疾患関連情報

ディスカッション

冠動脈疾患(CAD)と心房細動(AF)を合併する患者では、抗血小板薬および抗凝固薬の両方が適応となるため、慎重な抗血栓療法が求められる。こうした患者における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行後の抗血栓療法に関して、近年さまざまな研究結果が報告されている。しかし、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の位置づけも含め、日本人患者における明確な指針はまだない。今回、急性冠動脈疾患領域の第一人者であるKeith AA Fox氏をお招きし、CAD合併AF患者における抗血栓療法についてお話しいただくとともに、第Xa因子阻害剤リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®)のリアルワールド(実臨床)エビデンスや、PCI施行後の非弁膜症性AF(NVAF)患者に対する抗血栓療法でのNOACの位置づけなどについて、国内外の循環器内科専門医の立場からご討議いただいた。




  基調講演
  CAD合併AF患者における抗血栓療法

Prof. Keith AA Fox
Professor of Cardiology, The University of Edinburgh, Scotland, UK

◆ 出血リスクと血栓リスクのバランス

  AF患者では通常、血栓塞栓症の予防に抗凝固薬が投与されます。一方、急性冠症候群(ACS)患者でステントが留置される場合は、ステント血栓症の予防に抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)が行われます。したがって、AF患者にステントが留置された場合、経口抗凝固薬(OAC)にDAPTを加えた3剤併用療法が行われることとなり、出血リスクの上昇が懸念されます。実際に、抗凝固薬を服用しているPCI施行患者を3剤併用群(DAPT+ワルファリン)または2剤併用群(抗血小板薬単剤+ワルファリン)に割り付けて1年間観察したWOEST1)では、3剤併用群の出血リスクが高いという結果が得られました。心筋梗塞またはPCI施行のために入院したAF患者約17,000例が登録されたデンマークの登録観察研究2)でも、抗血小板薬またはOAC単剤、DAPT、2剤併用療法(OAC+抗血小板薬1剤)、3剤併用療法のうち、出血事象は3剤併用療法で最も多いことが報告されました。
  したがって、現行の欧州心臓病学会(ESC)ワーキンググループのコンセンサス文書3)では、CHA2DS2-VAScスコアおよびHAS-BLEDスコアを用いて、血栓塞栓症および出血のリスクを層別化し、かつ安定冠動脈疾患(安定CAD)とACSのどちらであるかを考慮して抗血栓療法を選択するとされています。また、3剤併用療法の期間は、HAS-BLEDスコア2点以上の出血リスクが高い患者については4週間とされています。
  3剤併用療法の期間を短くすれば、出血リスクは低くなるでしょう。しかし、短期間のDAPT併用で冠動脈イベントやステント血栓症を十分に予防できるのでしょうか。近年、DAPTは比較的短期間で終了することが一般的ですが、新規の薬剤溶出ステントであっても、30日未満でDAPTを終了した場合のステント血栓症のリスクは、2年間継続した場合の20倍以上に上昇するとの報告もあります4)。DAPTは本当に短期間で終了できるのか、明確な指針は示されていません。
  それでは、抗凝固療法の新たな選択肢であるNOACをCAD合併AF患者に使用した場合はどうでしょうか。その疑問に答える臨床試験として、PIONEER AF-PCI5)が実施されています。PIONEER AF-PCIは、PCI施行後のAF患者を対象に、2種類の用法・用量のリバーロキサバン、あるいはビタミンK拮抗薬と抗血小板薬を併用した治療の安全性を検討する試験です(図1)。この試験により、PCI施行後のAF患者におけるNOACと抗血小板薬の併用について、また最適な抗血栓療法の知見が得られることを期待しています。

◆ リアルワールド(実臨床)エビデンスの意義

  臨床試験は、質の高いエビデンスをもたらすとして評価される一方、日常診療においてもまったく同じ有効性、安全性を示すとは限りません。臨床試験は、症例の選択基準に合致した一部の患者に限定して実施され、また厳格なプロトコールで管理されるため、臨床試験の結果と日常診療の間にはギャップが生じます。このギャップを補完するために大きな意味をもつのがリアルワールド(実臨床)エビデンスだと考えています。
  リバーロキサバンでは、NVAF患者6,784例のデータを解析した国際共同前向き観察研究XANTUS6)が報告されています。XANTUSでは、海外第Ⅲ相臨床試験ROCKET AF7)には含まれていないCHADS2スコア0~1点の患者や、種々の併存疾患を有する患者も登録されました。その結果、脳卒中や重大な出血事象の発現について、ROCKET AFの結果と一貫した結果が得られており、リアルワールド(実臨床)においてもリバーロキサバンの有効性、安全性が再確認されたといえます。
  さらに、リアルワールド(実臨床)でのリバーロキサバン、アピキサバンのワルファリンに対する有効性、安全性を検討するREVISIT US8)も実施されています。この試験は、米国の薬剤処方データを用いた後ろ向き解析であり、抗凝固療法のリアルワールド(実臨床)の実態をつかむための重要な試験だといえます。
  リバーロキサバンではさまざまなリアルワールド(実臨床)エビデンスが報告されており、また、現在も多くの研究が進行中です。将来的に、CAD合併AF患者におけるNOACの使用指針となるようなデータも得られることでしょう。


