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#6 最近の海外における心房細動の薬物治療ガイドライン

お話の内容はインタビュー(2013年2月)時点のものです

#6 最近の海外における心房細動の薬物治療ガイドライン~日本の実臨床へのインパクト~

池田 隆徳 先生

東邦大学医学部内科学講座 循環器内科学分野 教授
東邦大学医学センター大森病院 循環器/不整脈センター長
1986年東邦大学医学部卒業。1994〜1996年米国シーダス・サイナイ医療センターおよびUCLA留学。杏林大学医学部第二内科学教室教授を経て、2011年より東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野教授。日本内科学会認定医・専門医、日本循環器学会関東甲信越支部評議員・専門医、日本不整脈学会評議員、日本心電学会評議員。

はじめに

  心房細動患者の脳卒中予防の領域において、新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulant:NOAC)が相次いで登場し、わが国でも第Ⅹa因子阻害剤であるリバーロキサバンやトロンビン阻害剤のダビガトランが使用できるようになった。加えて、第Ⅹa因子阻害剤であるアピキサバンが承認され、エドキサバンも、本領域で現在開発中であり、この数年のうちには、ワルファリン注)を含め5種類の経口抗凝固薬を使用できる時代が到来することになるだろう。
  いずれのNOACも用量調節ワルファリンを対照とした大規模な比較試験が実施されており、そのエビデンスをもとに国内外の心房細動治療に関するガイドラインも相次いで改訂・発表されている。わが国においても、リバーロキサバンやダビガトランを処方する機会が増えており、国内の関連学会によるガイドラインの改訂に興味が高まってきている。
  そこで、本稿では、最近発表された国内外のガイドラインをふまえ、2012年8月に改訂された欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインを中心に解説し、ESCガイドライン2012がわが国の実臨床においてどのように応用できるのかといった点について私見を述べる。


最近発表された心房細動治療に関するガイドライン

  心房細動治療に関するガイドラインは各国・各地域の学会・機関から公表されている。同一の疾患を扱っているものの、それぞれの国・地域では、人種が異なることはもちろん、疾患構造や承認されている薬剤、医療環境・文化などが異なる。また、ガイドラインの作成メンバーの考えも異なるため、治療ガイドラインの推奨も異なる点があるのは当然であろう。
  主な心房細動治療のガイドラインとしては、ESC、米国心臓病学会財団/米国心臓協会/米国不整脈学会(ACCF/AHA/HRS)、米国胸部疾患学会(ACCP)、カナダ心臓血管学会(CCS)によるガイドラインがある。
  2006年に米国心臓病学会(ACC)/AHA/ESCが共同で「心房細動管理ガイドライン2006」1)を発表し、2010年8月にESCは独自のガイドラインを発表した。特に、限定アップデートを含め、この2年間で主要なガイドラインが相次いで発表された(図1)。
それぞれのガイドラインで示されている脳卒中のリスク評価や抗血栓薬の選択などについてその特徴を概説する。

