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◆ AF治療 Spotlight

#7 新規経口凝固薬の適正使用を考える

お話の内容はインタビュー(2012年11月)時点のものです
東京女子医科大学病院 薬剤部 部長
木村 利美 先生

経口第Ⅹa因子阻害薬であるリバーロキサバンが発売され、心房細動患者の脳卒中予防の領域で、新たに作用機序の異なる新規経口抗凝固薬が登場し、薬剤の選択肢が広がりました。今回は東京女子医科大学病院 薬剤部 部長 木村利美先生に、新規経口抗凝固薬を適正に服薬してもうための薬剤師の役割や患者指導のポイント、新規経口抗凝固薬に対する先生のお考えについてうかがいました。


1. 抗凝固療法における薬剤師の役割と服薬指導の実際

◆ 医師・看護師と連携した管理

経口抗凝固薬の調剤や服薬指導における東京女子医科大学病院薬剤部の取り組みについてご紹介ください。


  米国では、CDTM(Collaborative Drug Therapy Management :共同薬物治療管理)というシステムがあり、抗菌化学療法や抗凝固療法などにおいて、薬剤師が様々なモニタリングを行うことで、医師との契約に基づいて処方をオーダーすることが可能です。日本ではこのような仕組みはありませんが、抗凝固療法において、薬剤の選択、用量や相互作用・副作用のチェック、服薬指導など薬剤師の果たすべき役割は重要と考えています。
  抗凝固薬はハイリスク薬(特に安全管理が必要な医薬品)と定義されていますので、調剤に際しては薬剤の前回履歴を確認し、ワルファリンではPT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)を、新規経口抗凝固薬ではCLcr(クレアチニンクリアランス)などの値をチェックしています。
  病棟では、病棟担当薬剤師が大きな役割を担っています。ワルファリンの場合は、薬効をモニタリングできるというメリットがありますが、導入時期には安定化するまでPT-INRのモニタリングを頻回に行う必要があります。また、PT-INRのコントロールのために日によって異なった投与量が設定され、過量投与の危険性回避から看護師と協力したダブルチェックも行われています。さらに、併用薬やサプリメントとの相互作用にも注意が必要です。納豆は一度摂取するとその影響が数日に及んでしまうので、クロレラ、青汁、セイヨウオトギリソウなどとともに、常に注意を喚起しています。
  服薬指導の観点では、患者に抗凝固療法のメリットとデメリット、アドヒアランスの重要性を説明して、飲み忘れや怠薬の防止に務めています。アドヒアランスを良好に保つには表のような工夫が考えられます。また、病棟担当薬剤師はベッドサイドにいるので、出血症状を早期に発見し医師と連携して重症化を防ぐという観点でも重要な役割を担っています。


2. 新規経口抗凝固薬の特徴と服薬指導のポイント

◆ 新規経口凝固薬は薬物動態および薬力学的に個人差が小さい

新規経口抗凝固薬をどのように評価されていますか。


  新規経口抗凝固薬もP-糖蛋白やCYP-450 が関係する薬剤との相互作用、腎機能などPK/PD に影響する要因がありますが、比較的安全域が広いといえます。一方、ワルファリンでは食事制限や他剤との相互作用に注意し、PT-INR をモニタリングしていても投与量が安定しない患者が存在します。特にCYP2C9 やVKORC1の遺伝子多型があると、さらに薬効の個体差が大きくなる可能性があります。そういう意味で、思ったよりPT-INR のコントロールに難渋する患者には、新規経口抗凝固薬がよい適応ではないかと思います。当院でも、PT-INR をコントロールできない症例で新規経口抗凝固薬に変更した場合や、消化器症状のリスクを考慮してリバーロキサバンを選択した場合がありました。
  また、PT-INR によって薬効の定量化や用量調節が可能というのはワルファリンのメリットですが、コントロールが難しい症例や安定するまで時間が掛かる症例では、安全域が広く固固定用量で管理できる新規経口抗凝固薬が有用と考えられます。さらに、新規経口抗凝固薬は効果の発現・消失が早いため、手術や侵襲的処置・検査における抗凝固療法の再開や新規導入の期間が短く、結果的に入院日数が短くてすみ、患者および医療側にとってメリットとなります。

