疾患関連情報

◆ 特別企画

#2 坂東先生

お話の内容はインタビュー(2011年10月)時点のものです

#2 実地医家における心原性脳塞栓症の予防

坂東 正章 先生  坂東ハートクリニック 院長
~抗凝固療法の現状と未来~

1979年 徳島大学医学部医学科卒業。同年徳島大学第二外科入局。1980年 小松島赤十字病院(現:徳島赤十字病院)循環器科心臓血管外科部門就職。1989年 Texas Heart Institute(Division of Cardiovascular Surgery)。1990年小松島赤十字病院復職。2003年 同院退職。坂東ハートクリニック開業、現在に至る。元 心臓血管外科専門医。

循環器専門医院として患者中心の診療を
心がけています。

 当院の月平均患者実人数は約1,800人です。直近3ヵ月間で心房細動患者数を調べてみたら、男性が229人(約60%)、女性が166人(約40%)で、約400人の心房細動患者がいます。私は専門が心臓外科で、当院は循環器専門(ハートクリニック)を標榜していますから、以前に弁膜症の手術などを受けられた患者さんや徳島赤十字病院からの逆紹介の患者さんが多く来られていて、この地域としては扱う心房細動患者数は多いと思います。徳島は全国同様に高齢者の多い地方都市ですが、循環器専門として診療を行っているせいか、65歳以上の高齢者は全体の約50%で、若い方も結構多くいらっしゃいます。
 スタッフは、看護師5名、臨床検査技師2名、事務3名、管理栄養士1名を配し、初診では約30分、再診では約15分かけて看護師が問診をします。カテ室とCT/MRIはありませんが、それ以外の循環器専門の診療はすべてこなせる設備を整えています。また、受診される患者さんには畳敷の席を用意したり、音楽を流すなど、心地よい時間が流れるような工夫も施しています。
 心房細動治療は、基本はガイドラインに則って診療しています。しかし、治療のゴールをどこに求めるか、その方が何を求めているのかなど、患者さんの生活や考え方を考慮し、その意思を尊重しています。患者さんが求めれば、カテーテルアブレーションの専門病院へも紹介します。重要なのは「患者さんが決める」ということで、メリットとデメリットを説明し、選択肢を提案するのが、私の役目と考えています。
 根本的には心房細動を起こさないように、血圧や喫煙などのリスクファクターをきちんとコントロールするのが重要です。当院では看護師がカウンセリングの勉強をしていて、患者さんと人生相談のような対話を通じて患者指導を行っています。

ワルファリンのモニタリングは、
トロンボテストで行っています。

 ワルファリンを使う際は、患者さんに「CHADS2スコアと脳梗塞年間発症率の関連(不整脈薬物治療に関するガイドライン:2009年改訂版)」の数値を示して、薬を飲むメリット、デメリットのどちらに重きを置くかという説明をします。ただし、日常診療ではCHADS2スコアだけでは判断できないことが多々あり、甲状腺に問題があるとか、エコーで左房径が大きいとか、CHADS2スコア以外の要因だけで脳梗塞を発症した患者さんを経験しています。臨床医の多くはこのような痛い目に遭っていると思います。したがって、CHADS2スコアはあくまでも目安であって、すべての項目を評価してから患者さんには説明するように心がけています。
 モニタリングは、トロンボテストを行っています。厳しい凝固レベルで治療するときはPT-INRを参考にする場合もありますが、日本人の場合はそこまで厳しい状態での治療が求められることはあまりありませんし、トロンボテストはマイルドなコントロールができる検査ですから、10%~20%台前半を基準値としてうまく調整はできています。

