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#1 新しい抗凝固薬の展望

内容は2011年5月時点のものです

#1 新しい抗凝固薬の展望~経口Xa阻害薬を中心に~

鈴木 宏治 先生

鈴鹿医療科学大学 薬学部 教授
1974年3月大阪大学院薬学研究科博士課程修了。1989年7月徳島大学酵素科学研究センター酵素細胞学部門教授。1991年3月三重大学医学部分子病態学教授。2005年4月三重大学大学院医学系研究科分子病態学教授。2009年4月三重大学理事・副学長。2011年4月鈴鹿医療科学大学薬学部教授。

はじめに

 わが国では現在、脳卒中(脳梗塞、脳出血など)で治療を受けている患者は約140万人といわれています。特に脳梗塞の患者は脳卒中患者全体の2/3以上を占め、脳出血患者の約4倍です。また、近年では、ロングフライト症候群(エコノミークラス症候群)として知られる肺血栓塞栓症や深部静脈血栓症の増加が注目されています。このように現代人の多くは “血液の凝固(=血栓)” を原因とする疾患に苦しめられています。
 このような背景の下、最近、経口剤のトロンビン阻害薬やXa阻害薬が開発され、現在も新たな薬剤の開発が進んでいます。ここでは、抗凝固薬開発の歴史に触れ、経口Xa阻害薬の特徴とその期待を述べます。

抗凝固薬の開発の歴史 ~ヘパリンから経口Xa阻害薬への旅~

 1916年に発見された凝固阻害物質のヘパリンにより、抗凝固薬開発の歴史が始まりました(図11)。ヘパリン(未分画ヘパリン)は、血中のAT(antithrombin:アンチトロンビン、antithrombin Ⅲとも呼ばれる)に結合して、とりわけ凝固因子のXa因子とトロンビンを強く阻害して血液を固まり難くします。

 一方、家畜のスィートクローバー病の原因物質の研究をきっかけとして、ワルファリンが開発されました。ワルファリンは、ビタミンK依存性の凝固因子であるプロトロンビン(Ⅱ因子)、Ⅸ因子、Ⅶ因子、Ⅹ因子の産生を阻害して血液の凝固を阻害します。
 その後、未分画ヘパリンを酵素的あるいは化学的に低分子量化した低分子ヘパリンが開発されました。低分子量ヘパリンは、トロンビンよりもXa因子を相対的に強く阻害する注射薬であり、この結果、血栓抑制効果と出血増強作用を示す用量の乖離が大きくなり、いわゆる治療域が広くなり、固定用量での投与が可能になりました。

 1990年代には、特定の凝固因子を直接阻害する注射薬として、トロンビンの選択的阻害薬のアルガトロバンが開発されました。アルガトロバンは、現在でも慢性動脈閉塞症(バージャー病)、脳血栓症、HIT(heparin-induced thrombocytopenia:ヘパリン起因性血小板減少症)などの治療に用いられています。
 2000年代に入り、ATの活性化に必須の5糖構造(ペンタサッカライド)を化学合成したフォンダパリヌクスが注射薬として開発されました。これは、ATによるXa因子阻害の選択性を一層高めたもので間接型Xa阻害薬と呼ばれ、現在VTE(venous thromboembolism:静脈血栓塞栓症)の予防や治療に広く用いられています。また、フォンダパリヌクスの登場によって、トロンビンを阻害しなくても、凝固カスケードの上流のXa因子の阻害で、効果的に血栓症を予防・治療できることが実証されたといえます。
 その後、経口抗凝固薬の時代に入り、先ずプロドラッグであるXimelagatranやDabigatranが開発されました。これらの薬剤は直接型トロンビン阻害薬といわれています。残念ながらXimelagatranは肝障害のため販売・開発中止となりましたが、Dabigatranには肝障害は認められず、下肢整形外科術後のVTE予防の目的で用いられるようになり、また、2011年1月にはわが国でも「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制」の適応症で承認されました。
 さらに、最近、プロドラッグ化なしの経口抗凝固薬として、直接型Xa阻害薬のRivaroxabanなどが開発されました。これらの抗凝固薬は、心房細動患者における脳卒中予防において、ワルファリンとの比較試験の結果が発表され2, 3)、現在、注目されています。また、脳卒中やVTE の予防だけではなく、VTEの治療やACS(acute coronary syndrome:急性冠症候群)の領域においても、新しい治療選択肢として期待されています。

