疾患関連情報

◆ 特別企画

#4 高野先生

お話の内容はインタビュー(2011年9月)時点のものです

#4 実地医家における心原性脳塞栓症の予防

高野 健太郎 先生 高野内科クリニック 院長
~抗凝固療法の現状と未来~

1984年 長崎大学医学部卒業。同年九州大学医学部第二内科。1986年 国立循環器病センター内科脳血管部門レジデント。1991年 九州大学医学部第二内科で学位取得後、1994年 米国マサチューセッツ大学医学部(Marc Fisher 教授)。1996年 福岡東病院脳血管内科医長(現:国立病院機構 福岡東医療センター)。1998年 高野内科クリニック親子継承、現在に至る。

北九州市は高齢化地区ですが、
現役世代を比較的数多く診療しています。

 当院の月平均外来患者数は約1,400人で、8割以上が循環器を中心とした生活習慣病の患者さんです。北九州市は高齢化地区ですが、65歳以上の高齢者は1/4~1/3で、近隣の他院と比べると比較的現役世代が多いと思います。血圧や循環器を専門に診療していることから、遠くは佐賀、山口、大分、福岡といった地域からも来院される患者さんが結構いらっしゃいます。
 心房細動の患者さんは現在120人くらいで、やはり加齢に伴い患者数は増えています。私は脳卒中専門医と循環器専門医の資格を持っていて、一次予防と二次予防の総合的な視点から診療しています。

心房細動の治療で念頭に置いているのは、
脳塞栓の予防と心不全の予防です。

拡大する  心房細動の治療では、心原性脳塞栓症の予防と心不全の予防を最も念頭に置いています。心房細動は結構心不全を起こす患者さんが多く、今は心原性脳塞栓症の予防がすごく強調されていますが、今後高齢化に伴い、心不全も大きな問題になってくると思います。
 心原性脳塞栓症では、TATやD-dimerなどの分子マーカーは著明に上昇、AT Ⅲ活性は消費性に低下しています。心腔内に限局した消費性凝固障害の側面を有する、凝固・線溶の活性化が主体ですから、一次予防・二次予防ともに抗凝固療法が中心になります(Takano K,et al: Stroke 1991; 22: 12-16、Takano K, et al: Am J Cardiol 1994; 74: 935-939)。
アテローム血栓性脳梗塞の凝固亢進状態ではⅦ因子活性の亢進がみられ、外因系凝固異常が主体です(Takano K, et al: Thromb Res 1990; 58: 481-491)。脳梗塞は心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞に病型分類されますが、各病型で凝固・線溶異常の病態は異なっていますし(Takano K, et al: Stroke 1992; 23: 194-198)、基礎疾患もその背景因子によって凝固異常の側面は異なります()。

長年の経験則により“見えないもの”を
すくい取ることができるのだと思います。

 自覚症状がない心房細動の掘り起こしは非常に難しいのですが、普段から患者さんの話を注意深く聞いていると、会話の中で「いつもとちょっと違うな」と思うことがあります。それがポイントです。患者さんの答え方の微妙な違いを感じ取るので、定番の質問はありませんしマニュアルにはできませんが、臨床経験のつみ重ねが大切なのではないかと思います。
 また当院では、看護師と私が1回ずつ計2回、血圧と脈を測っています。普段から脈を頻繁に測り、患者さんに触れる診察が大切です。問診が一番で、長年の経験則により“見えないもの(症状のない心房細動)”をすくい取ることができるのだと思います。

