることにも注意をすべきである」と訴えた。


  PT推移シミュレーションデータは安全性探索の一助になりうる

  次に山下氏は,日本人NVAF患者を対象とした臨床試験J-ROCKET AFの患者データから得られたPT推移シミュレーションデータを紹介し,その臨床応用の可能性を解説した。
  このシミュレーションでは,リバーロキサバンの服用から24時間後までのPT中央値の推移と90%信頼区間が検討された。データは,PT測定試薬としてリバーロキサバンに対する感受性が最も高いネオプラスチンプラスを用いた際の推定値である。検討の結果,リバーロキサバン投与4時間後のPT〔中央値(90%信頼区間)〕は15mg投与下で19.7(13.8~31.3)秒,10mg投与下で18.3(13.4~27.4)秒。24時間後にそれぞれ12.9(10.2~16.8)秒,13.0(10.4~16.3)秒であった(図2)。同氏は,「このデータから,リバーロキサバン投与時のPT分布をある程度予測しうるだろう」と考察した。
  続けて同氏は,米食品医薬品局(FDA)が公表しているROCKET AFの採血データから,PTと大出血の発生との間に関係が見られたことに言及し,「このPT推移シミュレーションデータは,出血リスクの閾値を示すものではないが,過度の抗凝固状態や曝露量増加の有無を探索する上で有用と考えられる」と指摘。「PTが90%信頼区間の上限を超える場合,大出血の可能性や血液凝固異常,リバーロキサバンの血中濃度上昇などを念頭に,その原因の探索が必要となるだろう」と述べた。なお,PTはリバーロキサバンのモニタリングの指標ではないので,PTの測定結果に基づいて投与量の増減を行うのは適切ではない。また,PTが90%信頼区間の下限を下回っても,試薬による感受性の違いを考慮すると一概に薬効がないとは言い切れないという。
  最後に同氏は,自施設で使っているPT試薬リコンビプラスチンでの検討結果を示し,「リバーロキサバン投与患者のPT分布を見ると,やはり個人差が存在する」と考察。PTの評価・解釈については,まだ検討の途上であるとした上で,「同薬の抗凝固能評価の大前提として,PT-INRではなくPTを用いること,PTの値は試薬による感度の違いと内服後の時間に影響を受けることを理解すべきである」とまとめた。


  高齢者や高出血リスク例などにおける安全性の評価指標は必要

  続いて奥村氏が登壇し,初めに新規経口抗凝固薬投与患者におけるモニタリングの是非をめぐる議論を紹介した。
  モニタリング不要論者の論拠はこうだ。新規経口抗凝固薬は治療域が広く,PK/PDより抗凝固反応が予測可能であること,標準化されたモニタリング方法がなく,検査結果の評価法や用量調節の方法も確立されていないこと,何より大規模臨床試験の結果がモニタリングなしで得られていること,などである。これに対し,抗凝固反応には個体差があること,試薬によるばらつきがあるもののPTや活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)が利用可能であること,服薬2~4時間後に採血すれば,正常,低下,亢進のいずれかで血中濃度を評価できることから,モニタリングは必要という意見もある(Thromb Res 2012; 130: S88-S89)。
  以上のように,モニタリングの必要性をめぐる見解は分かれているが,同氏は抗凝固能の評価が必要な局面があると考えている。高齢者や出血高リスク例,相互作用が懸念される他剤服用例の他,過剰服用が疑われる場合,出血または血栓塞栓症発症時,腎機能急性増悪時,緊急手術時である。特に,心房細動例には出血リスクの高い高齢者が多いことから,抗凝固療法をより安全に実践していくための指標が必要になるという。同氏は,「J-ROCKET AF試験では,リバーロキサバンがワルファリンに比べて,どの年齢層でも脳卒中や塞栓症の発症を抑制することが示されたが,75歳以上では出血性イベントがリバーロキサバン群で多い傾向にあった。また,リバーロキサバン特定使用成績調査では,使用例の約3分の1がCHADS2スコア3点以上,約70%が70歳以上だった」と述べ,「出血リスクが高いと考えられる患者にリバーロキサバンが使用されることも多い」と考察。安全性を確認するためにはなんらかの指標が必要であることを強調した。
  なお,同氏の関連施設(弘前脳卒中・リハビリテーションセンター)では,心原性脳塞栓症による入院例の90%近くに抗凝固療法を行っているが,そのうち新規経口抗凝固薬としては,高齢化に伴う嚥下機能低下を配慮し,主にリバーロキサバンを選択していた(図3)。一方,ワルファリンが選択された理由の約3分の1は,新規経口抗凝固薬の適応となる心房細動の確定診断がなされなかったことによる適応上の問題だった。また,心房細動と診断された例でも,腎機能低下や消化管出血を伴う患者,超高齢の患者などには,ワルファリンが用いられていた。その理由として,これらの出血高リスク例では,新規経口抗凝固薬投与時の抗凝固能評価法が確立していないことも関係しているかもしれないという。


