疾患関連情報

◆ AF治療 Spotlight

#12 カテーテルアブレーション施行患者における新規経口抗凝固薬

お話の内容はインタビュー(2013年10月)時点のものです
横須賀共済病院 循環器センター センター長 兼 診療部長
高橋 淳 先生

2013年1月に日本循環器学会から「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」が公表されました。今回は、心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の第一人者で、本ガイドラインの班員である横須賀共済病院の高橋淳先生に、カテーテルアブレーション施行患者における抗凝固療法についてお話をうかがいました。

◆カテーテルアブレーション術後はきめ細かな経過観察を実施

横須賀共済病院におけるカテーテルアブレーション治療の現状について教えてください。


  当院での2012年のカテーテルアブレーション実施症例数は1,006例で、ここ数年は900〜1,000例で推移しており、その約8割が心房細動患者様です(図1)1)。当科を受診される患者様のほとんどは薬物療法が効果不十分であり、医師の紹介やご自身で当院ホームページを調べるなどしてカテーテルアブレーション治療を希望されて来院し、その9割以上が実際にカテーテルアブレーションを施行しています。当院でのカテーテルアブレーション治療実績は4,000例以上にのぼりますが、いずれも術後半年以内か年に1~2回は経過をみており、長い方では10年以上追跡しています。患者様が受診されない場合は、本人やかかりつけ医に電話で連絡し、可能な限り再発の有無や症状・状態について確認しています。カテーテルアブレーションを実施しても心房細動が再発すれば脳梗塞発症リスクは存在しますし、この手技自体が行われるようになってから十数年しか経過しておらず長期予後に関するエビデンスが十分とはいえません。そのため、治療経過のきめ細かい追跡は患者様のためだけでなく、カテーテルアブレーションの価値を評価する医師にとっても非常に重要であると考えています。


実際にどのような患者さんに カテーテルアブレーションを実施していますか。


  2013年1月に公表された「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」2)では「高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認めず、かつ重症肺疾患のない薬物治療抵抗性の有症候性の発作性心房細動」で、「年間50例以上の心房細動アブレーションを実施している施設で行われる場合」をクラスⅠ(評価法、治療が有用、有効であることについて証明されているか、あるいは見解が広く一致している)の適応としています。また、薬剤抵抗性有症候性の発作性および持続性心房細動や薬物治療が有効であるが患者様がカテーテルアブレーションを希望される場合、ClassⅡa(有益/有効であるという意見が多い)とされており、当院では積極的に実施しています。また、ガイドラインでは、症状がない患者様をクラスⅡb(有益/有効であるという意見が少ない)とされていますが、心房細動患者様における脳梗塞発症リスクは、症状の有無や強さにかかわらず高いことがわかっています。症状がなくても脳梗塞に怯えながら生活するのは嫌だ、あるいは抗不整脈薬が効かないといった患者様も、当院においては、カテーテルアブレーションを行う場合があります。症状のない患者様の場合、カテーテルアブレーション後の再発検知の問題もあり、安易に施行すべきではないと思われますが、日々の自己検脈が可能な患者様においては、カテーテルアブレーションは、リスク軽減のための治療選択肢の1つとなるかもしれません。

◆抗カテーテルアブレーション実施時の経口抗凝固薬の使い方について

術前の抗凝固療法について教えて下さい。


  カテーテルアブレーションの周術期における経口抗凝固薬としては、従来から実績がある ワルファリンを使っています。昔は出血リスクを考慮して術前にワルファリンを中止していましたが、その場合、周術期に脳梗塞の発症が報告され、抗凝固療法継続の必要性が指摘されるようになりました(表)。最近では、経口抗凝固薬の服用を継続しながらカテーテルアブレーションを施行したデータが多数報告されており、当施設でも、カテーテルアブレーションを施行した心房細動患者様を、ワルファリン継続群とヘパリン切り替え群に分けて検討したところ、脳卒中または一過性脳虚血発作の発症率は、ワルファリン継続群ではヘパリン切り替え群に比べて有意に低率でした(0.15% vs 0.67%、p=0.021)3)。今回のガイドラインでも、術前管理として、「基本は抗凝固療法を可能な限り継続すること」と記載されています(図2)。持続性心房細動例および脳卒中高リスク例(CHADS2スコア≧2点)では、少なくとも術前に3週間以上ワルファリンを投与し、その後も継続するか、術前に経口抗凝固薬を中止する場合は、カテーテルアブレーション施行の2〜5日前に、ダビガトランの場合は腎機能を参考にし、1~2日前に中断するとされています。リバーロ