  ディスカッション
  CADを合併する日本人NVAF患者における適切な抗血栓療法とは

◆ わが国におけるPCI施行後のNVAF患者に対する抗血栓療法の実態実態

森野  欧州におけるCAD合併AF患者の抗血栓療法についてお話しいただきました。欧州では出血に着目した現実的なレジメンになっていると感じます。日本人は出血リスクが高いため、わが国の医師は出血性イベントに対して欧州以上に敏感だと思います。先生方は、PCI施行後のNVAF患者に対し、どのような抗血栓療法を選択されていますか。
田邉  1ヵ月間の3剤併用療法を基本とし、動脈硬化性の血栓塞栓症リスクが高いと考えられる患者には3ヵ月、6ヵ月と投与期間を延ばして対応しています。3剤併用療法後は、P2Y12受容体拮抗薬とOACの2剤併用療法に切り替えます。OACについては、それまで服用していた薬剤があればそれを継続し、新たに開始する場合はNOACを選択することが多いです。
香坂  私たちの施設では、平均すると3剤併用療法をもう少し長く行っています。6ヵ月間以上継続する場合もあります。私個人ではもう少し短く、3ヵ月程度で2剤併用療法に切り替えています。
阿古  当施設では田邉先生と同様、3剤併用療法の期間は1ヵ月間を基本とし、その後は2剤併用療法に切り替える方針をとっています。OACについても、それまで服用していた薬剤をそのまま継続することを基本としています。
森野  NVAF患者におけるPCI施行後1年以降の抗血栓療法はどのようにされていますか。
田邉  ESCのコンセンサス3)では、1年以降はOAC単剤で管理することが推奨されていますが、OACだけで動脈硬化性の血栓塞栓症を防げるという前向き研究の結果がまだ得られていないため、今のところ2剤併用療法を継続しています。出血性イベントが起きた場合は、抗血小板薬を中止し、OAC単剤に切り替えます。NVAF患者におけるPCI後の抗血栓療法は、今後PIONEER AF-PCIの結果が大きなインパクトを与えることとなるでしょう。
香坂  当施設全体でみると、2剤併用療法を継続することが多いように思います。私個人ではOAC単剤で管理することが多いです。
阿古  当施設でも、基本的には2剤併用療法を継続しているのですが、エビデンスが少なく、これが正しいのかどうかはわかりません。現在、AFIRE Study9)を実施中です。この研究は、ステント留置後の患者のみに限定しているわけではありませんが、PCI施行後1年以上が経過した患者を含む安定CADのNVAF患者を対象に、リバーロキサバン単剤療法と抗血小板薬単剤併用療法を比較することが目的です。この研究から、NVAF患者のPCI施行後慢性期の抗血栓療法について情報を得ることができます。


◆ リアルワールド(実臨床)エビデンスの重要性とリバーロキサバンへの今後の期待

森野  国内におけるNVAF患者を対象としたリアルワールド(実臨床)エビデンスとしては、リバーロキサバンの前向き観察研究であるXAPASS10)が進行中であり、2016年6月1日時点で9,860例のデータが収集、固定されています。リバーロキサバンの国内第Ⅲ相試験J-ROCKET AF11) におけるワルファリン群、リバーロキサバン群の脳梗塞発症率はそれぞれ2.0%/年、0.8%/年、頭蓋内出血発現率はそれぞれ1.3%/年、0.7%/年であり12)図2)、現時点までのXAPASSの成績はこれらの結果と一貫するものでした。
   先生方は、リアルワールド(実臨床)データの意義についてどのようにお考えでしょうか。
田邉  現状、海外のさまざまなガイドラインやエビデンスを参考に治療方針を決めているのですが、抗凝固薬や抗血小板薬のいくつかは、海外と日本で承認用量が異なります。また、日本人におけるイベント発症率は海外と異なるため、海外での知見をどこまで日本人患者に応用できるかは不明確です。
Fox  そのような疑問に応えるのがリアルワールド(実臨床)エビデンスではないでしょうか。日本においても、ぜひ、大規模な登録観察研究を実施すべきだと思います。
阿古  臨床試験の成績をリアルワールド(実臨床)で確認することは大変重要だと認識しています。XAPASSの最終解析結果が待たれますね。
香坂  診療パターンや薬剤の用量の差からくる海外と日本との状況の違いは、近年ますます大きくなっているように感じます。そこから生じる疑問をすべて臨床試験で確認することは難しいため、リアルワールド(実臨床)のデータを半年から1年のスパンで確認し、無作為化臨床試験はもっと長い期間で実施して、お互いに補完しあうというのが今日の治療の進歩に合っているのではないでしょうか。その意味で、XANTUS、XAPASSというリアルワールド(実臨床)エビデンスとROCKET AF、J-ROCKET AFという臨床試験の組み合わせは、1つのロールモデルのような役割を果たしているように思います(図3)。
森野  リバーロキサバンは臨床試験とリアルワールド(実臨床)エビデンスで一貫した成績が示されている唯一のNOACともいえますね。現在進行中のさまざまな研究は、CAD合併NVAF患者におけるリバーロキサバンの位置づけや使用方法について、方向性を示してくれるものだと思います。本日はありがとうございました。



