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◆ 特別企画

座談会 新しい経口抗凝固薬のこれから

お話の内容はインタビュー(2012年7月)時点のものです
特別対談
座談会 新しい経口抗凝固薬のこれから
~J-ROCKET AFの公表結果と第Xa因子阻害剤の発表を受けて~
奥村 謙 先生          弘前大学大学院医学研究科 循環呼吸腎臓内科学 教授

内山 真一郎 先生      東京女子医科大医学部 神経内科学講座 主任教授

棚橋 紀夫 先生       埼玉医科大学国際医療センター
副院長/埼玉医科大学神経内科 教授

是恒 之宏 先生       国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター長
2011年7月、第23回国際血栓止血学会にて新規経口抗凝固薬であるリバーロキサバンの国内第Ⅲ相臨床試験 J-ROCKET AF (Japanese Rivaroxaban Once daily oral direct factor Xa inhibition Compared with vitamin K antagonism for prevention of stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation) の結果1)が公表され、「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制」の適応を有する日本初の第Xa因子阻害剤として、2012年1月に承認、4月に発売されました。そこで今回は、本誌編集委員の4人の先生方に、J-ROCKET AFの結果を概観していただき、脳梗塞予防の薬物療法を大きく変えていくと期待される新しい抗凝固薬の今後について、ご意見をうかがいました。
〜J-ROCKET AFの試験デザインの評価〜
J-ROCKET AFは日本人非弁膜症性心房細動患者を対象にした最大規模の抗凝固薬臨床試験


J-ROCKET AFの試験デザインや登録患者数からみた本データの有用性について、ご意見をお聞かせください(図1、表1)。

奥村 J-ROCKET AFの症例数1,280例1)は、国際共同試験のROCKET AF 14,264例2)に比べると少ないものの、日本人だけの非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験では最大規模であることを評価します。J-ROCKET AFがROCKET AF同様にダブルブラインド、ダブルダミーで遂行できたことも大変意義があり、敬意を表します。

是恒 当初、CHADS2スコア注)2点以上のハイリスク患者を1,000例以上も集めるのはかなり大変だと思っていましたが、実際は1,280例もの日本人NVAF患者が参加し、平均CHADS2スコアは3.27点という結果でした。まずは、これだけ多くの症例を集めて、かつ試験が遂行できたことを評価します。実は、私はJ-ROCKET AFに参加していましたが、ダブルブラインド、ダブルダミーという条件の試験への参加は今回が初めてでした。PT-INR(Prothrombin Time-International Normalized Ratio:プロトロンビン時間国際標準比)をコントロールすることがいかに大変かを経験していますので、J-ROCKET AFのPT-INRのTTR(Time in Therapeutic Range:治療域内時間)65%は大変良い結果であると思います。通常診療でこのレベルを達成するのはなかなか難しいですから、この試験ではうまくコントロールできたと評価しています。
内山 ダブルブラインド、ダブルダミーで実施されたJ-ROCKET AFは、よりハイレベルなデザインによる質の高い試験を完遂しており、その結果は信頼できると考えます。そして、リスク/ベネフィットのバランスが取れた良い成績であるという印象です。

〜用法・用量の妥当性〜
日本人のための日本人に適した用量設定


J-ROCKET AFでは日本人NVAF患者向けとしてリバーロキサバン1日1回15mg〔クレアチニンクリアランス(CCr)30~49mL/minの患者には10mg〕が投与されました1)。この日本独自の用量設定からみた本データの有用性についてはどのように評価されますか。

奥村 リバーロキサバンのバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)はほぼ100%ですが、約3分の1が腎排泄であり、抗凝固薬ということを考慮すると用量の設定は厳密に行わなければいけません。ROCKET AFの投与量は1日1回20mg2)でしたが、それよりも少ない1日1回15mg(CCr 30-49mL/minの患者には10mg)というJ- ROCKET AFでの投与量は日本人の体格などを考慮した上でのPK/PD(Pharmacokinetics / Pharmacodynamics)シミュレーション(図2)に基づいており、妥当と考えます。
棚橋 国際共同試験に参加して、国内臨床試験を海外と同じ条件で同時期に実施するのがスタンダードという最近の状況下で、J-ROCKET AFでは日本人に適した用量を独自に設定したことを評価します。1日1回15mg(CCr 30-49mL/minの患者には10mg)投与で、脳卒中または全身性塞栓症の発症率がワルファリンに比べ低値であった1)ことは、有効性検証の十分な例数を有していないものの、リバーロキサバンの重要なエビデンスになりました。ROCKET AFの結果(表2)とも一貫性があり、J-ROCKET AFの試験デザインは成功であったと思います。腎機能別の15mg投与群と10mg投与群のサブ解析の結果4)も興味深いものでした。
是恒 国際共同試験に組み込まれた場合、日本人はその試験の一部でしかありませんが、J-ROCKET AFは日本人のNVAF患者のみが対象であること、また、PK/PDのプロファイル(図2)から日本人に適した用量を独自に設定したことは英断であり成功であったと思います。抗凝固薬の用量設定をPK/PDのみで論じることは難しいと思いますが、結果的にはリスク/ベネフィットの視点から適切な用量設定であったと言えます。