凝固カスケードにおけるトロンビンとXa因子の役割

 凝固系は、内因系経路および外因系(組織因子系)経路で始まり、X因子の活性化で合流し、Xa因子、トロンビン、フィブリンの生成へとつながります。したがって、どちらの経路が活性化されてもXa因子の生成が重要であり、Xa因子は凝固カスケードの要(かなめ)といえます(図2)。

1)トロンビンの役割とトロンビン阻害の意味

 トロンビンは多様な生理作用を有することが知られています4)。傷害局所で大量に生成されるトロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに変換するとともに、XⅢ因子を活性化し、強固なフィブリン塊を形成させます。また、VⅢ因子とV因子を活性化して凝固系にポジティブフィードバックをかけ、凝固反応を促進させます。さらに、トロンビンは細胞膜上のPAR-1(protease-activated receptor-1:プロテアーゼ活性化受容体)を活性化して、血小板血栓の形成を促すとともに、血管内皮細胞をはじめとする種々の細胞を活性化し、創傷治癒に必要な炎症や細胞増殖作用を示します。
 その一方で、健常時にごく微量生成されるトロンビンは、血管内皮細胞上のTM(thrombomodulin:トロンボモデュリン)に結合して抗凝固因子のプロテインCを活性化し、VⅢa因子とVa因子を不活化して凝固反応を阻止し、血液の流動性を維持する役割を果たしています。
 こうした正常時の作用とは別に、鬱血や各種疾患に起因する凝固亢進状態の血管内で生成されるトロンビンは、非限局的な血管内血栓(病的血栓)を形成して、深部静脈血栓症や肺塞栓症、脳塞栓症などの原因となります。
 したがって、病態時に生成するトロンビンを、抗トロンビン薬で直接阻害することは、病的なフィブリン血栓の形成や血小板の活性化を効果的に抑制し、正常な血液循環を回復させることになります。

2)Xa因子の役割とXa因子阻害の意味

 血液凝固カスケードは増幅反応であり、1つのXa因子によって多くのトロンビンが生成されます。したがって、ねずみ算式に生成されたトロンビンを1つ1つ阻害するよりは、その上流にあるXa因子を阻害した方がより効率的に凝固反応を抑えることができると考えられます。
 Xa因子は活性化血小板膜のリン脂質上でVa因子と複合体(プロトロンビナーゼ複合体)を形成して、プロトロンビンをトロンビンに効果的に変換します(図2)。プロトロンビナーゼ複合体によるトロンビン生成の反応速度は、Xa因子単独に比較して30万倍にも及ぶことから1)、液相中の遊離型のXa因子を阻害するよりも、固相上のプロトロンビナーゼ複合体のXa因子を阻害した方がより効果的にトロンビンの生成を阻害できると考えられます。しかし、従来のヘパリン製剤やフォンダパリヌクスなどのAT 依存性の抗凝固薬は、遊離型のXa因子を阻害できますが、ATが接近できないプロトロンビナーゼ複合体内のXa因子を阻害することはできません。
 これに対して、ATに依存しない直接型Xa因子阻害薬は、遊離型のXa因子だけでなく、プロトロンビナーゼ複合体のXa因子も阻害できるため、より効果的に血栓形成を抑制できると考えられています。さらに、Xa因子阻害薬はトロンビンによる血小板活性化や細胞増殖作用を阻害しないため、止血や創傷治癒に影響を与えないと考えられています。
 また、Xa因子は組織細胞膜上のPAR-2を活性化して、血管組織の炎症や浮腫、血管拡張、血管内膜肥厚(動脈硬化)、口腔内の歯周病、腎炎などを誘発することが実験的に示されており、Xa因子を阻害することで、こうした炎症性病態を抑制できる可能性が考えられます。

