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◆ 特別企画

なぜ、今心房細動なのか - 2

心原性脳塞栓症の予防に関するガイドライン

3-1)心房細動治療(薬物)ガイドライン 2008年改訂版

是恒

 日本人の比較的リスクの低いNVAF(Non-ValvularAtrial Fibrillation: 非弁膜症性心房細動)患者を対象に、アスピリンの有効性と安全性をみたJAST(Japan Atrial Fibrillationand Stroke Trial)では、アスピリンに脳卒中予防効果がないこと、重篤な出血のリスクが高い傾向にあることが示され、2008年のガイドラインでは、CHADS2スコアに準じ、2点以上はワルファリンを強く推奨する(実線)、1点または、より弱いリスクではワルファリンを考慮できる(破線)4)としています(図6)。

 また、矢坂先生ら5)のデータをもとに、PT-INR(Prothrombin Time-International Normalized Ratio: プロトロンビン時間国際標準比)は70歳未満では2.0 ~ 3.0、70歳以上では1.6 ~ 2.6としています。NVAF以外の僧帽弁狭窄症または機械弁に対しては、従来通りワルファリンを使うことになっています。

奥村

 アスピリンは、JASTでは心原性脳塞栓症の予防効果が否定されました。ではこのガイドラインでは具体的にどのように変更になったのでしょうか。

是恒

 ワルファリンが使えない場合の次の選択として考慮できるとなっています。しかし、JASTだけでなく、J-BAT(Japan Bleeding with Antithrombotic Therapy)でも、頭蓋内出血の発症率が、ワルファリン0.6%に対し、アスピリン0.3%でしたから、リスクとベネフィットを考慮すると、ワルファリンが使えないからアスピリンを使うと安易に考えず、できるだけワルファリンを考慮していただきたいと思います。なお、アスピリンとワルファリンの併用については、①INR2.0 ~ 3.0でコントロールしていて血栓塞栓症を発症した場合、②非塞栓性脳梗塞やTIA(Transient Ischemic Attack: 一過性脳虚血発作)の既往があって抗血小板薬が必要な場合、③ステント療法後などでは考慮しても良いとなっています。

3-2)脳卒中治療ガイドライン2009

内山

 脳卒中治療ガイドライン20096)では、脳梗塞またはTIAの既往があるか、うっ血性心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病のいずれか2つ以上の危険因子を合併したNVAF患者にはワルファリンが強く推奨され(図7)、また、危険因子を1つ合併したNVAF患者にもワルファリンが推奨されています。危険因子のない60歳未満では、アスピリンおよびワルファリンが有効であるという十分なエビデンスはないとされています。また、ワルファリン禁忌のNVAF患者には抗血小板薬を投与しても良いとされています。ワルファリンの治療強度は、一般的にはINR2.0 ~ 3.0が推奨されるが、70歳以上は1.6 ~ 2.6にとどめることが推奨されています。表現方法に違いはありますが、日本循環器病学会が策定したガイドラインとほとんど意味合いは同じです。

奥村

 棚橋先生のご意見はいかがですか。

棚橋

 「グレードA」と「グレードB」は基本的にワルファリンを推奨しています。ですから、私たちの立場では、「グレードB」は「使うべきだ」と考えています。また、高齢者(70歳以上)のINR1.6 ~ 2.6というのはエビデンスが1つしかありません。もう少し多数例でのエビデンスが出てくると使いやすくなるのですが。実際に使っていて、本当に効いているのか疑問に思うことがあるのも事実です。

奥村

 ありがとうございます。続いて、リスク評価法としてCHADS2スコアがガイドラインで定着してきましたが、ヨーロッパ心臓病学会(ESC)から出された最新のガイドラインでは、さらに他の因子も加えたCHA2DS2-VAScスコアが使われています。これについて是恒先生にお話しいただきます。

心房細動患者における脳卒中のリスク評価法

4-1)CHADS2スコアとCHA2DS2-VAScスコア

是恒

 CHADS2スコアは、C(心不全)、H(高血圧)、A(75歳以上)、D(糖尿病)をそれぞれ1点、S(脳梗塞・TIAの既往)を2点とし、それらのリスク因子を合計します。点数が上がるに従って脳梗塞の発症率が増加するということがGageら7)によって報告されました。シンプルで日常臨床にも使いやすいため、欧米でも日本でも使われています。そして2010年に、Lipら8)が新しく「CHA2DS2-VAScスコア」を提唱しました(表1)。

 これは、C、H、Dの1点、Sの2点はCHADS2と同じで、年齢が75歳以上のAを2点にして、それ以外に、心筋梗塞の既往、末梢動脈疾患、大動脈プラークがあればV(冠動脈疾患)で1点、65 ~ 74歳はAで1点、女性は性別のScで1点が追加されました。これによりCHADS2スコアで1点とされる患者でも、CHA2DS2-VAScスコアで評価するとリスクがさらに上がることになります。2010年に発表された欧州心臓病学会(ESC)ガイドラインのリスク分類別の治療フローをみると、CHADS2スコア2点以上はワルファリン、1点でも75歳以上はワルファリンとなっています。これは新しいCHA2DS2-VAScスコアが反映されています。

奥村

 複雑になったような感じを受けますが、VAScの対象となるリスク因子は、日本循環器病学会のガイドラインで「考慮可」の項目として既に反映されていますね。心房細動患者を診たら、まず図6のリスク因子に該当するかしないかを見極めて、抗凝固療法の適応かどうかを判断することが心房細動診療のスタートであると思います。続いて、これからの抗凝固療法についてお話をいただきます。