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ディスカッション

日本において、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)が臨床使用可能となってから5年が経過した。近年、国内外の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象としたリアルワールド(実臨床)エビデンスが集積され、臨床試験と併せて結果を解釈したうえで治療を選択できるようになった。今回、第Xa因子阻害剤リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®)の国際共同前向き観察研究XANTUSの研究責任者であるAlan John Camm氏をお招きし、NVAFにおける最新リアルワールドエビデンスについてお話しいただくとともに、その意義や今後への期待について、専門医の立場からご討議いただいた。


  基調講演
  リアルワールド(実臨床)エビデンスの重要性

Prof. Alan John Camm
St. George’s University of London and Imperial College, United Kingdom

◆ リアルワールド(実臨床)エビデンスとは

  近年よく耳にするようになった「リアルワールドエビデンス」は、抗凝固薬の領域においては比較的新しい概念です。このエビデンスが本領域において、どのようなことに貢献し、何に役立つのか、考えていきたいと思います。
  薬剤の有効性、安全性を判断するためのゴールドスタンダードは無作為化臨床試験です。臨床試験は、限られた患者集団で厳密なプロトコールに基づいて実施され、主要評価項目を十分な検出力で評価できるようにデザインされていますが、その他の情報の検出力は十分ではありません。そのため、規制当局が新薬を承認する際には、リアルワールドでの調査が求められます。
  リアルワールド研究ではさまざまな背景をもつ患者が登録され、より日常診療を反映したデータを得ることができます。しかしリアルワールドエビデンスにはいくつかの注意すべき点があります。例として、研究の基盤が整っていない施設でもデータが収集されるため、データの質は臨床試験とは異なることが挙げられます。研究によっては特定の診療科に患者が偏ることもあるため、その結果が部分的な実臨床を示していることもあります。また、患者登録の段階で選択バイアスが入ることもあるでしょう。こうした制約を理解したうえで正しく解釈することにより、日常診療や私たちの知識をより正しい方向に向けてくれるということに、リアルワールドエビデンスの意義があります。

◆ リアルワールド(実臨床)エビデンスと臨床試験で一貫した結果が確認されたリバーロキサバン

   本領域における重要なリアルワールドエビデンスをいくつかご紹介しましょう。GARFIELD-AF1)はNVAF患者を対象とした大規模な国際前向き登録観察研究で、NOACが臨床使用される前の2009年に開始されました。2016年7月時点で56,000例以上の患者が登録されており、2018年までの追跡調査が予定されています。GARFIELD-AFでは、NOAC登場前後の抗凝固療法の大きな変化が示されており、今後多くの貴重なデータがもたらされるでしょう。
  リバーロキサバンでは、NVAF患者6,784例のデータを解析した国際共同前向き登録観察研究XANTUS2)の結果が報告されています。XANTUSでは、国外第Ⅲ相臨床試験ROCKET AF3)では除外されたCHADS2スコア0~1点の患者も多く含まれていますが、その結果はROCKET AFと一貫したものであり、臨床試験の結果がリアルワールドで再確認されたといえます。その他にも米国国防総省の健康管理データベースより27,467例のNVAF患者を評価した調査4)など、既に複数のリアルワールドエビデンスが報告されています。また、米国の薬剤処方データを用いたREVISIT US5)も実施されています。REVISIT USはリバーロキサバンを含むNOACのワルファリンに対する実臨床での有効性、安全性を検討する後ろ向きデータベース研究ですが、ワルファリン群に対してNOACの症例をマッチングし、かつ厳格な診断がなされる脳梗塞と頭蓋内出血のみに評価項目を限定することで、客観的な結果が得られるように工夫されています。
  抗凝固療法における重要な情報としてパーシスタンス(服薬継続率)が挙げられますが、NOACのリアルワールドエビデンスでもしばしば確認されています。Martinezらは、イギリスのプライマリケアデータベースから抽出したNVAF患者27,514例のデータにおいて、抗凝固薬のパーシスタンスを検討しています。その結果、NOACはビタミンK拮抗薬よりも継続率が高く、またいずれの群においても高リスク患者で継続率が高いことが示されました6)
  NVAF患者におけるNOACの有効性、安全性をより正確に把握するためにリアルワールドエビデンスが重要であることに疑いはありません。今後報告されるさまざまな研究結果にも期待したいと思います。