目的:
安全性におけるリバーロキサバンのワルファリンに対する非劣性の検証。
対象:
日本人の非弁膜症性心房細動患者1,280例(心不全、高血圧75歳以上、糖尿病のうち2つ以上のリスクを有する、または虚血性脳卒中/TIA/全身性塞栓症の既往を有する患者)。
方法:
リバーロキサバン15mg(クレアチニンクリアランス30~49mL/minの患者には10mg)およびワルファリンプラセボ、あるいは用量調節ワルファリン(目標PT-INR:70歳未満は2.0~3.0、70歳以上は1.6~2.6)およびリバーロキサバンプラセボを1日1回投与し、最長31ヵ月間観察した。
安全性主要評価項目:
重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象
有効性主要評価項目:
脳卒中または全身性塞栓症
解析計画:
安全性主要評価項目に関して非劣性(安全性解析対象集団/治験薬投与下)を検証した。有効性の検証には十分な検出力を有していなかったが、有効性(プロトコール適合集団/治験薬投与下)についても評価し、さらに本試験における有効性および安全性成績を国外第Ⅲ相試験(ROCKET AF)と比較検討することで、日本人への外挿可能性を評価した。
結果:
■有効性:有効性主要評価項目(脳卒中または全身性塞栓症)の発症率は、リバーロキサバン群1.3%/年、ワルファリン群2.6%/年であった(ハザード比0.49[95%信頼区間:0.24~1.00]、p=0.050、Cox比例ハザードモデル)。
■安全性:安全性主要評価項目(重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象)の発現率は、リバーロキサバン群18.0%/年、ワルファリン群16.4%/年であり、リバーロキサバンのワルファリンに対する非劣性が検証された(ハザード比1.11[95%信頼区間:0.87~1.42]、非劣性マージン 2.0、p<0.001)。
有害事象:
リバーロキサバンが投与された非弁膜症性心房細動患者639例中326例(51.0%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められた。主要な事象の内訳は、鼻出血88例(13.8%)、皮下出血50例(7.8%)、歯肉出血40例(6.3%)等であった。重篤な副作用は35例(5.5%)に認められた。主要な事象の内訳は、突然死6例(0.9%)、出血性胃潰瘍3例(0.5%)、貧血、心不全、脳出血、鼻出血がそれぞれ2例ずつ(0.3%)等であった。リバーロキサバンの投与中止に至った有害事象(治験薬投与下、因果関係を問わない)は84例(13.2%)に認められた。主要な事象の内訳は、虚血性脳卒中8例(1.3%)、血尿4例(0.6%)、出血性胃潰瘍3例(0.5%)等であった。死亡に至った有害事象(全試験期間中、因果関係を問わない)は14例(6.3%)に認められた。死亡原因は、突然死(心突然死を含む)9例、虚血性脳卒中、頭蓋内出血、脳挫傷、肺炎および小細胞肺癌がそれぞれ1例ずつであった。
PT-INR:プロトロンビン時間国際標準比


    文献
  • 1) Dewilde WJ, et al. Lancet 2013; 381: 1107-1115.
  • 2) Lamberts M, et al. Circulation 2012; 126: 1185-1193.
  • 3) Lip GY, et al. Eur Heart J 2014; 35: 3155-3179.
  • 4) Généreux P, et al. Circ Cardiovasc Interv 2015; 8. Pii: e001362.
  • 5) Gibson CM, et al. Am Heart J 2015; 169: 472-478.e5.
  • 6) Camm AJ, et al. Eur Heart J 2016; 37: 1145-1153.
  • 7) Patel MR, et al. N Engl J Med 2011; 365: 883-891.
  • 8) Coleman CI, et al. Curr Med Res Opin 2016 Sep 20: 1-7. [Epub ahead of print]
  • 9) UMIN試験ID: UMIN000016612
  • 10) イグザレルト錠特定使用成績調査の現状報告 2012年4月18日~2016年6月1日時点の調査票回収・データ固定症例での中間集計
  • 11) Hori M, et al. Circ J 2012; 76: 2104-2111.
  • 12) 大橋陽平ほか.血栓止血誌 2015; 26: 385-395.
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  • COI:1)~6)、8)、9)、12)はバイエルから支援あり