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◆ AF治療 Spotlight

#13 虚血性心疾患に合併する心房細動に対する抗血栓療法

お話の内容はインタビュー(2014年2月)時点のものです
日本大学医学部附属板橋病院 副院長・循環器内科 部長
平山 篤志 先生

心房細動の有病率は加齢とともに高くなる(図)1)ことがわかっていますが、心房細動を合併すると狭心症発作の誘発や心不全悪化を来しやすく、死亡率を高めるとされています2)。また、心房細動による血栓塞栓症の発症率は、虚血性心疾患を合併した場合は非合併に比べて高くなることがわかっています3)。このため、虚血性心疾患と心房細動を合併する患者には、心原性脳塞栓症予防を目的とした抗凝固薬と虚血性発作の二次予防を目的とした抗血小板薬を併用することが推奨されますが、併用により出血リスクが上昇するため、慎重な投与が求められています。そこで今回は、虚血性心疾患治療の第一人者である日本大学板橋病院の平山篤志先生に、虚血性心疾患と心房細動の合併患者に対する適切な抗凝固療法について解説していただきました。

◆虚血性心疾患と心房細動を合併する患者の実際

虚血性心疾患と心房細動を合併する症例は増えていますか。心房細動をみつけるコツはありますか。

   私が診察する患者さんの約半数が虚血性心疾患で、そのうちの5〜10%に心房細動が合併しています。虚血性心疾患と心房細動を合併するものには2つのタイプがあり、1つは、心房細動のある患者さんが虚血性心疾患を発症するものです。もう1つは、虚血性心疾患を起こした患者さんが経過中に加齢とともに心房細動を発症するケースです。

   当院の循環器科では3~6カ月に1回定期的に心電図をとっていますし、診察の際も自動血圧計ではなく敢えて水銀血圧計を用い、脈の乱れを認めれば心電図検査を行います。したがって、経過観察中にかなり心房細動を発見できます。また、最近では、高齢社会に伴って、非弁膜性の心房細動の患者さんが増えてきているので、虚血性心疾患の患者さんの中でも心房細動の合併例が多くなってきました。

◆虚血性心疾患と心房細動を合併する患者に対する現在の抗凝固療法

合併患者に対する抗凝固療法について具体的に教えてください。

基本的にはCHADS2スコアを用い、1点以上の患者さんには抗凝固療法を考慮します。ただ、虚血性心疾患の患者さんは高血圧や糖尿病を合併することが多いので、虚血性心疾患の患者さんが心房細動になってくると、ほとんどの方が65歳以上ですから、多分100%に近い割合で抗凝固療法が必要になると思います。心房内の血栓形成を抑えるには抗凝固薬が、心筋梗塞の再発の予防には抗血小板薬が必要なので、併用療法が基本になります。

冠動脈ステント留置術後の抗血小板薬と抗凝固薬の併用は出血のリスクがありますが、どのように対応されていますか。ステントの選択についても教えてください。

冠動脈ステント留置術後の抗血栓療法では、2剤抗血小板療法(dual antiplatelet therapy:DAPT;アスピリン/チエノピリジン系抗血小板薬[クロピドグレル]2剤併用)がワルファリンよりも有効であることが報告されています。もし心房細動の合併があればワルファリンを加えることになりますが、出血リスクが高くなるので、その場合、植え込み直後は2剤の抗血小板薬を用いますが、なるべく早い時期に抗血小板薬を1剤に減らすようにします。また高齢で低体重の患者さんでは、ワルファリンのPT-INR値は低めに維持します。
 現在、ステント留置術の約70%で薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent:DES)が使用されていますが、遅発性ステント血栓症の問題があるため、従来のベアメタルステント(bare metal stent:BMS)よりもDAPT期間を長くする必要があります。抗凝固薬を併用する心房細動合併患者では出血リスクを考慮し、多くはDAPT期間が短いBMSを選択しています。BMS留置術後は、DAPTにワルファリンを約1ヵ月併用し、その後は抗血小板薬を1剤に減らします(表)。
 特に高齢者では、冠動脈インターベンションの再施行をできるだけ回避したいので、再狭窄をできるだけ防ぐ意味でDESが適しています。しかし、高齢者では出血リスクが高いことを考慮すると、抗血小板薬2剤とワルファリン併用期間をできるだけ短くしたいのでBMSが適しています。こうしたジレンマの中で、各症例に応じてステントを選択しているのが現状です。

  抗血小板薬と抗凝固薬を併用する際に注意している患者さんはどのような患者さんですか。

  出血管理で一番に考慮するのは年齢と体重です。特に高齢で低体重の女性は出血リスクが高いという印象を持っています。また、日本人は抗凝固薬に対する感受性が高く、さらに高齢者では血管が脆弱で出血しやすい状態と考えられます。
    抗凝固薬を使えば出血リスクが高くなりますが、そこで出血を起こさないよう減量したりすれば脳梗塞発症リスクが高まってしまいます。このような予防と副作用対策のシーソー関係、つまりリスク・ベネフィットを考慮しなくてはならない点が抗凝固療法のポイントです。



◆合併患者に対する新規経口抗凝固薬の投与にはエビデンスの蓄積が必要

新規経口抗凝固薬はどのような患者さんに使っていますか。また、ワルファリンから新規経口抗凝固薬へ切り替える患者さん、新規の患者さんへの説明はどのようにしていますか。