患者さんの全身状態をトータルで診ることが
開業医の役割と考えています。

 ワルファリンは通常朝服用することが多いですが、患者さんに認知症傾向があり家族と同居している場合は、夕食後に服用するよう指導しています。慌ただしい朝の時間帯よりも、時間の余裕がある夕食後なら、服用したことを家族が目の前で確認することができます。また高齢者で自立できない患者さんの場合にも、誰かが見守ることができる夜の方が飲み忘れは防げると考えています。
 血液凝固レベルが不安定な方は、状況によっては2週間隔で受診していただいています。また、抜歯の際は、「薬は絶対に止めるな」「薬を止めなければ抜歯できないような歯医者には行くな」と言って、私が信頼できる歯科医を紹介しています。
 一方、血圧、脂質、糖尿などすべてのリスクファクターをうまくコントロールしていても高齢者は運動機能の衰えから、転倒して頚部骨折で寝たきりになることもあります。そこで、当院ではInBody(体成分分析装置:㈱スポーツスタイル)という医療機械を使って全身各部位の筋肉量や姿勢バランスを評価し、「こういう運動をせんかったら、何ぼ血圧が良かってもあかんよ」と言って、その方に適した運動を薦めています。全身状態をトータルで診ることが、開業医の役割だと考えています。

新規経口抗凝固薬に対しては
十分なエビデンスが集積されるまでは慎重に。

 新規経口抗凝固薬は、基本的に評価が定まるまで少なくとも半年は待ってからと考えていましたが、「採血や食事制限が煩わしいのでどうしても使いたい」と希望する方に対しては、安全性や薬価など十分な説明をした上で使用に問題がなければ処方しています。これまでワルファリンからの切り替えと新規処方で計14人に使いました。その中には血尿が出現したとか、基礎疾患の悪化からクレアチニンが急に上昇した例では処方を中止しました。当地の地域性かもしれませんが、ムカデに噛まれて暫くしたら局所が腫れてきて救急病院に入院した患者さんがいました。「新規経口抗凝固薬が処方されていますが、クレアチニンが上昇していて、APTTも随分延びてきているようですが、どうしましょうか」と入院先の先生から連絡があり、「直ちに中止してください」とお願いしました。予防薬で事故が起きるのは非常に残念なことですから、常に気をつけてなくてはなりません。
 患者さんを安全に治療していくことが私の最大の使命ですから、十分なエビデンスが集積されるまでは慎重にならざるを得ません。以前米国で心臓手術のトレーニングを受けていたときに、米国人と日本人では凝固能力が明らかに違うと感じました。海外で手術をされたことのある先生なら同じ経験を持っていると思います。やはり、少数例しか日本人が登録されていないデータのエビデンスをそのまま信用するのは危険だと思います。また、民族別に適した用量設定の検討も必要だと思います。新規経口抗凝固薬が広く使われるようになるには、もう少し時間がかかるのではないかと考えています。危ない橋は渡りたくありません。

専門医でなくても基礎的な心房細動の治療が
できるようになることを望みます。

 心電図は、2008年4月から特定健康診査(特定健診)で条件付きになりましたが、無症候性心房細動を見つける重要な一つの指標ですので、心房細動の掘り起こしのためには、できるだけ心電図を撮るようにしてほしいです。
 また、整形外科、泌尿器科などの専門外にかかっていて、心房細動があるけれど治療していない患者さんが多いと思います。それは、決して医師が怠っているわけではなく、どうしていいかよくわからないというのが実状だと思うんです。ですから、専門病院でなくても血栓・塞栓の予防など、基礎的な心房細動の治療ができるようになるといいですね。
 幸い、この地域は連携が非常にうまくいっています。当院が循環器を専門としているため、急性冠症候群、心不全、大動脈解離などの急性期治療を要する患者さんが飛び込みで受診されることもありますが、救急で送って断られたことがありません。徳島赤十字病院をはじめ基幹病院がとても頑張ってくれていて非常にありがたいです。
 また、地域連携として、医師会や開業医同士の勉強会に呼ばれて参加しています。そういう場所で、「心房細動があるけど、どうしていいかよくわからんのよ」という声をきちんと拾い上げ、情報交換をして心房細動の治療ができるようになればいいと思います。

お話の内容はインタビュー(2011年10月)時点のものです

「患者さんが、その人らしく、活き活きと、楽しく人生を送られるよう、医療面でお手伝いをする」ことを目標に2003年に開業。「ここに来るだけで病気が治ったと思うことがある」と言う患者さんの言葉通り、壁・床・天井はもちろん、車椅子に至るまで、むくの杉材を使用した院内は木の香りで満たされている。また、診療を終えた患者さんが慌てずに着替えができるよう、2つの診療室を交互に使用するなど、患者さん目線の工夫が随所に散りばめられている。