1)ESC ガイドライン 2010

  2006年にACC/AHA/ESCが共同で「心房細動管理ガイドライン2006」を発表したが、その後、ESCは2010年8月に独自のガイドラインを発表した。
  ESCガイドライン20102)では、心房細動患者における脳卒中のリスク評価として、CHADS2スコアを推奨している。CHADS2スコアとは、うっ血性心不全、高血圧、年齢75歳以上、糖尿病をそれぞれ1点、脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)既往を2点として計算し、その合計でリスクレベルを評価するスコアリングシステムである。CHADS2スコアが2点以上の場合には経口抗凝固薬の適応を推奨している。スコアが2点未満の場合には、CHA2DS2-VAScスコア3)という新しいスコアリングシステムを用いて、リスクをさらに詳細に評価することを提唱している。CHA2DS2-VAScスコアとはCHADS2スコアを改良したもので、CHADS2スコアの75歳以上を2点に加点し、新たに血管疾患、年齢65~74歳、女性をそれぞれ1点の項目として追加している。CHADS2スコアで0点であってもCHA2DS2-VAScスコアで1点以上の場合には抗凝固療法が推奨されている(表1)。
  抗凝固薬としては、ワルファリン(INR:2.0~3.0、目標2.5)が推奨され、ワルファリンの代替薬として新規経口抗凝固薬(例:ダビガトランの承認用量)が記載されている。なお、本ガイドラインが発表された2010年当時は、NOACはまだ承認されていなかった。
  また、ESCガイドライン2010では、出血リスクを評価するスコアリングシステムとして、HAS-BLEDスコアが推奨されている。HAS-BLEDスコアとは、高血圧、腎・肝機能異常(それぞれ1点、両方あれば2点)、脳卒中、出血、 PT-INR(Prothrombin Time-InternationalNormalized Ratio:プロトロンビン時間国際標準比)の不安定、高齢(65歳超)、薬物の使用またはアルコール依存(それぞれ1点、両方あれば2点)を各1点として計算し、合計点で出血リスクを評価するスコアリングシステムである。HAS-BLEDスコアが3点以上の場合は、出血高リスクと定義し、ワルファリンあるいはアスピリンによる抗血栓療法開始後は、何らかの注意と定期的なチェックが必要と記載された。PT-INRの不安定とはTTR(Time in Therapeutic Range:治療域内時間)が60%未満、薬物とは抗血小板薬やNSAIDs(nonsteroidal antiinflammatory drugs:非ステロイド性抗炎症薬)と記載されている。


2)ACCF/AHA/HRS ガイドライン

  2011年2月、「2011 ACCF/AHA/HRS心房細動管理ガイドライン限定アップデート」4)が発表された。これは、「ACC/AHA/ESC心房細動ガイドライン2006」をもとに、ダビガトランのRE-LY試験(Randomized Evaluation of Long-Term Anticoagulant Therapy)の結果とFDA認可を受けて、限定的な改訂を行ったものである。心房細動患者における脳卒中、全身性塞栓症の発症予防として、重度の腎障害(クレアチニンクリアランス:CLcr<15mL/min)や高度の肝障害がない場合、ダビガトランをワルファリンの代替薬として推奨している。

3)ACCPガイドライン

  2012年に発表されたACCPガイドライン第9版5)では、脳卒中のリスク評価としてCHADS2スコアのみを使用している。CHADS2スコアが0点の場合は、抗血栓療法を行うことを推奨していないが、1点以上の場合は、抗凝固療法を行うことを推奨している。なお、抗凝固療法として、ワルファリン(INR:2.0~3.0)よりもダビガトラン150mg 1日2回を推奨している。

4)CCSガイドライン

  CCSは、2011年2月に心房細動治療ガイドライン
2010を発表しているが、2012年4月に限定アップデート版6)を発表した。アップデート版では、脳卒中のリスク評価として、基本的にはCHADS2スコアを用いているが、CHADS2スコアが0点の場合には、年齢65歳以上、または女性かつ血管疾患があるかどうかを確認することとしている。これはCHA2DS2-VAScスコアの概念を採用しているといえる。
  CCSガイドラインは、患者のリスクとそれに応じた薬剤選択についてシンプルな推奨を行っている。CHADS2スコアが1点以上であれば、経口抗凝固薬を推奨し、CHADS2スコアが0点の場合でも、65歳以上、または女性で血管疾患があれば経口抗凝固薬を推奨している。また、新しい経口抗凝固薬としてダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンを記載し、これらの薬剤は多くの患者でワルファリンよりも好ましいとされた。

