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#2 日本循環器学会ガイドラインと今後の展望

内容は2011年8月時点のものです

#2 日本循環器学会ガイドラインと今後の展望

是恒 之宏 先生

国立病院機構 大阪医療センター 臨床研究センター長
1979年大阪大学医学部卒業、同第一内科入局。1980~83年大阪警察病院心臓センター。1988~90年米国ジョンズ・ホプキンス大学。1992年米国ユタ大学、大阪大学第一内科助手。1997年国立大阪病院循環器科。1998年国立大阪病院心房細動専門外来開設。2008年国立病院機構大阪医療センター臨床研究センター長。

はじめに

 2008年に日本循環器学会心房細動治療(薬物)ガイドラインが改訂されました。そこで本稿では、そのガイドラインの考え方や実際の対応方法を解説するとともに、新しい経口抗凝固薬時代にどのように変化していくのかについても考えてみましょう。

日本循環器学会ガイドライン2008の考え方

1)脳梗塞リスク評価はCHADS2スコアで行う

 CHADS2スコア1)とは、①Congestive heart failure(心不全)、②Hypertension(高血圧)、③Age(75歳以上)、④Diabetes mellitus(糖尿病)、⑤Stroke or TIAの既往の頭文字で、CHADはそれぞれ1点、Sは2点として患者の脳梗塞リスクを判定します。2点以上はワルファリンを推奨、1点で考慮することができるとなっていますが、服薬コンプライアンスが不良ではなく、転倒などの出血リスクが少なければ積極的に使用してよいと考えられています。

 図1 は日本循環器学会ガイドライン20082)に記載された治療戦略で、臨床的心不全と心機能低下は、まとめて1点と考えます。
 日本循環器学会ガイドライン2008が旧ガイドラインや欧米の2006心房細動ガイドラインと大きく異なる点として、日本におけるEBM、JAST試験(Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial)3)の結果が反映され、アスピリンを第一選択としないことが挙げられます。JAST試験ではアスピリンの有用性は否定的であり、無投薬例に比べて大出血のリスクが上昇する可能性があることが示されました。

2)ワルファリンとPT-INR コントロール

 日本人においてはPT-INR(prothrombin time international normalized ratio:プロトロンビン時間国際標準比)が1.6を下回ると大梗塞のリスクが上昇し、70歳以上の高齢者でPT-INR が2.6を超えると大出血のリスクが増加する4)ことから、70歳未満では海外と同様PT-INR2.0~3.0、70歳以上では1.6~2.6を目標とすることになっています。

3)心房細動患者の抗血栓療法

 発作性心房細動も、持続性・永続性心房細動と同様にCHADS2スコアに基づいて、抗血栓療法を選択します。Capucciらは心房細動感知型ペースメーカーを用いて、血栓塞栓症の発症と心房細動の発作期間との関係を後ろ向きに検討したところ、発作が1日以内であった症例では1日以上続く発作があった症例に比べて有意に血栓塞栓症発症が少ないことがわかりました5)
 また、これまで行われた大規模試験で、発作性心房細動の症例が含まれている割合によってワルファリン治療中の脳梗塞・全身性塞栓症の発症率を比較したところ、発作性心房細動の症例割合が多い試験では発症率が低い傾向があることが示されました6)

 一方、発作性心房細動患者では無症候性発作が生じていることが報告されていることから、実際の臨床では、発作がすべて1日以内におさまっているかどうかを把握することは必ずしも容易ではありません。実際、ACTIVE-W試験に参加した発作性心房細動と持続性心房細動における脳梗塞の頻度は差がなかったことが報告されています(図27)。したがって、現時点では発作性であっても持続性・永続性心房細動と同様にリスク評価を行い、抗血栓療法を行うほうがよいと考えられています。

4)ワルファリン使用時の注意

 ワルファリンを中止すると約1%の頻度で重篤な血栓塞栓症を発症することから、抜歯、白内障、小手術はワルファリンを中止せずに行います。抗血栓薬継続下での抜歯の安全性はランダム化比較試験や観察研究として報告されています。また、体表の小手術で術後出血への対応が容易な場合も抜歯と同様の対策が望まれます。
 一方、大手術の場合は、入院してワルファリンを中止しヘパリンで置換します。ヘパリンはAPTT(activated partial thromboplastin time:活性化部分トロンボプラスチン時間)を対照の1.5~2.5倍に延長するように投与量を調整します。手術の4~6時間前にヘパリンを中止するか硫酸プロタミンでヘパリンの効果を中和し、術前にAPTTを確認し、術後は可及的速やかにヘパリンとワルファリンを再開し、PT-INRが治療域に入ったらヘパリンを中止します。
 また、内視鏡による生検や内視鏡下での観血的処置時には、日本消化器内視鏡学会の指針で抗血栓薬の中止が勧められていることから8)、観血的処置を伴う場合は抗血栓薬を中止せざるを得ない場合が多いと推定されます。その際は大手術に応じた対応やリスクに応じて脱水の回避や輸液を考慮する必要があります。