〜有効性・安全性の評価〜
日本人非弁膜症性心房細動患者における良好な成績


J-ROCKET AFでは、ワルファリンの用量設定が日本のガイドラインに準拠して行われましたが、PT-INRコントロールの視点から、今回の安全性・有効性の結果をどのように評価されますか。

奥村 日本人NVAF患者におけるワルファリン療法のPT-INRコントロールは、「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)」(日本循環器学会)、「脳卒中治療ガイドライン2009」(脳卒中合同ガイドライン委員会)に「70歳未満2.0~3.0、70歳以上1.6~2.6の維持推奨」と示されており、J-ROCKET AFでもそれに準拠した設定でした。
  ワルファリンのコントロール値についての是非はあるものの、注目すべきは、リバーロキサバンの安全性主要評価項目において、「ROCKET AFの1日1回20mg(CCr 30-49mL/minの患者には15mg)投与群」、「J-ROCKET AFの1日1回15mg(CCr 30–49mL/minの患者には10mg)投与群」のいずれにおいても、ワルファリンへの非劣性が示されたことです。また、有効性を検証するための十分な例数を有していないものの、有効性主要評価項目においてもワルファリンと同程度であるということが確認されました(表1、表2)
  以上から、日本独自の用量を設定した今回のJ-ROCKET AFの結果と国際共同試験ROCKET AFの結果には一貫性があることが示されたことになります。
内山 J-ROCKET AFでは対象患者の3分の2に脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)の既往がありました。既往の有無で比較すると、既往がある場合は抗凝固療法による頭蓋内出血リスクは高くなります。また、高血圧の影響などで日本人は欧米人よりも頭蓋内出血リスクが高いと言われていますので、PT-INR値が海外の全年齢一律2.0~3.0ではなく、70歳以上は1.6~2.6とした条件下の結果であることは評価できます。しかし、70歳以上のPT-INR値の目標域の下限を2.0から1.6まで下げた場合には脳塞栓症の予防効果が減弱する可能性があり、もう少し色々な角度から検討する必要があるでしょう。
   ガイドライン上のPT-INRコントロール値の是非については、J-RHYTHM(Japanese Rhythm Management Trial for Atrial Fibrillation)5)のオブザベーショナルスタディの成績を待ちたいと思います。



J-ROCKET AF の登録患者はCHADS2スコア2点以上のハイリスク患者です。
患者背景の視点からは、今回の結果をどのように評価されますか。

奥村 CHADS2スコアが2点以上の患者が対象であれば、通常、脳梗塞の発症率は6%以上になると予想されますが、年間発症率が1.15%とのことですので、虚血性脳卒中(脳梗塞)の発症を抑制した結果であると思います。リバーロキサバン群は、脳卒中、TIA、全身性塞栓症の既往が6割強の患者にみられたので、二次予防の患者が多い試験であったとも言えます。
棚橋 CHADS2スコアで2点以上のハイリスク患者を対象にしていることはJ-ROCKET AFの特徴です。リバーロキサバン群がハイリスク例にもかかわらず脳卒中の発症を抑え、TTRが65%を達成したのは良い結果です。ハイリスク例におけるリバーロキサバンの有用性を示唆していると言えます。




J-ROCKET AFの結果をふまえ、リスク/ベネフィットの観点から
リバーロキサバンの安全性についてご意見をお聞かせください。

内山 重篤な出血性合併症の発現頻度がリスクということになりますが、頭蓋内出血、消化管出血は、ワルファリンに比べてリバーロキサバンの発現頻度が低い結果が示されています。加えて、特異的に消化器系症状の発現頻度が高いということも認められませんでした。これらがJ-ROCKET AFの結果から見えてくるリバーロキサバンの特徴であると思います。
棚橋 リバーロキサバンの安全性に関しては、消化管出血が上部・下部両方で発現頻度がワルファリンに比べて低いことは大きなメリットです。また、頭蓋内出血も少ない傾向であることが示されましたので、塞栓症に対しては抑制効果が期待でき、総合的には良い印象です。
是恒 安全性主要評価項目では、ワルファリンに対する非劣性と重大な出血事象は少ない傾向が示されています。重大でない出血事象として鼻出血と歯肉出 血が多く認められていますが、これはワルファリンでも同様に経験します。われわれが問題にするのは重大な出血事象で、リバーロキサバンは消化管出血を上部・下部ともにワルファリンに比べて増加させないという結果でした。

