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◆ Expert Keynote

#7 一生服用し続ける抗凝固薬

お話の内容はインタビュー(2013年7月)時点のものです

#7 一生服用し続ける抗凝固薬~患者QOLの重要性~

是恒 之宏 先生

国立病院機構 大阪医療センター 臨床研究センター長
1979年大阪大学医学部卒業、同第一内科入局。1980~83年大阪警察病院心臓センター。
1988~90年米国ジョンズ・ホプキンス大学。1992年米国ユタ大学、大阪大学第一内科助
手。1997年国立大阪病院循環器科。1998年国立大阪病院心房細動専門外来開設。2008
年国立病院機構大阪医療センター臨床研究センター長。

はじめに

  新しい経口抗凝固薬の時代を迎えて、より多くの心房細動患者に使用される機会が増えてきました。ESC2012ガイドラインでは65歳以上のすべての症例で抗凝固療法を適応と考えるようになり、今後その適応範囲も拡大していく可能性があります。また、一度開始した後は、副作用や投与できない状況が発生するか、心房細動が治癒しない限り、原則中止することなく継続的に服用する必要があります。
継続的に服用し、飲み忘れがないように患者さんの服薬
アドヒアランスを向上させるためには、副作用、特に出血に関する対策と服薬に伴うQOLの低下をいかに最小限にとどめるかが重要になってきます。ここでは、特に経口抗凝固薬の服用とQOLについて考えてみたいと思います。


抗凝固療法における患者QOLの重要性

1)なぜ重要なのか

  ドイツ脳卒中データバンクによれば、脳梗塞・TIA患者の抗血栓薬服薬アドヒアランスは、ワルファリンで服薬3ヵ月後85.2%、1年後77.4%であったと報告されています1)
抗血栓薬の服薬アドヒアランスが服薬開始後低下していく主要な原因として、ワルファリンでは 1)食事の制限、2)原則月1回のPT-INR(prothrombin time-international normalized ratio:プロトロンビン時間国際標準比)値測定のための採血、3)多くの薬剤との相互作用、4)出血性合併症の増加などが考えられます。このように服薬率が低下することは、脳梗塞高リスク患者において新たな脳梗塞発症率を増加させることになります。心房細動患者における脳梗塞予防の目的で抗凝固療法を行う場合、服薬することにより何らかの症状が消失する、軽くなるといった患者さんが自覚できるメリットはなく、長期にわたり服薬を継続するモチベーションを保つことは我々医師が予想するより難しい可能性があります。したがって、服薬によりいかにQOLを損なうことなく服薬アドヒアランスを保つかということはきわめて重要です。

2)QOLの評価:何を指標に評価するのか

  包括的QOLの評価法としてはSF-36が有名ですが、心房細動患者固有のQOL評価法としては山下らが開発したAFQLQがあります2)。AFQLQは、心房細動患者における自覚症状やQOLを評価するうえでSF-36より有用な評価法ですが、服薬のアドヒアランスをみるうえでの指標としては十分ではありません。したがって、治療薬の服用回数、コスト、治療満足度と服薬アドヒアランスを解析するには、その直接的な関連を検討する必要がありますが、心房細動患者における内服治療とそのアドヒアランスをこのような観点から解析した報告はありません。

3)患者の立場からみた抗凝固療法:National Health and Wellness Survey (NHWS)のアンケート調査

  J-RHYTHM試験3)やJ-TRACE試験4)などのレジストリにより、循環器専門施設における心房細動の治療実態については包括的な理解が得られています。しかし、より幅広い患者集団における心房細動の治療実態については十分なデータがありません。一般開業医も含めた治療実態の把握は、現在国際的なレジストリであるGARFIELD Registry(裏表紙参照) や伏見心房細動患者登録研究(FUSHIMI AF REGISTRY)などにより研究が進められていますが、病院に来院していない患者さんについてはほとんど現状が把握されていません。そこで我々はJapan National Health and Wellness Survey (NHWS)を用いて解析を試みました5)。この内容は2012年の日本心電学会で発表されています。NHWSは成人を対象とする横断的なインターネット調査であり、無作為層別抽出法を用いて幅広い集団における人口学的な代表性が確保されています。本研究では2008年、2009年および2010年のデータを結合して用いました。合計60,015名からの回答があり、そのうち565名が医師により心房細動と診断されたと回答しています。対象患者のうち9割はCHA2DS2-VAScスコア1点以上でしたが(表1)、CHA2DS2-VAScスコア別にワルファリン服用率を算出すると1点で31.5%、2点以上で34.0%でした(図)。この服用率は、J-RHYTHM 試験で報告された服用率(約90%)3)やJ-TRACE試験で報告された治療率(約70%)4)に比べて非常に低いですが、これは、各試験デザインに起因するものと考えられます。特に、これらの両レジストリでは循環器専門施設を対象としていますが、
NHWSはより幅広い患者集団を対象としています。本調査により、心房細動の治療パターンは循環器専門施設とより幅広い母集団とで異なっている可能性が示されました。2008~2010年は経口抗凝固療法としてワルファリンしか使えなかった時代ですので、これはきわめて重要なデータといえます。この565名を対象に、服薬アドヒアランスと可能性のある関連因子につき検討しました。服薬アドヒアランスの評価にはMorisky Medication Adherence Scale 6)を用いました(表2)。
表3にその結果を示します。年齢、合併症、自己負担額および併用薬剤(服薬アドヒアランスと有意に関連しており、服薬アドヒアランス良好群および不良群の間で有意に異なっていた変数)について調整を行うと、5つの変数〔自己負担額(診療費)、自己負担額(薬剤費)、併用薬剤、治療満足度および心房細動治療薬の薬剤数〕が服薬アドヒアランス不良と有意に相関しました。 興味深いことに、薬剤費の自己負担額は、良好な服薬アドヒアランスと関連していました。高価な薬剤を服用する限りはきっちり飲もうという気持ちが働くのでしょうか。また、年齢、合併症、抗不整脈薬(リズムコントロール)の使用および自己負担額に対する調整を行った後でも、治療薬剤数の少なさならびに治療満足度の高さは良好な服薬アドヒアランスと有意に関連しており、シンプルな治療法が患者さんの服薬アドヒアランスに対し有益であることが示唆されました。