 現時点では、労作性狭心症で治療後のイベントがなく比較的安定している方であれば、抗血小板薬を投与せずにワルファリンまたは新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulants:NOAC)のみで管理が可能ですが(表)、抗血小板薬に通常用量のNOACを併用する場合は、出血リスクが高くなることが考えられますので、注意が必要です。ワルファリンは個々に応じた投与量の調節が可能ですが、用量調節には経験を要します。NOACは固定量で投与量の調整はできませんが投与が簡便です。
 ワルファリンからNOACに切り替えた患者さんの中には、新聞やネットで情報を得て、納豆などの食事制限がないという理由で薬剤変更を申し出てこられた方もいます。また、夏に食欲がなくなってワルファリンが効きすぎたり、逆に食欲が出てワルファリンが効かなくなったりしてPT-INR値が変動する方がいますし、服薬コンプライアンスが悪くてPT-INR値が変動する方もいます。こうした患者さんには、NOACの説明をして切り替えています。
 ワルファリンのコントロールがよくて患者さんが食事制限を気にしなければ、ワルファリンを継続していますが、恐らく継続しているのは3割から4割ぐらいで、あとはNOACに切り替えていることが多いと思います。
 また、新患の患者さんには、患者さんの手間や用量調節にかかる時間のことを考えて、最初からNOACのお話をします。ただコスト的なことはやはりお話をして、その上で患者さんに選択していただきます。当初コストのことが懸念されましたが、実際には9割程度の方がNOACを選択しています。
 どのようなものにも世代交代はあります。携帯電話がここまで普及した現在、固定電話を知らない世代の人が出てきました。抗凝固療法においても同様です。われわれはワルファリンしかない時代を知っていますから、当然PT-INRコントロールの経験があります。しかし、あと何年か経てば、ワルファリンの経験がなくNOACを最初に使う世代の医師が出てくるでしょう。そういう将来も見据えて、抗凝固療法というものを考えておかなければならないと思います。

  新規経口抗凝固薬が広く使われるようになりました。そのメリットと注意点について教えてください。

ワルファリンはPT-INR測定や用量調節が煩雑で、出血リスクがあることからプライマリケア医では敬遠されがちですが、NOACは固定用量で扱いやすく処方する先生が増えています。この点において、医療連携がやりやすくなったことはNOACのメリットの1つと言えるでしょう。特に高齢者や遠方から通院される患者さんは、普段は近医で診てもらい、問題があったときには専門医に対応してもらえますから、医療連携は患者さんにとってメリットになると思います。
  プライマリケア医の先生が最も注意されるのは頭蓋内出血などの生命予後にかかわるようなイベントだと思いますが、例えばステント留置術後、DAPTにNOACを併用すれば3剤併用になりますから、出血リスクは高くなります。このような場合は専門医に紹介していただきたいと思います。そこで抗血小板薬1剤あるいはNOACで固定してからプライマリケア医の先生にお戻しして管理するのが望ましいと思います。その後は3~6カ月に1回程度専門医を受診していただき、定期的にフォローすれば理想的です。医療連携をスムースに行い、虚血性心疾患患者の心原性脳塞栓をいかに予防するかが重要です。

◆虚血性心疾患と心房細動の合併患者に対する今後の抗血栓療法 ~ガイドラインを踏まえて~

  海外のガイドラインが改訂されましたが、虚血性心疾患と心房細動の合併患者に対する日本の抗血栓療法も変わるのでしょうか。

  心房細動合併患者だけでなく、ステント留置術後の最適な抗血栓症療法は未だ明確になっていません。欧州心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)のステートメント4)が、術後1年経過後のワルファリン単独投与を推奨して大きな話題になりましたが、日本では海外に比べてPCI施行頻度が高く、出血性合併症の発症率も高くなっています。にもかかわらず、海外とは状況が異なる中、日本人でのエビデンスが得られていない今の段階では、従来通りアスピリンと抗凝固薬を投与しているという現状があり、今後の検討課題となるでしょう。
  DESは日本において第3世代まで登場し、遅発性ステント血栓症の発症率は第1世代DESに比べて低下しました。ステントの進歩により、DAPT期間を短縮できる可能性が見えてきたのです。抗血小板薬とNOACの併用に関するいくつかの臨床試験が日本で実施されており、近いうちに日本人のエビデンスも揃うことでしょう。これらのエビデンスによって日本のガイドラインが改訂され、NOAC時代の新しい抗血栓療法が確立されることを期待しています。



■References
  • 1)Inoue H, et al., Int J Cardiol 2009; 137: 102-107.
  • 2)Kinjo K, et al., Am J Cardiol 2003; 92: 1150–1154.
  • 3)Research Group for Antiarrhythmic Drug Therapy, J Cardiol 1998; 31: 227-238.
  • 4)European Heart Rhythm Association; European Association for Cardio-Thoracic Surgery, Eur Heart J 2010;
         31: 2369-2429.
平山 篤志 先生

1981年に大阪大学大学院医学研究科博士課程を修了後、1982年に米国ペンシルバニア大学へ留学。1985年より大阪警察病院にて勤務、循環器科部長、心臓センター長などを務め、2007年より現職。日本循環器学会(理事)日本冠疾患学会(理事長)日本心臓病学会(理事長)日本不整脈学会(評議員)など。