  ディスカッション
 日本人NVAF患者の抗凝固療法におけるリアルワールド(実臨床)エビデンスの役割

◆ リアルワールド(実臨床)エビデンスは、将来の医療の正しい方向性をもたらす

奥村 Camm先生のご講演にもありましたが、先生方はリアルワールドエビデンスの意義についてどのようにお考えでしょうか。
池田 近年、異なる特徴を有するさまざまな種類のリアルワールドエビデンスがあることを実感しています。1つの研究だけに目を向けるのではなく、いろいろなデータを参考にすることで、臨床試験と日常診療の間のギャップが埋まっていくのだと思います。
香坂 ROCKET AFでは対象患者のCHADS2スコア平均値は3.5でしたが、日常診療では低リスクの患者さんにリバーロキサバンを投与することもあり得ます。XANTUSの結果、低リスクの患者さんでもROCKET AFと同様の結果が得られた意義は大きいと考えています。
鈴木 リバーロキサバンは腎機能障害のある場合は減量投与することになっていますが、リアルワールドではすべての患者さんで添付文書通りの用量が選択されているとは限りません。このような情報が得られるのもリアルワールドエビデンスの意義だと思います。特に用量選択のボーダーライン、すなわちクレアチニンクリアランスが50mL/min前後の場合は、個々の患者さんにおいて有効性と安全性のどちらを重視すべきかを考慮して用量が選択されていると思いますが、XANTUSではどのような状況だったのでしょうか。
Camm XANTUSでは、通常用量を投与されるはずの腎機能正常患者のうち15%で低用量が投与されており、逆に軽度~中等度腎機能障害患者のうち36%で通常用量が投与されていました。また、通常用量よりも減量投与のほうが、血栓塞栓症、重大な出血事象、全死亡が多い結果でした2)。これは、腎機能以外の併存疾患が考慮され、主治医により低用量が選択されたことが影響している可能性があります。
鈴木 興味深いですね。減量投与のほうがイベントが多いという結果には、併存疾患以外の因子も影響しているのかもしれません。
香坂 NOACを使用するにあたって、推奨外の用量を選択することが適切だと考えられる状況もあり得るわけですが、これが正しいという確証はありません。リアルワールドエビデンスは、こうした臨床課題も含めて、将来への正しい方向性をもたらすものだと考えています。

◆ リアルワールド(実臨床)エビデンスにより、さまざまな状況における
  リバーロキサバンの使用法が明確に

奥村 日本人におけるリアルワールドエビデンスとしては、XAPASS7)が進行中です。
池田 XAPASSはNVAF患者を対象としたリバーロキサバンの前向き登録観察研究です。2016年6月1日時点で9,860例のデータが収集、固定されており、 XANTUSよりも多くの患者が登録されています。本調査にはCHADS2スコア0~1点の患者も多く含まれ、その分布は現在のところFushimi AF Registry8)とよく似ていることから、リアルワールドの患者像が適切に反映されていると考えられます。リバーロキサバンの国内第Ⅲ相試験J-ROCKET AF9)におけるリバーロキサバンの脳梗塞発症率は0.8%/年、頭蓋内出血発現率は0.7%/年でしたが(表1)、XAPASSではそれぞれ0.9%/年、0.4%/年でした(表2)。これまでのところ、XAPASSの結果はJ-ROCKET AFと一貫しているといえます。


奥村 リバーロキサバンの臨床試験の結果がリアルワールドでも再確認できているといえますね。
  このように現在、NVAF患者におけるNOACの種々のエビデンスが集積しつつあります。しかし、特殊な状況におけるNOACのエビデンスはまだ少なく、特にわが国では、アブレーション施行例が増加傾向にあるにもかかわらず、日本人におけるアブレーション周術期のNOACのエビデンスはほとんどないのが現状です。
  そこで、アブレーションを多く手掛ける施設が中心となり実施したのがJACRE10)です。JACREは、アブレーション施行予定で、すでにリバーロキサバンまたはワルファリン投与を受けているNVAF患者を対象とした登録観察研究であり、リバーロキサバンコホート(JACRE-R)とワルファリンコホート(JACRE-W)から成ります()。1,118例が登録されたJACRE-Rにおいて、主要評価項目(血栓塞栓性イベントおよび重大な出血事象の複合)の発現率は0.6%(7/1,118例)でした。その内訳は、血栓塞栓症2例、重大な出血事象5例でした10)
Camm JACRE-Rは症例数も十分で、アブレーション周術期にリバーロキサバンが使用できる可能性が示唆されたという意味で良い結果だといえます。日本におけるNOACのデータとして十分に活用すべきだと思います。
奥村 そうですね。JACREは、日本のアブレーション周術期のリアルワールドを反映したデータであり、リバーロキサバンとワルファリンの有効性・安全性が同程度であったことの意義は大きいと考えています。
  本日は、XANTUS、XAPASSを中心に、リバーロキサバンのリアルワールドエビデンスについて討議いただきました。これらの結果により臨床試験の結果が再確認され、加えて低リスク患者やさまざまなリスクを有する患者における有効性・安全性も確認できるという点に意義があります。安全性・有効性が明らかになっていない事項については、今後もリアルワールドで確認作業を行っていくべきだと思います。ありがとうございました。


