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#5 新規経口抗凝固薬とワルファリン

内容は2012年6月時点のものです

#5 新規経口抗凝固薬とワルファリン~その特長と使い分け~

棚橋 紀夫 先生

埼玉大学医科大学国際医療センター 副院長・神経内科 教授
1974年慶応義塾大学医学部卒業。1984年米国テキサス州ベイラー医科大学神経内科。1989年慶応義塾大学神経内科講師。2005年埼玉医科大学神経内科教授、埼玉医科大学国際医療センター救命救急センター教授。2007年埼玉医科大学国際医療センター脳卒中センター長。日本脳卒中学会専門医・理事、日本神経学会専門医・指導医・評議員、日本脳循環代謝学会理事ほか。

はじめに

数十年間にわたり使用されてきた経口抗凝固薬ワルファリンに加え、2011年3月にトロンビン阻害薬ダビガトラン、2012年4月に第Ⅹa因子阻害薬リバーロキサバンが発売され、非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の虚血性脳卒中・全身性塞栓症の発症抑制を適応として使用されるようになり、そのメリットや問題点が明らかになりつつある。実地臨床医にとって新規経口抗凝固薬とワルファリンをどのように使い分けるかは大きな課題となる。そこで、本稿ではこれらの薬剤の特徴とその使い分けを中心に解説する。

新規経口抗凝固薬の大規模臨床試験

  新規経口抗凝固薬の大規模臨床試験の概要を表に示す。
RE-LY1)試験(Randomized Evaluation of Long-Term Anticoagulant Therapy)はPROBE法であるが、 ROCKET AF2)試験(Rivaroxaban Once daily oral direct factor Ⅹa inhibition Compared with vitamin Kantagonism for prevention of stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation)、 J-ROCKET AF3)試験、 ARISTOTLE4)試験(Apixaban for Reduction in Stroke and Other Thromboembolic Events in Atrial Fibrillation)、ENGAGE AF-TIMI 485)試験(the Effective a NticoaGulation with factor xA next Generation in Atrial Fibrillation–Thrombolysis In Myocardial Infarction study 48)は二重盲検試験である。対象患者はRE-LY試験、ARISTOTLE試験ではCHADS2スコアが1点以上の症例を対象としているが、ROCKET AF試験、J-ROCKET AF試験、 ENGAGE AF-TIMI 48試験では2点以上の症例を対象としており、後者の3つの試験はよりリスクの高い患者を対象にしていることがわかる。また有効性の統計解析方法がRE-LY試験、 ARISTOTLE試験ではITT(Intention-to-Treat)解析であるが、ROCKET AF試験、J-ROCKET AF試験ではOn treatment解析であり、ENGAGE AF-TIMI 48試験でもOn treatment解析を予定している。
  本邦で行われたJ-ROCKET AF試験は、日本人の体格に合わせた用量を用い、日本のガイドラインに準じたワルファリン療法との比較で得られたデータであり、日本の実態に近いという意味で臨床的意義が大きいと考えられる。
  これらの試験での脳卒中および全身性塞栓症の発症率と大出血(大出血についてはRE-LY試験とROCKET AF試験およびJ-ROCKE AF試験で定義が異なることに注意)の発現率を簡潔にまとめた(図1、図2)。RE-LY試験とROCKET AF試験では、比較対照のワルファリンの目標PT-INR(Prothrombin Time-International Normalized Ratio:プロトロンビン時間国際標準比)は同じである。一方、対象患者のリスクレベルは異なるため、ワルファリン群のイベント発症率は両試験間で異なることが予想されるが、実際には同レベルの発症率であった。これは、盲検性など試験デザインの差異が影響した可能性が否定できず、これらの試験間での薬剤の比較は適切ではないことを示唆している。ただし、これらの試験を総括すれば、新規経口抗凝固薬はワルファリンと比較して、いずれも同等あるいはそれ以上の有用性が期待できると考えられる。