期待される新しい経口抗凝固薬

1)経口Xa因子阻害薬の開発と経口吸収

 これまで合成の直接型Xa因子阻害薬として、DX-9065aやYM-60828が開発されてきましたが、ヒトでの経口吸収率が2~3%と低く、医療現場で用いられることはありませんでした1, 5)。その意味で、経口吸収率が高いXa因子阻害薬の開発は重要な課題でした。
 これまでに開発されたトロンビンやXa因子を阻害する化合物は、アルギニン類似構造のグアニジノ基を有し、このグアニジノ基がトロンビンやXa因子の活性中心に直接結合して酵素活性を不活化すると考えられてきました。しかし、同時にこの親水性構造は体内吸収率の低下の原因にもなっていました。
 このジレンマを解消するため、十分なXa因子阻害活性と経口吸収を両立させるさまざまな化合物が検索され、アルギニン類似構造の代わりにクロロチオフェン構造を導入したRivaroxabanやピリジン環を導入したEdoxabanなどが開発され(図31, 6)、現在、さまざまな血栓症の治療薬として、その有用性が検討されています。

2)新しい経口抗凝固薬の臨床的意義と課題

 抗凝固薬のように主作用と副作用が同じ薬理に起因する薬剤は相対的に安全域が狭く、また、薬剤の体内吸収率は個々人で異なるため、至適投与量の設定は難しく大きな問題でした。こうした問題の克服を目指して開発された新しい経口抗凝固薬にはワルファリンと比較していくつかの利点があります(表1)。「モニタリングの必要がなく固定用量で投与できる」ことは医師にとって使いやすく、また、これまで他剤との相互作用や食事制限(納豆、緑野菜など)をしてきたワルファリン投与患者も食事制限などから解放されます。特に心房細動性の血栓症予防のために生涯を通して抗凝固療法が必要な患者にとって、経口抗凝固薬はQOLの改善や服薬コンプライアンスの向上につながり、結果的には継続的な抗凝固療法を可能にするでしょう。
 しかし、抗凝固薬である以上、投与しない場合と比較して出血リスクが増大することは間違いありません。とりわけ心房細動に起因する脳卒中予防は「予防医療」であるため、治療効果の恩恵よりも出血の副作用の方が注目されるため、患者や医師は、血栓症予防(ベネフィット)/出血(リスク)のバランスを認識することは容易ではありません。したがって、新しい経口抗凝固薬の普及には、脳卒中などの血栓症発症リスクと出血リスクの適切な評価と、出血リスクを最小限に抑える工夫が一層重要になると思われます。

おわりに

 経口の抗凝固薬の選択にあたっては、エビデンスや薬物動態などの薬物プロフィールはもちろん重要ですが、患者の立場になれば、コンプライアンス、出血以外の副作用、薬剤費なども考慮されるべき点です。これまでは、「どの患者に抗凝固療法を行うか」という選択に迫られましたが、これからは、「どの抗凝固薬を使用するか」という選択を迫られる時代がやって来るといえます。

■References

  1. 1)Perzborn E, et al., Nature Reviews Drug Discovery 2011; 10: 61-75
  2. 2)Connolly SJ, et al., N Engl J Med. 2009; 361: 1139-1151
  3. 3)http://sciencenews.myamericanheart.org/pdfs/ROCKET_AF_pslides.pdf
  4. 4)Ansell J., J Thromb Haemost 2007; 5 (Suppl. 1): 60-64
  5. 5)Fujii, Y. et al., Drug Metab. Pharmacokinet 2007; 22: 26-32
  6. 6)Eriksson BI, et al., Drugs 2006; 66: 1411-1429