CHADS2スコアでは血圧が最も重要ですが、
糖尿病も重要視しています。

 ワルファリン導入基準として、一般的に使われているCHADS2スコアの考え方は、自分が以前から行っていた方針とまったく一致したものでした。最近はCHA2DS2-VASCのような新しい基準も出てきていますが、診断基準はできるだけシンプルな方がいいので、あくまでも補助的な位置づけにしています。CHADS2スコアの中で意識するのはもちろん血圧ですが、糖尿病も重要視しています。
 また、個々の凝固異常に最も適したワルファリンコントロールには、理論的にはTAT、D-dimerといった凝固・線溶系の活性化を測定する分子マーカーの併用が有用と考えます。90年代前半にはガイドラインより弱めの低用量ワルファリン療法でも十分効果があると報告されました。確かに80%の症例では低用量ワルファリンで凝固反応を抑えましたが、20%は分子マーカーの異常がみられました。そういう方たちは、ワルファリンの増量が必要な方です(Takano K,et al: Am J Cardiol 1994; 74: 935-939)。しかし、PT-INRではその区別ができないので、分子マーカーの併用がよりよいということです。ただ、分子マーカーは抗凝固療法に保険適応がないので、実際に使用するのは難しい面があります。
 新規経口抗凝固薬は、モニタリングが不要というメリットがある反面、薬の効果を実感しにくいという新たな問題もあります。その点、分子マーカーはトロンビンをどのくらい抑えているかがわかるわけですから、新規経口抗凝固薬のモニターとして有用と考えますが、やはり保険の問題があり、もっと手軽に使えるようになるまでは現実的には難しいでしょう。

新規経口抗凝固薬は、患者さんの一次予防・二次予防に
貢献できる領域の薬になると期待しています。

 新規経口抗凝固薬は、安全性などの問題から、導入は慎重に考えないとなりませんが、一方で、抗血小板薬と同等の使われ方をする時代になるかもしれないと思っています。そのためには、新規経口抗凝固薬がアスピリンと同等の安全性を確保できるかどうかですね。抗血小板薬のように育つのか、専門的な領域で留まるのか、そこは難しいと思います。ただ、少なくとも抗血小板薬よりも新規経口抗凝固薬のほうが治療効果は高いと思われるので、患者さんの一次予防・二次予防に貢献していく領域の薬になると期待しています。
 当院では、新規経口抗凝固薬は20人くらいに使っています。半分以上がワルファリンからの切り替えで、食事制限をなくしたい患者さんとワルファリンコントロールが不安定な方です。当院の場合は薬価に関してはあまり問題にされず、治療内容を優先される方が多く、食事制限がなくなる、採血がなくなるといったメリットを享受したいという考えの方が勝るようです。また、看護師が採血のときにかなり詳しい説明をしますので、患者さんも賢くなって、アドヒアランスも問題ありません。切り替えのときの説明もきちんと理解されますし、安全性の問題が起こったときも、説明して理解していただけました。受身の通院ではなく、勉強しに来る場として患者さんに意識を向上していただくように心がけています。

病院勤務医から開業医への要望をうまく集約して
治療を継続することが大事です。

 私は内科領域全般に及ぶ大きな講演会から循環器領域の専門の研究会まで、10以上の研究会を企画・運営しています。「ワルファリンは、正しく使えば怖くない」をテーマに、抗凝固療法に関する研究会も定期的に開催しています。ワルファリンの使い方、出血に関する注意や、消化管検査や抜歯、周術期におけるワルファリンの取り扱い方など、毎回テーマを決めて啓発活動に力を入れています。私自身も講演することが多いのですが、講演時の質疑応答だけでなく、講演後に電話等でワルファリンに関する質問を受けることが多く、それまでワルファリンを使っておられなかった先生方が関心を持ってくださり、導入されていることを実感しています。
 こういった講演会などを通して、一般内科の開業医の先生方のお話を代弁すると、病院勤務医の先生が逆紹介するときは、治療方針や背景因子まで、なぜこの薬が入ったのか、守るべき注意点は何かを具体的に申し送りすることが重要です。「この患者さんは、こうだからアスピリン、こうだからワルファリンが出ている」「こういうことが起こり得るから、ここまでは開業医で、ここからは病院に送ってほしい」などと紹介状は具体的に書くことです。紹介する先生が年配や先輩に当たるような場合でも失礼にはならないと思います。
 患者さんは開業医に戻ったら、在宅も含めずっと同じ医師が診ていくことになります。そういう意味では、病院勤務医から開業医への要望をうまく集約して治療を継続することが大事かと考えます。

お話の内容はインタビュー(2011年9月)時点のものです

1967年開業のクリニックを、1998年6月に親子継承。高野先生は総合内科専門医、循環器専門医、脳卒中専門医、および米国内科学会上級会員(Fellow of ACP; FACP)。日々の診療の一方で、臨床研究などを欧米の専門誌に発表し、専門書などの著書も多数。医師向けの講演会や一般者向けの公開セミナーなどで、演者および座長を数多く務め、疾患予防の啓発に尽力している。