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#3 新規経口抗凝固薬の臨床試験から言えること

内容は2012年6月時点のものです

#3 新規経口抗凝固薬の臨床試験から言えること

堀 正二 先生

大阪府立成人病センター 総長 / 大阪大学 名誉教授
名誉教授1970年大阪大学医学部卒業。同年同大学内科学第一講座入局。1979年米国アルバート・アインシュタイン医科大学心臓血管研究所留学。大阪大学大学院医学系研究科病態情報内科学(第一内科)教授、同循環器内科学教授を経て、現在、大阪府立成人病センター総長。日本内科学会評議員、日本成人病学会理事、国際心臓研究学会(ISHR)日本部会理事長、厚労省薬事・食品衛生審議会専門委員ほか。

はじめに

  近年、新規の経口抗凝固薬の臨床開発が活発に行われ、特に非弁膜症性心房細動(NVAF)患者における脳卒中発症予防を目的とした第Ⅲ相臨床試験の結果が相次いで発表されました。これらの試験では、いずれも脳卒中あるいは全身性塞栓症の発症頻度を有効性主要評価項目として、新しい経口抗凝固薬と用量調節ワルファリンとの比較を行っています。その結果、新しい経口抗凝固薬は、ワルファリンと同程度あるいはそれ以上の予防効果を発揮することが示されました1-4)。また、安全性については、いずれの試験においても、新規経口抗凝固薬はワルファリンと比較して、頭蓋内出血の発現頻度が低いことが確認されています。さらに、これらの新規の経口抗凝固薬は、投与量調節を目的としたルーチンのモニタリングを必要とせず、固定用量で投与できるメリットがあります。今後は、新規の経口抗凝固薬の使用頻度がますます増えていくと予想されますが、本稿ではそれぞれ公表されている臨床試験のデザインの相違点を整理し、これからの経口抗凝固薬の使い方について論じていきたいと思います。

非弁膜症性心房細動患者の脳卒中予防における新規経口抗凝固薬の開発

  NVAF患者の脳卒中発症予防において、トロンビン阻害薬であるキシメラガトランが用量調節ワルファリンと同程度の有効性と安全性を示すことが確認されました5-6)。これにより、固定用量の経口抗凝固薬の開発に拍車が掛かり、トロンビン阻害薬であるダビガトラン、第Ⅹa因子阻害剤であるリバーロキサバン、Apixaban、エドキサバンが開発され、それぞれ用量調節ワルファリンを対照とした第Ⅲ相臨床試験が実施されています1-4,7)


新規経口抗凝固薬の試験デザインのポイント

  試験結果が公表されているダビガトラン、リバーロキサバン、Apixabanを用いた各試験のデザインを(表1)に、各試験に組み入れられた患者の特徴を(表2)にまとめました。

1)有効性と安全性の主要評価項目

  いずれの臨床試験も有効性主要評価項目は「脳卒中および全身性塞栓症」と同じ定義を使っていますが、安全性主要評価項目の定義は試験によって異なり、いわゆる重大な出血(major bleeding)の定義にも違いがあります。

2)比較対照群(ワルファリン)のコントロールレベル

  対照薬であるワルファリンのコントロールレベルは、海外の臨床試験はすべてプロトロンビン時間国際標準比(Prothrombin Time-International Normalized Ratio:PT-INR)の目標値を2.0~3.0と設定しており、日本人の患者に対するレベルも同じです。ただしRE-LY試験(Randomized Evaluation of Long-term Anticoagulant Therapy)では、70歳以上の日本人患者に対してPT-INR値2.0~2.6と低めの目標値が設定されています。
 一方、日本人患者のみを対象としたJ-ROCKET AF試験(Japanese Rivaroxaban Once daily oral direct factorXa inhibition Compared with vitamin K antagonism for prevention of stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation)は、わが国のガイドラインに基づき、70歳以上の患者では、PT-INRの目標値を1.6~2.6とさらに低く設定しています。

  比較対照であるワルファリンのPT-INRの目標値を下げれば、脳卒中/全身性塞栓症の予防効果は減弱する可能性があり、試験薬であるリバーロキサバンにとっては有利となります。一方、出血リスクは低下するため、安全性の観点からはリバーロキサバンにとって不利になる可能性があります。試験薬の有効性、安全性を評価する際には、対照薬であるワルファリンのPT-INR値の目標レベルに留意すべきでしょう。
  なお、わが国の心房細動患者における抗凝固療法の実態としては、さらに低めのPT-INR値でコントロールされていると予想されます。したがって、70歳以上のワルファリンのPT-INR値を1.6~2.6と設定したJ-ROCKETAF試験は、わが国の実情により近い試験と言えます。