臨床でしばしば遭遇する状況

(1)ワルファリンの実際の導入をどうするか?
導入時期に、特に大出血の合併症が多く発生するが、この合併症は、患者や家族教育により頻度を半分に減少できることが報告されています。そこで、特に高齢者においては家族も交えてワルファリン服用に関する指導が重要となります。当施設では独自に作成したワルファリン教室パンフレットを用いて指導を行っています。
(2)除細動のときにはどうするか?
除細動時には血栓塞栓に対する留意が必要になります。
(3)頭蓋内出血で緊急手術が必要な場合はどうするか?
ワルファリン投与中に頭蓋内出血を生じた場合、緊急手術をするためにはワルファリンの効果を直ちに中和することが必要になります。
(4)抗血小板薬2剤を使用している患者の場合どうするか?
冠動脈インターベンション後で、現在抗血小板薬2剤を使用している76歳の心房細動患者にワルファリンを投与する場合、出血のリスクは増大するので、臨床上注意を要するポイントです。
(5)その他の注意点は?
日常診療でワルファリン投与中の患者さんには、種々の注意点に留意していただく必要があります。

ワルファリンによる診療の進め方

1)ワルファリン導入は緩徐な増量で維持量に

 比較的リスクの低いCHADS2スコア1~2点の場合には原則外来で1mgから開始し、患者のスケジュールに合わせて、1~2週間ごとにPT-INRを見ながら増量し維持量に持っていくようにしています。維持量到達に2カ月ほどかかる場合もありますが、脳梗塞予防のベネフィットと大出血のリスクを考慮すれば緩徐な導入が妥当と考えられるからです。脳梗塞の既往があるような、より脳梗塞リスクが高い症例では、場合により入院させて短期間に維持量到達を目指します。急速飽和法は原則として行いません。その理由として、一つはoverdoseになり一過性出血のリスクが増加する可能性があること、もう一つはプロテインC、プロテインSなどが先行して減少するため、一過性に凝固能が亢進する可能性があることが挙げられます。私の心房細動外来での平均ワルファリン投与量は3mg/日で、5mg錠はほとんど使用していません。医療安全の立場からも、doseの違う錠剤を併用することは避けたいと考えます。

2) 48時間以上続く心房細動の除細動には抗血栓対策が必要

 48時間以上持続あるいは発症時期不明の心房細動を除細動する場合には、ワルファリンコントロールを3週間以上行った後に除細動することが必要です。もし、急いで除細動を行いたい場合には、経食道心エコーにより左心耳に血栓がないことを確認すれば3週間のワルファリンコントロールを省略することができます。除細動により洞調律に復帰した後も心房収縮不全が継続することが知られており、後療法として4週間のワルファリンコントロールが必要となります。

3)ビタミンKのみでは直ちにワルファリン効果を中和できない

 ワルファリン自体はビタミンK投与によりその効果を消失させることができますが、凝固因子量が回復してくるのに時間がかかるため、直ちに抗凝固作用が修正されるわけではありません。また、凝固因子を補うための新鮮凍結血漿の大量投与は基礎心疾患を伴う場合、必ずしも容易ではありません。そこで、ワルファリン効果の中和は、第Ⅸ因子複合体製剤とビタミンKを併用します。これにより、10分後にはほぼ完全にワルファリンの効果を消失させることができます。現在、第Ⅸ因子複合体製剤は保険適応ではありませんが、ガイドラインではその使用が推奨されており、今後の認可が待たれるところです。

4)心房細動を合併する高齢者の冠動脈インターベンションはなるべく薬物溶出性ステントを使用しない

 冠動脈ステントは、現在DES(drug-eluting stent:薬物溶出性ステント)が主流となっていますが、抗血小板薬2剤を長期併用することが必要となります。75歳以上の心房細動症例で冠動脈疾患を合併している場合、高血圧や糖尿病などCHADS2スコアに関連する因子を有する場合も少なくありません。この場合ワルファリンを併用することになりますが、抗血小板薬2剤とワルファリン併用により出血の合併症が増加すること、特に高齢者では頭蓋内出血のリスクが高くなることから、3剤併用の期間はなるべく短くすることが望ましいと考えられています。そのためには、DESを使用せずBMS(bare metal stent : ベアメタルステント)にした方がよいでしょう。3剤併用の場合も、PT-INRは1.6を上回るようにコントロールする必要があります。