◆ 治療の選択肢が広がり患者自身が薬を選ぶことも

ワルファリンと新規経口抗凝固薬の違いについて、患者にどのように説明しておられますか。


  患者の視点から見ると、新規経口抗凝固薬には、食事やサプリメントの制限を気にしなくてよいという長所があります。ただ、その一方で薬剤費が高くなるという短所もあります。また、ルーチンのモニタリング検査はいらないというメリットがありますが、逆にモニタリングできないことが不安という患者もいますので、それぞれの理由を説明する必要があります。
  臨床的に問題のない場合は、患者に説明をしてどちらの薬にしたいですかと尋ね、患者自身に選択してもらうこともあると思います。選択肢が広がること自体は、患者個々の価値観やニーズを満たすという意味で進歩ではないかと思います。
  なお、高齢者では1回に7錠も8錠も服薬する患者もいますので、リバーロキサバンの1日1回1 錠という用法・用量については、服用回数、服用錠数が少なくてすむという点で好ましいことです。薬剤の飲みやすさはアドヒアランスを維持する上で非常に重要で、患者ができるだけ抵抗を感じずに服薬できることが大切です。

◆ リバーロキサバンは日本のエビデンスを添付文書に反映させたことが評価できる

リバーロキサバンが日本人用量で日本独自の第Ⅲ相臨床試験を実施し、用法・用量を決定しました。この点についての評価はいかがですか。


  抗血栓薬の領域では、日本人と欧米人でPharmacodynamicsが異なることは定説になっていると思います。ワルファリンにしても、実際の医療現場では海外と比較してPT-INR で0.5 くらいは低くコントロールしており、他の抗凝固薬の臨床試験でも、薬剤によっては海外より低い用量が投与されています。そういう意味でリバーロキサバンが日本で大規模なスタディを実施し、日本人の適正用量を示したことは、重要な成果だと思います。承認用量として添付文書にきちんと記載されていることは、臨床試験に裏付けられた用法・用量という意味で意義があり、評価できる点と考えられます。

◆ 用量設定の根拠となった臨床試験を見直す

新規抗凝固薬の使い方について先生が気になっている点をお聞かせください。

新規経口抗凝固薬で重篤な

  新規経口抗凝固薬で重篤な出血がみられたケースでは、適正使用情報が正確に伝わっていなかったケースもあります。出血のリスク因子として、高齢と低体重、抗血小板薬との併用などが知られていますが、用量設定の根拠となる腎機能の評価がピットホールです。腎機能の基準となるのは、Cockcroft & Gault の推定式による
CLcr 値(mL/min)と推算糸球体濾過量(eGFR, mL/min/1.73m2)で、臨床試験ではCockcroft & Gault の推定式を用いて腎機能を確認しています。しかし、実際の医療現場では、近年、Cockcroft & Gault の推定式によるCLcrではなくeGFR の値が多く使用されています。eGFR の算出では標準体表面積が基準となっているため、本来、ボディサイズ当たりの投与量、つまりmg/kg の投与量設定を行わなければ、実際の腎機能が投与量に反映されません。低体重や体重が重い患者では、Cockcroft & Gault によるCLcrとeGFR の値に乖離が生じるため(図)、特に低体重や筋肉量の少ない患者(寝たきりの高齢者や筋萎縮症など)には、eGFR をそのまま使えないので注意が必要です。また、臨床試験ではリスクの高い患者は除外されています。実臨床では、承認の根拠となった臨床試験のデザインや結果を理解した上で、適応する患者や投与量を決めることが重要です。それは自分たち薬剤師の仕事でもありますし、処方される先生方にも十分意識していただきたいと思っています。

◆ 適正に使用することで薬を育てる

抗凝固療法が変革期を迎えようとしている現在、薬剤師の役割をどのようにお考えですか。


  長い臨床試験を経て世に出た薬は、医師・薬剤師だけでなく、患者にも適正に使ってもらって、育てていかなければなりません。本来はよい薬なのに、適正使用や有害事象の管理が不適切であったために、いつの間にか医療現場からなくなってしまった例も多いと思います。特に安全性情報は不足しがちであるため、有効性以外にも様々なエビデンスを収集することで育薬し、患者にその恩恵を還元しなくてはなりません。その意味で、薬剤師の果たすべき役割は重要と考えています。

お話の内容はインタビュー(2012年7月)時点のものです
木村 利美 先生

1986年 東京薬科大学薬学部卒。北里大学病院薬剤部を経て、1993年 新医療技術導入海外研修 University of Michigan Hospitals、2000年医学博士を取得。2006年 東京女子医科大学病院薬剤部 副部長。2009年 フィラデルフィア小児病院クリニカルファーマコロジー部留学 客員教授。2010年より東京女子医科大学病院薬剤部部長、現在に至る。