疾患関連情報

◆ 特別企画

#3 小田倉先生

お話の内容はインタビュー(2011年9月)時点のものです

#3 実地医家における心原性脳塞栓症の予防

小田倉 弘典 先生  土橋内科医院 院長
~抗凝固療法の現状と未来~

1987年 東北大学医学部卒業。同年仙台市立病院循環器科医員。1990年 国立循環器センター内科心臓部厚生省研究員、1997年 仙台市立病院循環器科院長、2004年 土橋内科医院に勤務、現在に至る。

心房細動を合併している脳塞栓のうち、
入院前に心房細動があるとわかっていた人は55%でした。

 当院の1カ月平均述べ患者数は1,500人で、65歳以上の方が60%を占め、最高齢は100歳以上の方までいらっしゃいます。この地域では他院でもほぼ同じ年齢構成だと思います。
 そのうち心房細動の患者さんは約200人で、私が院長になった2004年は90人前後でしたから、確実に増えています。自然増加もあると思いますが、心臓専門を標榜しているので近隣の仙台厚生病院、東北大学病院からの紹介もあります。
 仙台にある脳神経疾患専門病院の広南病院血管内科の先生方と時々情報交換や勉強会をしているのですが、同内科が2010年の神経学会総会で発表されたデータでは、驚くべきことに、救急搬送された心房細動を合併している脳塞栓の患者359人のうち、入院前に心房細動があるとわかっていた人は55%で、残り45%は診断がついていませんでした。当院でも、初診時に一度しか心房細動が記録されていない方の脳塞栓を経験したことがあります。

PT-INRのコントロールは経験に基づいて微調整できますから、
臨床医ならではの暗黙知と考えています。

 心房細動の診断・治療は、カテーテルアブレーション以外は当院で行っています。心房細動自体の治療としてはレートコントロールを基本とし、若年者で症状が強い方には、リズムコントロールを選択します。喫煙・アルコールも含め、動脈硬化の背景因子すべてを管理するという気持ちで治療にあたっています。
 抗凝固療法の導入に関しては、CHADS2スコア1点以上であればワルファリン療法を開始し、アスピリンは原則として使っていません。CHADS2スコア1点でもワルファリンと血圧をきちんと管理すればメリットがあるというのが実感です。特に、降圧薬を何種類も飲んでいるような方は高リスクとして考えています。
 PT-INRの目標値は基本はガイドライン通りですが、70歳以下でもPT-INRが2.6を超えた場合、CHADS2スコアの高い方では1.6~2.6の範囲内へコントロールしています。PT-INRは院内で測定し、その日のうちにPT-INRの測定値によってワルファリン0.25mg単位での増減を行っています。高齢者に0.5mg単位で増減するとかなり変動するという印象です。PT-INRコントロールは経験に基づいて微調整できますから、専門性・経験則が発揮できる臨床医ならではの暗黙知と考えています。
 それでもTTRが50%以下になるようなコントロールがうまくいかない患者さんは20%程度います。その一番の原因は患者さんのアドヒアランスです。特に、一人暮らしの高齢者は注意が必要です。当院では手帳を作って、当院以外の医療機関に行く場合は、歯科も含めて必ず最初にかかる先生に見せるように指導しています。

心房細動外来では1時間かけて診察しています。
最初に時間をかけると、後の意思決定もスムーズにいきます。

 当院では2005年から心房細動外来(AF外来)を始め、17:00~18:00を完全予約制にして、1時間かけて診察しています。まず看護師がワークシートを用いて、家族歴、患者背景、生活パターン、食事、服薬管理者などを聞き、その後、医師に何を期待するのか、知りたいことは何かといった患者さんの解釈モデルを把握して私が質問に答えています。
 コストパフォーマンスの問題はありますが、最初に時間をかけると後の意思決定がスムーズにいきます。また、服薬アドヒアランスがうまくいっていない患者さんの意識も向上し、飲み忘れが減ったり自己判断での中止がなくなったり、結果として出血が減少しましたから、長い目で見ればこのAF外来は有効と考えています。

新規経口抗凝固薬は、
「正しく怖がり、正しく使う」ことが大切と考えています。

 当院では新規経口抗凝固薬は希望された方に対して20人ほどに処方しました。当院作成のパンフレットを用いて時間をかけて薬の説明をしています。既存薬も今後発売される薬剤も、「正しく怖がり、正しく使う」ことが大切と考えています。大規模臨床試験の結果を見ても、ワルファリン投与の0.5%~2%に出血が起こっていますから、ワルファリンに限らずすべての抗凝固薬で、患者さんにリスクとベネフィットを正確に伝えることが非常に大事です。
 今後は、新患やアスピリンからの切り替えの患者層なども含めて、新規経口抗凝固薬の処方は間違いなく増えると思います。そこで、製薬会社には、薬剤別の代謝経路、半減期、服用回数、注意事項等、それぞれの違いが明確になるように医療従事者へ詳しく説明してほしいです。また、多くの患者さんが服用することになるわけですから、何よりも患者さんに対して適切な飲み方などの情報を迅速に発信すべきだと思います。

われわれプライマリケア医は、
「患者さんの旅のお供をする」という意識で日々診療しています。

 心房細動はいまや本当にCommon Diseaseであり、今後もますます患者数は増えていきます。高血圧や糖尿病と同じで5年、10年、20年とずっと付き合っていくものですから、われわれプライマリケア医は、「患者さんの旅のお供をする」という意識で日々診療することが重要と考えています。
 新規経口抗凝固薬の登場で、心原性脳塞栓症の予防はますますプライマリケア医の手に委ねられることになります。目の前の疾患だけを診ず、患者さんの社会的・心理的な背景もすべてひっくるめて考えなければなりません。今こそプライマリケアの精神を発揮するべきです。
 一方でわれわれは、診断された患者さんしか日常診ていないのです。脳梗塞を発症した患者さんの多くは発症前に心房細動と診断されておらず、適切な予防治療を受けていません。血圧が高く、心房細動があるなどCHADS2スコアで2点以上に該当する方は結構存在しているはずですが、医療機関を受診していないため、見過ごされている方も多いと思います。この0次予防を今後どうスクリーニングして予防治療を施していくかというのも重要です。その一つの手段として「携帯心電計」が役に立つと期待しています。健診で全例につけられるわけではありませんが、1~2回動悸があった方や1~2回AFが記録されたけれども無治療でいる方に使うと、有効かもしれません。これからの心房細動の治療は、無症候性心房細動をどうやって見つけ出すかが課題だと思います。

お話の内容はインタビュー(2011年9月)時点のものです

「地域の皆様の信頼される医院」を目指して1989年に開業し、2004年より小田倉先生が院長を務めている。完全予約制の「健康増進外来」では、糖尿病、肥満、高血圧、脂質異常症を対象に禁煙・食事の指導を行うほか、心房細動外来(AF外来)では、心房細動(不整脈)を対象に基幹病院と同等の専門診療を行っている。また、「院長ブログ~心房細動な日々」は、articleに匹敵するような詳細かつ迅速な情報が満載で、“つぶやき”には多くのフォロワーがいる。