臨床の立場からみたワルファリンと新規経口抗凝固薬の比較

  ワルファリンは、無治療群に比較しイベント発症を64%減少させるが、新規経口抗凝固薬はワルファリンと同程度あるいはそれ以上のイベント抑制効果が得られることが示された1-4)。出血性合併症に関しては、新規経口抗凝固薬における頭蓋内出血の発現がワルファリンよりも少ないという成績で共通している。この理由として、ワルファリンによるビタミンK依存性の凝固因子(Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)の生成抑制が、組織因子と第Ⅶ因子の複合体形成により開始される止血機構に影響を及ぼしている可能性が示唆されている。また、ワルファリンは24時間にわたり抗凝固作用を発揮しているが、新規経口抗凝固薬は1日のうちにピークとトラフがあり、トラフ時には生理的止血機構が 働くと考えられる点も理由として指摘されている。
  費用については、ワルファリンは安価であるが、新規経口抗凝固薬は高価である。効果発現・消失については、ワルファリンは十分な効果が発揮されるには数日かかり、中止時もその消失までに通常4日以上を要するが、新規経口抗凝固薬は効果発現・消失ともに早い。ワルファリンは 治療域が狭く、有効かつ安全な投与量の範囲が狭い。食物との相互作用は、ワルファリンで多くみられ、特にビタミンKを多く含む緑黄色野菜、納豆などの摂取には注意が必要であるが、新規経口抗凝固薬では食事制限の必要はない。薬物相互作用についてはワルファリンでしばしば認められるが、新規経口抗凝固薬で少ない。血液モニタリングについては、ワルファリンではPT-INRによる定期的な血液モニタリングが必要であるが、新規経口抗凝固薬ではルーチンのモニタリングを必要としない。しかし、薬効を評価する適切な指標がないともいえる。薬剤抵抗性は、ワルファリンに多い。  新規経口抗凝固薬では、現在のところ中和剤は知られていない。ワルファリンでは出血時などの対応としてビタミンKがあるが、効果が得られるまで半日~1日を要する。
  ワルファリンとリバーロキサバンは1日1回で、リバーロキサバンはさらに1錠でよい。ダビガトランは1日2回投与である。ダビガトランは80%、 リバーロキサバンは35%が腎から排泄され、腎機能障害患者では、減量または禁忌となる。ワルファリンは肝臓で代謝され、投与量の約1/3が腎から排泄されるが、未変化体はほとんどない。

ワルファリンと新規経口抗凝固薬の使い分け

1)原因疾患

  ワルファリンは、NVAFに限らず、弁膜症、人工弁、心筋症などを含め、あらゆるタイプの心房細動に適応があるが、新規経口抗凝固薬はNVAFの患者のみに適応となる。

2)リスク層別化による適応

  日本循環器学会の緊急ステートメント6)ではCHADS2スコア2点以上では、ワルファリン、新規経口抗凝固薬のいずれも推奨している。CHADS2スコア1点ではダビガトランが推奨され、ワルファリンはCHADS2スコア1点ではnet clinical benefitが確認されていないという理由で推奨ではなく考慮とされている。リバーロキサバンはCHADS2スコア1点の患者でのデータはないが、ダビガトランやワルファリンと同様、わが国の承認された効能・効果では、リスクの制限がなく、低リスクの患者にも使用できる。
  一方、本年8月に発表されたESCのガイドライン7)では、脳梗塞のリスク評価にCHADS2スコアではなくCHA2DS2-VAScスコアが採用され、ダビガトラン、リバーロキサバン、Apixaban(国内未承認)は一括して新規経口抗凝固薬NOACs(Novel Oral AntiCoagulants)という1つのカテゴリーとしてまとめられた。CHA2DS2-VAScスコアが1点の場合はHAS-BLEDスコアで出血リスクを評価し、患者にとっての価値や好みを考慮した上で抗凝固療法を実施する場合は、NVAFに対するbest optionとしてNOACsが推奨されている。ワルファリンはalternative optionという位置づけとなった。

3)腎機能障害

  腎機能障害患者では、ワルファリン服用による出血性合併症の増加が認められていることから、腎機能障害自体が出血リスクと考えられるので十分な注意が必要となる。
  ワルファリンは肝臓で代謝され、尿中に未変化体はほとんどないが、前述したように、ダビガトランは80%、リバーロキサバンは35%が腎から排泄されるため、クレアチニンクリアランス30〜49mL/min の患者では低用量を選択する。腎機能障害患者では、抗凝固薬の腎排泄の程度も考慮して薬剤選択を行うことが望ましい。