3)対照群との盲検性

  対照薬であるワルファリンとの盲検性がオープンラベルか二重盲検かは試験によって異なっていますが、厳格な比較試験という意味では、オープンラベルより二重盲検法の方が好ましいことは論を待ちません。ROCKET AF試験以降はすべて二重盲検・ダブルダミー法によって試験が行われています。
  確かに二重盲検法は試験としては厳格ですが、二重盲検法であるが故のデメリットもあります。ROCKET AF試験およびJ-ROCKET AF試験では、リバーロキサバン群で投与終了/ 中止後に脳卒中イベントが増加していることが観察されました。これは、その患者がリバーロキサバン群かワルファリン群かが主治医には分からず、また、二重盲検性を担保するため、リバーロキサバン中止後のPT-INRのデータが主治医には利用できなかったことが影響していると考えられます。実臨床においては、リバーロキサバンの投与終了の数日前からワルファリンを併用し、PT-INR値を治療域にコントロールしてからリバーロキサバンを中止するという対応が求められます(図1)。また、逆にワルファリンからリバーロキサバンへの切り替え時にも頻回の凝固能検査を行うなど慎重な対応が必要です(図2)。新しい経口抗凝固薬はワルファリンと異なり、効果の消失が早いことを念頭におく必要があるでしょう。

4)対象患者のリスクレベル

  RE-LY試験やARISTOTLE試験(Apixaban for Reduction in Stroke and Other Thromboembolic Events in Atrial Fibrillation)では、対象患者にCHADS2スコア1点の患者を含んでいます。一方、ROCKET AF試験、J-ROCKET AF試験、ENGAGE TIMI48試験7)では、CHADS2スコアが2点以上の比較的脳梗塞のリスクが高い患者を対象にしています。
  ROCKET AF試験とJ-ROCKET AF試験に組み入れられた患者の中で、脳卒中/全身性塞栓症あるいは一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attack:TIA)の既往のある患者は、それぞれ約55%、約64%で、ワルファリンの服薬歴がある患者は、それぞれ約62%、約90%でした。したがって、リバーロキサバンは、国内外の比較的リスクの高い患者において検討された抗凝固薬と言えます。また、脳梗塞のリスクレベルを示すCHADS2スコアで規定されているリスク因子は、心不全、高血圧、高齢(75歳以上)、糖尿病、脳卒中/TIAですが、これらの多くは出血のリスク因子でもあります8,9)。つまり、リバーロキサバンは、脳梗塞だけではなく出血のリスクも高い患者グループにおいて検討された抗凝固薬と言えます。

5)日本人患者に対する試験薬の投与量の妥当性

  国際共同試験で用いられた試験薬の用量が、日本人患者にとって至適投与量であるかどうかは、臨床試験全体の結果を日本人患者に当てはめる場合に重要なポイントとなります。  
RE-LY試験については、全体の集団と日本人部分集団について、血漿中総ダビガトラン濃度のトラフ値および投与2時間後の値が比較検討されています。血漿中濃度の10パーセンタイルから90パーセンタイルの範囲で見たところ、日本人部分集団の範囲が試験全体の集団の範囲に含まれていたことから、日本人患者に対しても外国人患者と同じ投与量(150mg1日2回、110mg1日2回)が妥当であるとされました10)
  Apixabanについては、日本人NVAF患者222例を対象に、ワルファリンとの比較試験であるARISTOTLE-J試験を実施しています。本試験では、国際共同試験のARISTOTLE試験で用いられている5mg1日2回あるいは2.5mg1日2回を、日本人患者に対して12週間投与したところ、脳卒中/全身性塞栓症の発症がなく、重大な出血事象もワルファリンと差がなかったことが確認されています11)。  
  一方、リバーロキサバンについては、日本は国際共同試験であるROCKET AF試験に参加しませんでした。その理由として、日本人と欧米人では薬剤(20mg)の曝露量[最高血中濃度(Cmax)、血中濃度・時間曲線下面積(AUC)]が同等でなかったことが挙げられます。国内および国外で実施された第Ⅰ相臨床試験において、日本人患者に20mgを投与した時の薬剤の曝露量は、欧米人患者に20mgを投与した場合と比較して、相対的に高値であることが認められました。また、NVAF患者を対象にした第Ⅱ相臨床試験での結果に基づいた薬剤曝露量のシミュレーションでは、同じ20mgを服用しても日本人患者の 中には欧米人患者の曝露量を超える患者が存在し、日本人患者が1日1回15mgを服用する場合と欧米人患者が1日1回20mgを服用する場合で、ほぼ同程度の曝露量を示すことも明らかになりました。これらの結果から、1日1回15mg〔クレアチニンクリアランス(CCr)が30-49mL/minの患者では1日1回10mg〕が日本人患者の投与量として選択されました。  
  また、結果として、J-ROCKET AF試験とROCKET AF試験では、ワルファリンとの比較において、有効性、 安全性のデータに一貫性が認められたことからも、日本人の患者に対して15mgを選択した妥当性が示されました。

