疾患関連情報

◆ 特別企画

#1 羽鳥先生

お話の内容はインタビュー(2011年9月)時点のものです

#1 実地医家における心原性脳塞栓症の予防

羽鳥 裕 先生 はとり内科循環器クリニック 院長
~抗凝固療法の現状と未来~

早稲田大学理工学部建築学科卒業後、1978年横浜市大学医学部卒業。同年 神奈川県立がんセンター、横浜市立大学第2内科、横浜市立港湾病院勤務(循環器副医長)。1989年 はとり内科循環器クリニック開業、現在に至る。

最低1年に1度は心電図を撮るようにしたいですね。

 当院の月間平均外来患者数は約1,200人で、長期処方の方も含めると約1,500人です。ほとんどはこの川崎地区在住の患者さんですが、近くに横須賀線、南武線の駅があることもあって、戸塚、平塚などかなり遠いところから来られる方や、この近辺で仕事されていて、お昼休みに来られる患者さんもいらっしゃいます。その約半分は65歳以上の高齢者で、心房細動の患者さんは150人くらいです。

 昔はリウマチ性の心疾患や心房細動であれば弁膜症性のものが多かったのですが、近年そういう患者さんはほとんどいなくなって、年齢の変化による動脈硬化性の疾患が増えており、心房細動も同様の理由で増えてきていると思います。
 ただ、心房細動の症状を訴える患者さんはあまり多くはなく、さらに2008年4月から導入された特定健康診査(特定健診)で、心電図は前年度に異常がない限り撮れないという条件付きになってしまったため、見過ごされている患者さんは多いのではないかと思われます。当院ではできるだけ心電図を撮るようにしていて、症状はまったく無いのに健診で見つかった患者さんが心房細動患者の1/3くらいはいます。ですから、心電図は最低でも年に1回は撮るようにしたいですね。ある先生も仰っていますが、「がんの検診も大事だけど、心・血管の健診もきちんとやれ!」という言葉にまったく同感です。

患者さんの服薬コンプライアンスを
維持させるのが実地医家の役割だと思います。

 心房細動の患者さんに対しては、ワルファリン療法を基本に考えています。全体の約7割の患者さんにワルファリンを使っていて、それ以外はアスピリンか何も飲まない方です。心房細動自体の治療に関しては、新規の場合には一度は不整脈専門医に診てもらって、必要ならばカテーテルアブレーションを施してもらってから戻してもらいます。幸いこの地域は近くの病院に不整脈治療を積極的にされている専門医の先生がいらっしゃいますのでよく相談しています。
 ワルファリンの導入は、基本はCHADS2スコアで2点以上ならば絶対に行います。当院の場合はほとんどの患者さんが「A:年齢」で1点に入ってしまうので、個々の状態をよく調べて2点以上に該当すれば処方を検討します。PT-INRは院内で測定し、その場でワルファリンの用量調節を行います。原則月1 回測定に来てくださいと言っていますが、だんだんと来なくなってしまう患者さんも少なくないです。大学病院や基幹病院の先生の言うことならば100%納得してくれるでしょうけれども、実地医家に通院されている患者さん達は患者さん同士の横の関係の方が強く、新規の薬や定期的な採血に対して十分に納得してもらうまでには大変苦労しますが、服薬コンプライアンスを維持させるのが実地医家の役割だと思っています。看護師からも脳梗塞や出血のリスクについて一人ずつ個別に説明していますが、糖尿病の栄養教室のような対応まではしていません。最近は病院からの逆紹介も増えていて、その場合は維持期になって落ち着いた患者さんのフォローなので、既に病院できちんと教育を受けて来ます。
 大出血を起こしてしまった場合は手に負えませんが、歯肉出血や鼻出血などの場合は、口腔外科や耳鼻科の先生に相談して止めてもらったり、外傷などで血腫を起こしてしまった場合と同様に、圧迫止血しながら様子を見たりしています。今まで出血で大きなトラブルになった症例は幸い多くはありません。

新規経口抗凝固薬が定着するには、
日本人に対する十分なエビデンスの蓄積が必要です。

 新規経口抗凝固薬に切り替えた症例はまだ少数です。患者さんから処方を希望された場合や、病院で「このお薬はまだ2週間処方なので近くの医院に行ってください」と言われた場合に限って処方をしています。
 新規経口抗凝固薬は、採血の必要がないのが一つの特徴ですが、患者さんにとっては効き目が実感できない、医師にとっては患者さんとの関係が希薄になるなど、きっといい関係にはならないと思います。何かコミュニケーションに繋がる指標があって欲しいですね。
 やはり、新規経口抗凝固薬のメリットを患者さんに生かすためには、日本人に対する十分なエビデンスを蓄積して、適正な用量で患者さんに納得していただいた上で使っていくことが重要と思います。
 患者教育には、ACT-FAST※1みたいに何か絵や画像を使ったような、動きや表情の変化が具体的にわかるものがあれば役に立つと思います。

※1 脳卒中の徴候を啓発するためにNational Stroke Association(米国脳卒中協会)が行っているキャンペーン。
  F:Face(顔の表情)、A:Arms(腕の動作)、S:Speech(言語)に異常があれば救急車を呼ぶT:Time(時)

心原性脳塞栓症は一次予防も二次予防も
地域連携が重要です。

 現在、四大疾病・五事業※2の地域連携を図り、特に、脳卒中は黒岩義之先生(横浜市立大学医学部神経内科学講座)達と尽力しています。また、地域の勉強会で病院の先生方と交流することで、関係先の先生が患者さんに「あの地区に行けば、この先生がいるから大丈夫だよ」とかと言ってくれます。これも連携の一つとして大変役に立っています。
 最近は心房細動だけでなく心不全も圧倒的に増えています。心不全は、在宅酸素療法で劇的に改善し保険も認められるようになりましたから、近くの開業医で診る連携システムがあるといいですね。動脈硬化から発症するケースが増えてきているわけですから、心房細動と心不全を一緒に考えた連携システムの構築が今後は望まれると思います。また、心内血栓などは、高額の上位機種のエコーでないとわからない場合もありますから、そのような設備を持った病院へ簡単に検査オーダーができるような連携も望まれます。
 今後の課題としては、救急患者受け入れ体制の強化があります。東京はエリアごとに曜日を決めて「この日は何が何でも全部受ける」というシステムになっていますが、神奈川はそこまで確立していません。t-PA療法を行う基準は発症から3時間以内とされていますから、初動でもたもたしているとゴールデンタイムの3時間はあっという間に過ぎてしまいます。心原性脳塞栓症は、一次予防と二次予防がありますから、急性期から維持期まで地域連携が重要です。神奈川は、東京に次いで人口が多く(神奈川904万人/川崎市140万人)、高齢者も比較的多いエリアですから、基幹病院と開業医がうまく連携して良好な受け入れ体制を構築していきたいと思います。

※2 四大疾病:がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病
  五事業:救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児救急を含む小児医療

お話の内容はインタビュー(2011年9月)時点のものです

1989年に内科、循環器科、消化器科、呼吸器科を標榜して開業し、羽鳥先生が院長を務めている。クリニックのホームページから問診表がダウンロードできるようになっており、予め記載して受診することにより、スムーズな診療が行えるようになっている。また羽鳥先生は、循環器専門医として診療しながら、日本臨床スポーツ医学評議員などスポーツ関連学会の委員を務め、神奈川県功労賞(体育協会スポーツ医学委員会委員長)にて表彰されている。