4)新規患者

  NVAF患者に新規に抗凝固療法を開始する場合は、新規経口抗凝固薬が推奨される。既往歴を含む問診、併用薬の有無、腎機能検査、年齢、体重などを考慮し新規経口抗凝固薬を開始する。投与量の調節、血液モニタリングの必要がないため、ワルファリンに比べ簡便である。適応患者を適切に選択すれば出血性合併症のリスクを軽減できる。NVAFで脳塞栓症を発症した患者における抗凝固療法として新規経口抗凝固薬を選択した場合、ワルファリンのような用量調節のための入院は必要なく、入院期間の大幅な短縮が期待される。

5)ワルファリンを服用している患者

  長期にわたりワルファリンによって良好にコントロールされている患者では、あえて新規経口抗凝固薬に変更する必要がないという意見もあるが、新規経口抗凝固薬ではワルファリンに比べ頭蓋内出血の合併が少ないため、切り替えのメリットは大きいと考えられる。また、PT-INRが不安定あるいは薬物相互作用により変動する場合は、新規経口抗凝固薬を考慮する必要がある。

6)服薬コンプライアンスの悪い患者

  新規経口抗凝固薬服用患者では、作用時間が短いため怠薬による血栓塞栓症発症が危惧される。ワルファリンの場合には、怠薬により即座に血栓塞栓症発症のリスクが増大する可能性は少ない。したがって服薬コンプライアンスの悪い患者には効果の消失が早い新規経口抗凝固薬は推奨できない。

7)抗血小板薬を併用している場合

  虚血性心疾患でステント留置患者、あるいは頸動脈ステント留置患者で心房細動を合併している場合は、抗血小板薬と抗凝固薬の併用のケースがみられる。特にアスピリンとクロピドグレルの2剤併用に加え、抗凝固薬を併用する場合は出血性合併症の発症リスクが増加する。この場合、できるだけ抗血小板薬を1剤にする、あるいは抗血小板薬と抗凝固薬の併用を回避あるいは長期にわたらないようにすることが推奨される。また、ステントの種類も薬剤溶出性ステントよりベアメタルステントが良いとされている。ワルファリンと新規経口抗凝固薬のどちらを選択するのがよいかについては十分なエビデンスはないが、新規経口抗凝固薬は薬効を調節することが困難であるため、ワルファリンにより強度を調節するほうが良いとする意見もある。

新規経口抗凝固薬 使用上の注意点

  新規経口抗凝固薬は、固定用量であり用量調節がないため容易に開始できる。しかし、適正な使い方をするために、年齢、体重、腎機能の評価、肝機能障害の有無、消化管出血の既往、併用薬剤などを確認し、禁忌項目がないかどうか、慎重投与すべき症例かどうかを明らかにする必要がある。また投与後も定期的な腎機能評価、ヘモグロビンの測定、ダビガトランではAPTT(Activated Partial Thromboplastin Time:活性化部分トロンボプラスチン時間)、リバーロキサバンではPTの測定が必要という意見もある。さらに、ワルファリンから新規経口抗凝固薬への切り替え、新規経口抗凝固薬からワルファリンへの変更などの際には多くの留意点がある。
  新規経口抗凝固薬の頭蓋内出血リスクはワルファリンより低いとはいえ、ゼロではなく、使用にあたっては、徹底した血圧管理などの注意が必要である。ワルファリンと同様に出血性合併症を起こす可能性がある薬剤であることを常に念頭に置き、適正使用に努めることが求められる。

おわりに

  新規経口抗凝固薬およびワルファリンの特徴と使い分け、注意点を中心に解説した。経口抗凝固薬は、心房細動患者の血栓症予防において必須の薬剤であるが、投与する医師がその使い方に習熟しなければならないことを改めて痛感させられる。患者や用量の選択だけではなく、厳格な血圧コントロールをはじめとする合併症の治療など、出血リスクのコントロール、腎機能、肝機能の推移にも注意して、より安全な抗凝固療法が普及することを望んでいる。本稿がその一助になれば幸いである。