目的:
安全性におけるリバーロキサバンのワルファリンに対する非劣性の検証。
対象:
日本人の非弁膜症性心房細動患者1,280例(心不全、高血圧75歳以上、糖尿病のうち2つ以上のリスクを有する、または虚血性脳卒中/TIA/全身性塞栓症の既往を有する患者)。
方法:
リバーロキサバン15mg(クレアチニンクリアランス30~49mL/minの患者には10mg)およびワルファリンプラセボ、あるいは用量調節ワルファリン(目標PT-INR:70歳未満は2.0~3.0、70歳以上は1.6~2.6)およびリバーロキサバンプラセボを1日1回投与し、最長31ヵ月間観察した。
安全性主要評価項目:
重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象
有効性主要評価項目:
脳卒中または全身性塞栓症
解析計画:
安全性主要評価項目に関して非劣性(安全性解析対象集団/治験薬投与下)を検証した。有効性の検証には十分な検出力を有していなかったが、有効性(プロトコール適合集団/治験薬投与下)についても評価し、さらに本試験における有効性および安全性成績を国外第Ⅲ相試験(ROCKET AF)と比較検討することで、日本人への外挿可能性を評価した。
結果:
■有効性:有効性主要評価項目(脳卒中または全身性塞栓症)の発症率は、リバーロキサバン群1.3%/年、ワルファリン群2.6%/年であった(ハザード比0.49[95%信頼区間:0.24~1.00]、p=0.050、Cox比例ハザードモデル)。
■安全性:安全性主要評価項目(重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象)の発現率は、リバーロキサバン群18.0%/年、ワルファリン群16.4%/年であり、リバーロキサバンのワルファリンに対する非劣性が検証された(ハザード比1.11[95%信頼区間:0.87~1.42]、非劣性マージン 2.0、p<0.001)。
有害事象:
リバーロキサバンが投与された非弁膜症性心房細動患者639例中326例(51.0%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められた。主要な事象の内訳は、鼻出血88例(13.8%)、皮下出血50例(7.8%)、歯肉出血40例(6.3%)等であった。重篤な副作用は35例(5.5%)に認められた。主要な事象の内訳は、突然死6例(0.9%)、出血性胃潰瘍3例(0.5%)、貧血、心不全、脳出血、鼻出血がそれぞれ2例ずつ(0.3%)等であった。リバーロキサバンの投与中止に至った有害事象(治験薬投与下、因果関係を問わない)は84例(13.2%)に認められた。主要な事象の内訳は、虚血性脳卒中8例(1.3%)、血尿4例(0.6%)、出血性胃潰瘍3例(0.5%)等であった。死亡に至った有害事象(全試験期間中、因果関係を問わない)は14例(6.3%)に認められた。死亡原因は、突然死(心突然死を含む)9例、虚血性脳卒中、頭蓋内出血、脳挫傷、肺炎および小細胞肺癌がそれぞれ1例ずつであった。
PT-INR:プロトロンビン時間国際標準比


    文献
  • 1)ClinicalTrials.gov Identifier: NCT01090362
  • 2)Camm AJ, et al. Eur Heart J 2016; 37: 1145-1153.
  • 3)Patel MR, et al. N Engl J Med 2011; 365: 883-891.
  • 4)Tamayo S, et al. Clin Cardiol 2015; 38: 63-68.
  • 5)Coleman CI, et al. Curr Med Res Opin 2016 Sep 20: 1-7. [Epub ahead of print]
  • 6)Martinez C, et al. Thromb Haemost 2016; 115: 31-39.
  • 7)イグザレルト®錠特定使用成績調査の現状報告― 2012年4月18日~2016年6月1日時点の調査票収集・データ固定症例での中間集計
  • 8)Akao M, et al. J Cardiol 2013; 61: 260-266.
  • 9)Hori M, et al. Circ J 2012; 76: 2104-2111.
  • 10)Okumura K, et al. Circ J 2016; 80: 2295-2301.
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