〜リバーロキサバンの適正使用に向けて〜
まずは腎機能の確認、そして患者教育が重要


J専門医のお立場から、実地医家の先生方へ、
新規経口抗凝固薬としてのリバーロキサバン使用時のアドバイスなどをお聞かせください。

奥村 使用時のアドバイスとしては、適応と腎機能等に応じて設定された用量を厳守して投与することが最も重要であると思います。服用が1日1回というのは患者さんにとって大きなメリットです。ただ、モニタリングの煩わしさから解放される一方、飲み忘れ時や中止時の影響という問題や、効果を実感しにくいということがあるでしょうから、患者教育などをとおして服薬遵守の周知徹底を厳格に行う必要があると思います。
内山 脳卒中、TIAの既往例の場合、ワルファリンは日本人では出血リスクを考慮して、より厳格に治療域をコントロールしなければなりませんが、リバーロキサバンは1日1回15mg(CCr 30-49mL/minの患者には10mg)の固定用量なので、ワルファリンのような用量調節の必要がなく、シンプルに使えます。
棚橋 リバーロキサバンの場合、約3分の1が腎排泄であることから、医師側としては腎機能やCCrをしっかりと把握して、禁忌症例を除外していかなければなりません。患者側としては、小さな錠剤ですので高齢者でも飲みやすく、服薬アドヒアランスの向上という点で期待できます。薬剤コストはワルファリンに比べると高額になりますが、基本的に患者さんは良い薬なら飲みたいと思っています。
 新しい経口抗凝固薬のすべてに当てはまりますが、モニタリングは本当に不要なのかという新たな問題が浮上しています。「新規経口抗凝固薬は、モニタリング の必要が無いことが特徴でありメリットである」とされているものの、「薬が効いている実感がない」と言う患者さんもいます。何か指標があると、治療に対する意欲や服薬アドヒアランスの向上につながると思います。
是恒 リバーロキサバンの服薬方法と剤型(1日1回1錠、錠剤)は服薬アドヒアランスの向上が期待できそうです。抗凝固薬は基本的に一生飲み続けますから、安全性において、消化管出血、消化器症状などの副作用がワルファリンと比べて差がないことはメリットの1つと言えましょう。

〜今後の新規経口抗凝固薬による薬物療法とリバーロキサバンへの期待〜
一次予防、そして二次予防への期待


今後の新規経口抗凝固薬による薬物療法およびリバーロキサバンへの期待についてお聞かせください。

是恒 今後、他の第Ⅹa因子阻害剤の試験結果がいくつも発表され、その結果が比較されていくと思います。ただ、それぞれの試験の方法や対象患者のCHADS2スコアなども違いますので、単に結果や数値を比べるのではなく、背景因子もきちんととらえた上で比較検討することが大切でしょう。また、リバーロキサバンについては、今後CHADS2スコア1点でのエビデンスを蓄積していく必要があります。
内山 経口抗凝固薬の選択基準を的確にするために、各々の用法・用量や適応の違いを明確に把握することが必要であると思います。J-ROCKET AFは、脳卒中、TIAの既往例が多いこと、日本人1,200例以上が参加したNVAF患者を対象にした国内最大規模の第Ⅲ相臨床試験であることを鑑みると、その結果は信頼性が高いと言えます。つまり、「リバーロキサバンは日本人のエビデンスがあり、そのレベルも高い」と言え、特に脳卒中、TIAの既往例における二次予防の薬剤としてワルファリンに取って替わるのではないかと期待しています。
棚橋 J-ROCKET AFでは、平均CHADS2スコアが3.27点(リバーロキサバン群)のハイリスク患者群に対して良い結果が出ました。脳卒中、TIAの既往に対するエビデンスがあり、特に脳領域においては期待される薬剤です。
奥村 J-ROCKET AFは、対象がCHADS2スコア2点以上の患者ですが、0~1点の患者にリバーロキサバンを使うことができないかというと、日本における適応症(NVAF患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制)にはリスクによる制限がありませんので、そのようなことはありません。
  また、ワルファリンはハイリスク例ほど投与しづらい薬と言われていますので、二次予防においてもエビデンスのあるリバーロキサバンは期待できます。今後もリバーロキサバンを含めた新しい経口抗凝固薬のエビデンスが続々と出てくるでしょう。注目していきたいと思います。



■References
 1)バイエル薬品社内資料(国内第Ⅲ相臨床試験)
 2)Patel MR, Mahaffey KW, Garg J, et al., N Engl J Med 2011; 365: 883-891.
 3)バイエル薬品社内資料(国内外第Ⅱ相臨床試験PK/PD解析)
 4)Hori M, Matsumoto M, Tanahashi N, et al., Circulation J 2012; 76 (Suppl. Ⅰ):Ⅰ-541.
 5)Atarashi H, Inoue H, Okumura K, et al., Circulation J 2011; 75: 1328-1333.

            お話の内容はインタビュー(2012年7月)時点のものです