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◆ 特別企画

なぜ、今心房細動なのか - 3

これからの抗凝固療法

5-1)現在の抗凝固療法の問題点

奥村

 現在の抗凝固療法にはワルファリンが推奨されていますが、ガイドラインが定めるINRの範囲内にコントロールするのは必ずしも容易ではないのが現実です。コントロールの良し悪しを評価する指標として、最近TTR(Time in Therapeutic Range: 治療域内時間)の評価が提唱されています。TTRについて、是恒先生にご説明いただきます。

是恒

 TTRとは、ワルファリンの投与期間の中で、目標とするINRの範囲が維持された日数が全体の何%かを表す指標で、低くなるに従って、脳卒中発症率が上がることがわかっています。他に、SPORTIFⅢ/V(Stroke Prevention Using an Oral Thrombin Inhibitor in Atrial Fibrillation)研究のメタ解析やACTIVE W(Atrial Fibrillation Clopidogrel Trial with Irbesartan for Prevention of Vascular Event)研究でも同様の結果が得られており、治療効果を得るためには、そのTTRをできるだけ維持することが重要と言えます。

奥村

 TTRを65 % 以上に保たないとワルファリンの効果は抗血小板療法と変わらなくなるということですね。他に、現在の抗凝固療法の問題点として何かありますか。

棚橋

 やはり出血ですね。ワルファリンの場合、治療域と出血域が重なるところがありますし、脳卒中の場合、血圧管理の問題もあります。脳卒中がご専門の先生方は、ほとんどが二次予防で使っていると思いますが、対象が80 ~90歳の患者が多いので、服薬管理の問題などがあります。病院に来なくなるようなケースもあり、定期的な血液検査も難しくなります。通常、心原性脳塞栓症の二次予防として、急性期病院でワルファリンを処方してかかりつけ医に戻しますが、再発した例のほとんどは服薬を中断していた例です。また、高齢者では複数の病院にかかっていて、多くの薬剤を処方されていることが多いので、薬物相互作用も非常に大きな問題です。

奥村

 心房細動患者の平均年齢は70歳前後ですが、脳卒中を発症しやすい患者さんはもう少し高齢になるので、ワルファリンの継続が困難な場合が多々あるということですね。
 そこで、新たな抗凝固薬への期待が高まっている訳ですが、その開発状況について内山先生からお話ししていただきます。

5-2)新しい抗凝固薬の開発状況

内山

 毎回のINR測定、ビタミンKの摂取制限、他剤との相互作用、頭蓋内出血や頭蓋外大出血のリスクといった既存の抗凝固薬の問題を解決するために開発されたのが、抗トロンビン薬や抗Xa薬です(表2)。ワルファリンは、肝で合成されるビタミンK依存性の凝固因子の合成を阻害することで間接的にトロンビンを阻害する間接的トロンビン阻害薬ですが、新規の抗凝固薬は、凝固カスケードのプロセスの中で働く凝固因子を特異的に阻害する分子標的薬で、肝の代謝酵素の遺伝子制御を受けないことから、ワルファリンの問題点が解決されています。

 最初に開発された抗トロンビン薬は、肝毒性などの問題で開発が中止されました。次に開発されたDabigatranは、2009年に臨床試験の成績が発表されています。もう1つ、抗Xa薬の中で開発が先行しているのはRivaroxabanで、海外ではROCKET AF(Rivaroxaban Once daily oral direct factor Xa inhibition Compared with vitamin K antagonism for prevention of stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation)試験9)、日本ではJ-ROCKETAF(JAPAN Rivaroxaban Once daily oral direct factor Xa inhibition Compared with vitamin K antagonism for prevention of stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation)試験9)が行われています(図8)。

これらはCHADS2が2点以上の心房細動患者に対するRivaroxabanと用量調節ワルファリン(INR2.0 ~ 3.0)の二重盲検比較試験です。現在、J-ROCKET AF試験については解析中ですが、ROCKET AF試験は、2010年11月にAHAで発表される予定です。60年続いたワルファリンの時代から、画期的な新薬により抗凝固療法のパラダイムシフトが起こるであろうと期待されます。

奥村

 ありがとうございました。それではこれから登場してくる新規経口抗凝固薬に対して求められる特性について、それぞれのお立場からご意見をいただきたいと思います。

5-3)新しい抗凝固薬に求められる特性

是恒

 有効性に関しては、ワルファリンのTTRが良い状態と同等のレベルが求められると思います。TTRが良ければワルファリンの脳梗塞予防効果はかなり高くなりますから、そのようなTTRが良い状態でのワルファリンと同等あるいはそれ以上が求められると思います。

奥村

 それ以上となると、出血の副作用が危惧されませんか。

是恒

 結局は出血との兼ね合いですが、RE-LY(Randomized Evaluation of Long Term Anticoagulant Therapy)試験では150mgのDabigatranは脳梗塞予防効果がワルファリンより優れていて、頭蓋内出血が6割少ないという結果でした。抗Xa薬でも同様の結果が求められると思います。

奥村

 一次予防となった場合、服薬アドヒアランス(服薬状況)の問題もあると思いますが、いかがでしょうか。

是恒

 長期間服用する薬剤なので、1日1回であればアドヒアランスも良好だと思います。また、ワルファリンと違い、例えば内視鏡手術の際も、前日まで服用可能で翌日にはほぼ効果が切れますからヘパリンに置換する必要がありません。ただし、飲み忘れると効果が切れてしまうので、服用を確認する必要はあります。

奥村

 高血圧症、脂質異常症の薬も1日1回投与が標準的になってきていますので、一次予防ではアドヒアランスの観点からも1日1回投与は重要なポイントですね。内山先生はいかがですか。

内山

 ワルファリンと同じような効果で、出血性脳卒中のリスクがワルファリンよりも低いというデータが出れば、かなり使い勝手はいいですね。それと、血液モニタリングが不要ですから、抗血小板薬と同じように投与できる薬として評価されれば、実地医家の先生方に診ていただけることになり、病院外来の負担が軽減されますね。

棚橋

 何と言っても安全性において優れていることが重要です。脳出血、あるいは重篤な消化管出血などの頻度が、ワルファリンと同等もしくは少ないことが条件でしょう。今、お話にあったように、アドヒアランスの向上は非常に重要なポイントですし、薬物相互作用が少ないという点にも期待しています。今はかかりつけ医でワルファリンからアスピリンに替える患者さんが少なくないと聞いていますが、新規の抗凝固薬が継続できれば再発も減ってくると思います。

奥村

 最後に、今後の脳卒中対策とガイドラインについて触れたいと思います。まず、地域医療連携と脳卒中対策基本法について、棚橋先生にお話しいただきます。