5)AHA/ASAの科学的勧告

  米国では、ACCF/AHA/HRSやACCPからすでにガイドラインが発表されていたが、新薬の承認にあわせて、2012年にAHA/ASAの抗凝固薬に関するScience Advisory(科学的勧告)7)が出された。
  抗凝固薬の推奨については、ダビガトラン150mg 1日2回は1つ以上の追加リスク(CHADS2スコアが1点以上)があり、CLcrが30mL/min超の患者ではワルファリンの代替薬として推奨されている。また、1つ以上の追加リスクがありCLcrが15~30mL/minの場合は、ダビガトラン75mg 1日2回が考慮されるかもしれないという記載になっている。なお、米国では、ダビガトラン110mg 1日2回は承認されていないため記載されていない。
  脳卒中/TIAや全身性塞栓症の既往、あるいは追加リスクが2つ以上の場合、リバーロキサバン20mg1日1回(日本では15mg 1日1回が承認されている)がワルファリンの代替薬として合理的であると記載されている。なお、腎機能低下例(CLcr:15~50mL/min)ではリバーロキサバン15mg1日1回(日本では10mg 1日1回)が考慮されるとしている。
  ワルファリンあるいはNOACのどの薬剤を選択するかは、患者の危険因子、薬剤コスト、安全性、患者の好み、薬物相互作用、TTRなどを考慮して個別に決めることが提唱されている。

6)ESCガイドライン2012限定アップデート

  ESCガイドライン2012限定アップデート8)の特徴は、これまでのガイドラインとは異なり、心房細動患者の脳卒中リスク評価として最初からCHA2DS2-VAScスコアを用いることを推奨している点と、新規の経口抗凝固薬をNOACと定義し薬剤の区別なくBest optionとして推奨している点である。ワルファリンの位置づけはAlternative optionとした。アスピリンは、脳卒中の予防効果が弱く、特に高齢者では大出血や頭蓋内出血のリスクは経口抗凝固薬と変わらないと評価されたため、推奨していない(表2)。
  非弁膜症性心房細動と診断してから、抗凝固薬を投与するまでのアルゴリズムは、まず、65歳未満あるいは孤立性心房細動(女性であっても)、あるいはCHA2DS2-VAScスコアが0点であれば抗血栓療法から除外する。CHA2DS2-VAScスコアが1点以上であれば、経口抗凝固薬を選択する。抗凝固療法を開始するにあたっては、HAS-BLEDスコアが3点以上であれば「出血高リスク」として何らかの注意と定期的なチェックが必要とされている。なおESCでは、HAS-BLEDスコアは出血リスクを評価するために使用されるべきであり、抗凝固療法の除外基準として用いるべきでないとしている。
  経口抗凝固薬の選択については、患者にとっての価値や好みを考慮するとしているが、具体的には、患者背景、服薬アドヒアランスや副作用、薬剤コストを考慮することになる。


ESCガイドライン2012限定アップデートのポイント

1)CHA2DS2-VAScスコアを採用した意義

  CHADS2スコアは、2001年にGage9)らによって提唱され、各国のガイドラインにおいてリスク層別化の基準として用いられてきた。CHADS2スコアは、各危険因子を点数化して、該当する危険因子の点数を累積(足し算)して脳梗塞のリスクレベルを表しているため重症度がわかりやすく、危険因子の頭文字から命名されているため覚えやすい。つまり、専門家でなくても使いやすい評価システムといえる。わが国でも、Inoue10)が、日本人の心房細動患者の脳卒中発症頻度をCHADS2スコア別に検討し、スコアが高ければ高いほど脳梗塞の発症リスクも高いことが示され、わが国の心房細動患者においてもCHADS2スコアによるリスク層別化は妥当であることが示された。しかし、今回、CHADS2スコアではなく、CHA2DS2-VAScスコアが採用された。その理由は、次のように考えることができる。