QOLの維持・向上を目指して

1)服薬アドヒアランス維持のための対策

  最も大事なポイントは、なぜ服薬を続けることが必要なのか、それがどれほど大事であるのかということを患者さん自身が、また家族が理解することではないでしょうか。脳梗塞の二次予防の場合、脳梗塞を身をもって体験しているのでその重要性は理解しやすいでしょう。ただ、循環器内科医が診る多くの患者さんは脳梗塞を発症していない一次予防目的での服薬のため実感を伴っていません。私は比較的軽い後遺症のある脳梗塞患者も外来でできるだけ診るようにしています。外来の待ち時間など、患者さん同士で話し合う機会も多く理解の助けになると考えているからです。また、抗凝固薬を開始するほとんどの患者さんにおいて、これは一生服薬しなければならない薬剤であることを最初に説明することも重要です。また、外来受診の際には(脳梗塞や大出血などが)何も起こっていないことをお互いに喜び、服薬ができていることを確認しながら、褒めてあげることも必要でしょう。

2)食生活における対策

  ワルファリンでは、納豆、クロレラ、青汁、モロヘイヤ、抹茶など、ビタミンK含有量のきわめて多いものについては摂取しないように指導します。それ以外のものについてはバランス良く、緑黄色野菜についても摂取してはいけないわけではなく、摂りすぎに注意するよう説明します。各種食物のビタミンK含有量を見ると、例えばパセリでは850μgと非常に多いですが、これは100gあたりの量であり、パセリを100gも食べることはまずありません。あまり神経質になりすぎないようにすることが、服薬を続けるうえで重要だと考えています。
  リバーロキサバン、ダビガトランなどの新規経口抗凝固薬ではビタミンKによる影響はありませんので食事の制限は不要です。この点は患者さんにも大変喜ばれるポイントでしょう。

3)検査回数、入院日数の低減

  検査の回数については、ワルファリンの場合、原則月1回の採血でPT-INR値を測定することが必要ですが、新規経口抗凝固薬でもまったく採血が必要でないわけではありません。まず投与前に腎機能・肝機能のチェック、服薬量の決定、貧血のチェック、投与前のPTやAPTT(activated partial thromboplastin time:活性化部分トロンボプラスチン時間)値の測定などを行います。服薬開始後2週、4週の時点で再度貧血と腎機能チェック、必要に応じて止血検査を行い、安定していればその後は2~3ヵ月に1度のチェックでかまいません。また、詳細は省略しますが、大手術で周術期に抗血栓薬を中止せざるを得ない場合、ワルファリンに比べて新規経口抗凝固薬では効果の発現・消失が速やかであることから、その中止期間が短くてすみ、在院日数の短縮に効果を発揮します。この点も新規経口抗凝固薬のメリットと言えるでしょう。

おわりに

  心房細動における抗血栓療法は2011年以来新しい時代を迎えています。新規経口抗凝固薬の出現により食事制限の必要がなく、より服用しやすい薬剤が登場したことは、一生飲み続ける薬剤として大きなメリットがあることには異論がありません。服薬アドヒアランスを向上させるためには、治療薬剤数をより少なく、満足度の高い治療を継続することが、あらためて重要であることが示されました。今後とも心房細動患者において抗凝固療法を継続することが患者さんを脳梗塞発症から守ること、そのことが患者・家族のQOLを保つ予防医療であることをいつも忘れずに診療を続けていきたいものです。

■References

  1. 1)Hamann GF, et al., Cerebrovasc Dis 2003; 15: 282-288.
  2. 2)山下 武志 他,心電図 2003; 23: 332-343.
  3. 3)Atarashi H, et al., Circ J 2011; 75: 1328-1333.
  4. 4)Uchiyama S, et al., J Stroke Cerebrovasc Dis 2010; 19: 190-197.
  5. 5)是恒 之宏 他,心電図 2012; 32(Suppl.5): 181.
  6. 6)Morisky DE, et al., Med Care 1986; 24: 67-74.