  服薬直前のPTトラフ値が出血リスクの評価に役立つ可能性

  現在検討されている新規経口抗凝固薬の抗凝固能評価の指標のうち,抗Xa活性はリバーロキサバンの血中濃度を反映するとされ,信頼性が高いが,本格的な実用化には至っていない。奥村氏は「現実の臨床では,保険診療で使用でき,かつ簡便なPTが実用的」としながらも,試薬によってリバーロキサバンに対する感受性にばらつきがある点に注意を促す。ネオプラスチンプラスとリコンビプラスチンはリバーロキサバンに高い感受性を示すが,トロンボレルSやイノビンは感受性が低い(図1)。このような試薬間での感受性の差を是正するために,リバーロキサバンに特異的なPT-INRを設定する方法も考えられなくもないが,抗凝固薬ごとに特異的なISIを算出,運用する必要がある。同氏は,「混乱を避けるためにもリバーロキサバンに高い感受性を示す試薬を用いてPT測定を行う方法が現実的だろう」と指摘した。
  では,PTの測定に当たり,採血は服用から何時間後に行えばよいのか−。
  同氏らは,心原性脳塞栓症で入院した心房細動患者にリバーロキサバンを投与し,同じ検体を用いてトロンボレルS,トロンボチェックPT,トロンボチェックPTプラスの3種類の試薬でPTを測定した。その結果,いずれの試薬でもPTトラフ値は患者間のばらつきが小さく,試薬間のばらつきも比較的小さかった(平均値はそれぞれ11.2秒,11.6秒,12.1秒)。一方,服用2~3時間後のPT値は患者間のばらつきが大きく,ピークのタイミングも異なっていた。また,ピークのPT値は試薬による感度の違いが如実に反映されることから,当然,試薬間のばらつきも大きかった。このことから同氏は,「PT測定は服薬直前に行い,PTトラフ値を評価するのが望ましい」と指摘した。なお,同氏は,PTがピークを迎える時間がばらつく理由について,リバーロキサバンの生物学的利用率はほぼ100%と高いことから,個体間の吸収量の差ではなく,吸収速度の差によるのではないかとみている。
  続けて,同氏はPTトラフ値を用いた出血リスクの評価法について解説した。リバーロキサバンが正常な曝露量の範囲内にある場合,血中濃度はトラフ,ピークを繰り返しながらもトラフ値は水平に推移すると考えられる。一方,腎機能低下などにより曝露量が増加すると,トラフ値が上昇することになる(図4)。こうして,血中濃度の推移を反映する指標としてPTトラフ値を見ることで,患者の出血リスクを評価しうるという。実際,エドキサバンの臨床試験では,トラフ値が出血リスクをよく反映し,トラフ値が低ければ出血リスクは低いことが示されている(Thromb Haemost 2012; 107: 925-934)。
  最後に,同氏はリバーロキサバンの抗凝固能評価をめぐる今後の課題として,1)抗Xa活性の有用性の検討,2)PTによる評価の標準化,3)有効性の評価指標の解明−などが挙げられると述べ,講演を終えた。


  ディスカッション;PTを用いる上での問題点

  ディスカッションでは,引き続き山下,奥村の両氏がPT測定に適した採血のタイミングや試薬の選択などについて議論した。
  山下氏が自施設で測定したリバーロキサバン投与患者のPTの分布には,患者間でばらつきが見られた。この点について,奥村氏は「リバーロキサバンの吸収速度に個体差があるため,ピークを迎える時間帯に差があったためではないか」と述べた。そして「PT自体は,各患者において条件を一定にそろえれば,比較的正確に凝固能を評価できる検査である」との認識を示した上で,「リバーロキサバン投与下では,PT試薬としてネオプラスチンプラスまたはリコンビプラスチンを用い,値のばらつきが比較的小さい服薬直前のPTトラフ値を測定することが望ましいのではないか」と語った。
  一方,山下氏はPT測定について,現時点で最適な採血のタイミングを決める必要性には疑問を呈す。同氏は,PTトラフ値の測定は,入院患者であれば可能だが,外来患者では困難であると指摘。加えて,「われわれが日常で見ている心房細動患者の凝固状態は,健常者のそれとは全く異なるものになっている点を認識しなければならない」と語った。また, ROCKET AF試験ではトラフのPTがほとんど測定されなかったにもかかわらず,PTと出血事象との相関関係が取り出されたことに触れ,「まずは実臨床で得られたデータを蓄積,検証していくべきであろう」と述べた。
  試薬の選択については,両氏ともリバーロキサバンに高い感受性を持つ試薬を用いることに同意する。山下氏は「感受性の低い試薬を用いる意味はほとんどない。リバーロキサバン投与の場合,当然,ネオプラスチンプラスまたはリコンビプラスチンを用いるべきだろう」としながらも,「これらの試薬を用いる場合でも,PTの値には差が出る場合もある点に注意が必要」と付け加えた。
  質疑では,試薬の精度管理について,日本不整脈学会から検査メーカーへ申し入れを行うことも考慮すべきではないかとの意見があり,両氏は賛意を示して会を終えた。

16~17ページはバイエル薬品株式会社の提供です