6)投与量の選択

  新規経口抗凝固薬の共通した特徴として、モニタリングによる用量調節を必要とせず固定用量で投与できるというメリットがあります。しかし、抗凝固薬である以上、出血リスクが増大することは避けられず、出血リスクが高い、あるいは重複している患者に対しては低用量が好ましい場合もあります。 

  J-ROCKET AF試験では、薬剤の排泄経路である腎臓の機能を考慮し、CCrが50mL/min以上の患者はリバーロキサバン15mg群、CCrが30-49mL/minの患者はリバーロキサバン10mg群に割り付けられました。先述のようにARISTOTLE試験におけるApixabanの投与量は5mg1日2回でしたが、高齢者(80歳以上)、低体重(60kg未満)、血清クレアチニン値1.5mg/dL以上のいずれか2つの項目を満たす患者には、Apixaban低用量(2.5mg1日2回)が投与されました。CCrの推定式には、血清クレアチニン値だけでなく、年齢や体重も考慮されていますので、新しい経口抗凝固薬は固定用量といえども、出血リスクを考慮して用量選択するようになってきています。

これからの経口抗凝固薬の使い方

  NVAF患者の脳卒中予防に対する抗凝固療法は、医師にとっても患者にとっても効果が見えにくい薬物療法です。したがって、医師1人が経験する症例数では、薬剤の有用性の比較を行うのは困難と言えます。新規の経口抗凝固薬の臨床試験を俯瞰すると、いずれの薬剤もワルファリンと同程度かそれ以上の効果が示されているため、有効性・安全性の観点では、全体として大差は無いという印象を持っています。試験デザインが異なる臨床試験の結果(発現率)を横並びで単純比較して、薬剤の優劣を論じるのは適切ではありません。薬剤選択にあたっては、疾患の性質上、生涯を通じて服用する必要があるので、個々の患者にとって服薬アドヒアランスも考慮した視点が重要であると考えられます。

■References

  1. 1)Connolly SJ, Ezekowitz MD, Yusuf S, et al., N Engl J Med 2009; 361: 1139-1151.
  2. 2)Patel MR, Mahaffey KW, Garg J, et al., N Engl J Med 2011; 365: 883-891.
  3. 3)第23回国際血栓止血学会2011年(発表)
  4.    http://www.isth2011.com/prgrm-common/abstracts/html/03102.html
  5. 4)Granger CB, Alexander JH, McMurray JJV, et al., N Engl J Med 2011; 365 (11): 981-992.
  6. 5)Executive Steering Committee on behalf of the SPORTIF Ⅲ Investigators., Lancet 2003; 362: 1691-1698.
  7. 6)SPORTIF Executive Steering Committee for the SPORTIF Ⅴ investigators., JAMA 2005; 293: 690-698.
  8. 7)Ruff CT, Giugliano RP, Antman EM, et al., Am Heart J 2010; 160: 635-641
  9. 8)Lip GYM, Frison L, Halperin JL, et al., J Am Coll Cardiol 2011; 57: 173-180.
  10. 9)Fang MC, Go AS, Chang Y, et al., J Am Coll Cardiol 2011; 58: 395-401.
  11. 10)Hori M, Connolly SJ, Ezekowitz MD, et al., Circulation J 2011; 75: 800-805.
  12. 11)Ogawa S, Shinohara Y, Kanmuri K., Circulation J 2011; 75: 1852-1859.
  13. 12)バイエル薬品資料(イグザレルト適正使用ガイド・第2版)