●CHA2DS2-VAScスコアで抗血栓療法が必要でない
  できるだけ効果的な脳卒中予防を行うためには、抗凝固(血栓)療法を必要とする患者すべてに抗凝固薬を投与すべきであるが、そのような観点に立てば、リスクが高い患者をみつけるよりも、抗血栓療法が必要でない、つまり本当に「低リスク」の患者を同定し、それ以外の患者に抗凝固療法を行うという戦略の方がわかりやすい。そのためには、CHADS2スコアが0~1点の患者グループを、より詳細にリスク分類する必要がある。
  最近、例えばCHADS2スコアが0~1点でも、実はリスクが高く抗凝固療法が必要となる患者グループが存在することがわかってきた。
  CHA2DS2-VAScスコアは、危険因子としてCHADS2スコアの危険因子のほか、血管疾患、年齢65~74歳、女性を各1点の危険因子として追加し、年齢75歳以上は2点に加点している。CHADS2スコアとCHA2DS2-VAScスコアを比較したOlesen11)らの検討では、CHADS2スコアで0~1点の患者CHA2DS2-VAScスコアで再計算してみると、0~4点となる患者が存在し、0点の患者の脳卒中の年間発症率は1%未満であったが、1~4点の患者の年間発症率は、おおよそ2~8%であった(図2)。
  CHA2DS2-VAScスコアは評価項目が多く、煩雑との意見もあるが、CHA2DS2-VAScスコアを用いることによって、抗凝固療法を必要としない「真の低リスク」の患者を判別でき、また抗凝固療法が必要な患者を見逃す可能性が少なくなる。その意味で実臨床への導入の意義は大きいといえる。

2)NOACという考え方とその位置づけ

   2008年の日本循環器学会「心房細動治療(薬物)ガイドライン」15)に記載されている脳卒中のリスク評価の項目をみると、実質的にCHA2DS2-VAScの考え方を取り入れている。また、推奨薬剤からアスピリンを外したという点では、わが国のガイドラインはESCガイドライン2012の推奨を先取りしているといえる。
言い方を変えれば、アスピリンを推奨しないという点で、ESCはわが国のガイドラインの妥当性を裏付けたといえる。
  2011年のダビガトランの承認を受けて、日本循環器学会のガイドライン作成メンバーは、「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」16)を発表したが、当時はリバーロキサバンが未承認であり、NOACという概念はなかった。今後は、わが国でも「NOACの中での使い分け」が議論されることになると予想されるが、今回のESCガイドライン2012は、患者のプロフィールや好み、服薬アドヒアランス、副作用を考慮して選択するという実臨床にとってきわめて実践的な使い方を提案しているといえる。そうした意味で、今後改訂が予定されているわが国のガイドラインにも影響を与える可能性があるだろう。


ESCガイドライン2012の日本へのインパクト


   2008年の日本循環器学会「心房細動治療(薬物)ガイドライン」15)に記載されている脳卒中のリスク評価の項目をみると、実質的にCHA2DS2-VAScの考え方を取り入れている。また、推奨薬剤からアスピリンを外したという点では、わが国のガイドラインはESCガイドライン2012の推奨を先取りしているといえる。言い方を変えれば、アスピリンを推奨しないという点で、ESCはわが国のガイドラインの妥当性を裏付けたといえる。
  2011年のダビガトランの承認を受けて、日本循環器学会のガイドライン作成メンバーは、「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」16)を発表したが、当時はリバーロキサバンが未承認であり、NOACという概念はなかった。今後は、わが国でも「NOACの中での使い分け」が議論されることになると予想されるが、今回のESCガイドライン2012は、患者のプロフィールや好み、服薬アドヒアランス、副作用を考慮して選択するという実臨床にとってきわめて実践的な使い方を提案しているといえる。そうした意味で、今後改訂が予定されているわが国のガイドラインにも影響を与える可能性があるだろう。

おわりに

  ESCガイドライン2012では、ワルファリンよりもNOACを推奨しているが、日本人の使用経験はまだ少ない。改めて大規模な臨床試験を実施することは困難である以上、日本人における市販後の安全性情報やPMS(市販後の使用成績調査)の結果に基づいて薬剤を評価していくことになるだろう。
  また、実臨床ではワルファリンの強度が推奨されている目標レンジよりも低めにコントロールされているという実態があり17)、under treatmentの可能性が指摘されている。NOACはいずれも、用量調節されたワルファリンとの比較試験によって有効性が確認されており、NOACを用いることによって簡便で効果的な脳卒中予防効果が期待できるという考え方もできる。今回のESCガイドライン2012がきっかけとなり、より多くの心房細動患者がNOACによる抗凝固療法のメリットを享受できることを期待している。

■References

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