術中の抗凝固療法について教えて下さい。


  ガイドラインでは、カテーテルアブレーション中はヘパリン投与が必須とされ、ACT(activated clotting time:活性化凝固時間)を300~400秒に維持することになっています。術後は、経口抗凝固薬継続下にカテーテルアブレーションが施行されていない場合、出血性合併症がないことを確認し、ただちに経口抗凝固薬内服を開始し、ワルファリンの場合は、効果出現までヘパリン投与を継続することになります。


術後の抗凝固療法について教えて下さい。


  カテーテルアブレーション後の不整脈の再発は術後3ヵ月の間に多いといわれており、焼灼した場所に血栓ができる可能性もあるので、ガイドラインでも術後の抗凝固療法は少なくとも3ヵ月間継続することが望ましいとされています。ただし、CHADS2スコアが2点以上の患者様や、心房細動再発の可能性が高い患者様では、3ヵ月以降も抗凝固療法を半年あるいは1年間継続することを考慮します。
  当院において、経口抗凝固薬を中止する場合は、不整脈が出ていないことをしっかりと確認しますが、カテーテルアブレーションを実施する前の経食道エコーで左心耳血流が遅かった患者様では、洞調律であっても血流速度が十分高くなっている(40cm/秒以上)ことを確認してから経口抗凝固薬を中止しています。


ワルファリンと新規経口抗凝固薬の使い方に違いはありますか。


  当院では、特に周術期は、エビデンスと自身の使用経験からワルファリンを中心に使っています。カテーテルアブレーションは抗凝固療法下で行われるため出血しやすい状態であり、心タンポナーデのリスクが増大するので 、中和剤があるワルファリンの方が対応しやすいと考えています。
  新規経口抗凝固薬についての推奨できる使い方を示すには、現時点ではエビデンスや使用経験がまだまだ不十分ですが、いくつかの施設で薬物動態など薬剤プロフィールを考慮して使われています。今回のガイドラインでは、ワルファリンだけではなく、新規経口抗凝固薬も使うことができるように配慮し、ダビガトランやリバーロキサバンを記載しました。

◆カテーテルアブレーション後の抗凝固療法における新規経口抗凝固薬の可能性

新規経口抗凝固薬のメリットは何でしょうか。


  医師にとっても患者様にとっても、食事制限がないという使いやすさが第一のメリットです。もう1つは細かい用量調節なしに固定用量で同じような効果が期待できるというのもメリットです。ただし、これはさじ加減ができないという欠点でもあります。
  実際にカテーテルアブレーション後もワルファリンを使う場合が多いですが、食事制限を嫌がるなど、患者様の希望によっては、新規経口抗凝固薬を投与することもあります。やはり、服用に際しての説明や注意事項が少なく、1日1回1錠で済むという点でリバーロキサバンは服用しやすいと思います。


カテーテルアブレーション後の患者指導について先生が工夫されていることを教えてください。


  患者様にはアブレーション後再発が疑われる場合、おかしいと思ったらすぐに受診するよう指導しています。特に症状が乏しかった患者様には、必ず1日に2〜3回自己検脈を行うよう指導しています。自己検脈で脈の不整が判断できる患者様は、抗凝固療法を中止する方向で考えます。
  新規経口抗凝固薬はワルファリンと異なり、服薬後の効果発現が速いという特徴があり、これがメリットとなる場合があります。例えば、アブレーション後に心房細動の症状が出た時は、すぐに医療機関を受診し、腎機能等のチェック後、問題なければ直ちに新規抗凝固 薬服用を開始(再開)します。そうすると効果が速いだけに脳梗塞のリスクはすぐに低減し、患者様も不安にならないと思います。
  今後、リバーロキサバンを含めた新規経口抗凝固薬のカテーテルアブレーション施行患者様での使用経験やエビデンスが集積され、そのメリットが明らかになれば、カテーテルアブレーションの周術期のみならず長期予後の改善にもつながると期待しています。


※1:新規経口抗凝固薬の頓服は承認された用法・用量ではありません。
※2:頓服による有効性・安全性については検討されていません。

■References
1)横須賀共済病院循環器センターホームページ. 過去の実績.
http://ablation.net/(参照 2013-05-17).
2)循環器病の診断と治療に関するガイドライン. カテーテルアブレーションの適応と
手技に関するガイドライン(2012). 2013-01-25.
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_okumura_h.pdf
(参照 2013-05-17).
3)Kawahara T, et al., J Cardiovasc Electrophysiol 2013; 24: 510-515.