5)患者さんには十分な理解を得るための説明と対話を

 実際にワルファリンを投与する際は、PT-INR測定の重要性、出血時の対応、および抜歯・手術、観血的検査の際の対応について、本稿1- 2)、4)に従い、患者さんに説明します。
 その他、食事については、①納豆、クロレラ、青汁、抹茶、モロヘイヤは摂取をしない、②その他の緑黄色野菜についてはバランスよく摂取してよい(一度の大量摂取は避ける)、③アルコールは、適量/ 毎日はよいが大量摂取はしないことなどを指導しています。
 また、他の薬剤を薬局で購入、あるいは他院で処方された場合には、①ワルファリンを服用していることを薬局・医師に伝える、そのために、②ワルファリン服用カードあるいはワルファリン手帳を携帯する、③可能な限り院外薬局を1箇所にして薬剤管理をしてもらうことを推奨しています。

新しい経口抗凝固薬時代を迎えて

 今回発売された経口抗トロンビン薬のDabigatranをはじめ、経口Xa阻害薬は、承認申請段階、治験終了、第Ⅲ相治験中など開発が続いています。ワルファリンと比較して、診察前の定期的な採血が不要であること、患者ごとの投与量の調整が不要であること、食事の影響がほとんどないこと、他剤との相互作用が少ないこと、効果が速やかに現われ半減期も短いことから術前へパリンへの置換が不要ないしは短期間であることなどが特徴です。また、Dabigatran9)、Rivaroxabanとも頭蓋内出血はワルファリンに比し有意に低いことが示されています。

 一方で、腎排泄型の薬剤が多いことから、高度腎機能低下例では投与が制限されること、また、半減期が短い分、服用忘れによる効果低下も速いこと、大出血の際の対策が十分確立していないこと、患者の費用負担増加の可能性があることなどの課題もあります。
 Singerらは、ワルファリンによる脳梗塞予防効果と頭蓋内出血増加を勘案したNet Clinical Benefit を算出し、CHADS2スコア別にその有用性を示しています10)図3)。

 CHADS2スコア2点以上ではワルファリンの優位性が明らかですが、1点以下ではその効果がボーダーラインになっていることがわかります。新しい経口抗凝固薬は、ワルファリンと同等あるいはそれ以上の脳梗塞予防効果とより少ない頭蓋内出血合併率を示すことにより、CHADS2スコアが1点であってもその優位性が示されるのではないかと期待されています。

おわりに

 新しい経口抗凝固薬はより簡便な導入や投与のメリットから、今後心房細動に対する抗血栓療法が、循環器専門医のみならず一般開業医の先生方にも広く実践され、ひいては寝たきり老人の最も大きな原因である脳梗塞発症を抑制することが可能になると期待しています。
 新しい経口抗凝固薬時代を迎え、欧米、カナダでは、すでにガイドラインが改訂されています。日本においても、ガイドライン改訂にはまだ間がありますが、Expert ConsensusがこのほどCirc Jに掲載されました11)

■References

  1. 1)Gage BF, Waterman AD, Shannon W, et al., JAMA 2001; 285: 2864-2870
  2. 2)小川 聡,相澤義房,是恒之宏 他, Circ J 2008; 72(Suppl. IV): 1640-1658
  3. 3)Sato H, Ishikawa K, Kitabatake A, et al., Stroke 2006; 37: 447-451
  4. 4)Yasaka M, Minematsu K, Yamaguchi T, Intern Med 2001; 40: 1183-1188
  5. 5)Capucci A, Santini M, Padeletti L, et al., J Am Coll Cardiol 2005; 46: 1913-1920
  6. 6)Wyse DG, Heart Rhythm 2007; 4: 534-539
  7. 7)Hohnloser SH, Pajitrev D, Pogue J, et al., for ACTIVE-W investigators,J Am Coll Cardiol 2007; 50: 2156-2161
  8. 8)小越和栄,金子榮藏,多田正大 他, Gastroenterological Endoscopy 2005; 47:2691-2695
  9. 9)Connolly SJ, Ezekowitz MD, Yusuf S, et al., N Engl J Med 2009; 361: 1139-1151
  10. 10)Singer DE, Chang Y, Fang MC, et al., Ann Intern Med 2009; 151: 297-305
  11. 11)Ogawa S, Koretsune Y, Yasaka M, et al., Circ J 2011; 75: 1539-1547