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◆ AF治療 Spotlight

#3 心原性脳塞栓症一次予防の取り組み

お話の内容はインタビュー(2011年7月)時点のものです
大阪大学大学院 循環器内科 /先進心血管治療学講座 准教授
奥山裕司 先生

昨今、わが国では、脳卒中(脳血管障害)が増加し、中でも心原性脳塞栓症は予後が悪いことから、一次予防・二次予防の重要性が強く提唱されています。また、脳卒中の経過は長く、発症(急性期)から在宅(維持期)まで、継ぎ目のない医療 設備が急務課題となっています。そこで、「心原性脳塞栓症の一次予防」をテーマに、予防・治療をはじめ、医療連携に積極的に取り組まれている奥山先生にお話を伺いました。


心房細動に対する先生の治療戦略を教えてください。
また、心房細動治療の今後の方向性や課題についてもお考えを教えてください。

◆ 適切な抗凝固療法で脳梗塞を予防することが重要

   心房細動は単なる不整脈ではなく、全身と心房の加齢現象的変化に伴って起きてくるものであることを忘れてはなりません。何か魔法があって、ある患者さんから心房細動をなくすることができたとしても、その患者さんは心房細動を発症していない人と同じになるわけではないのです。加齢的変化が心房細動を発症するほど進んでいるという事実を見過ごしてはなりません。具体的には、脳梗塞の予防、QOLの低下・心不全などへの対策を取ることになりますが、不可逆的な変化と言える脳梗塞は最も配慮すべき合併症と言えます。
 発作性心房細動の場合は、動悸症状の強い患者さんが多いため、抗不整脈薬による発症予防を要する場合がしばしばあります。持続性心房細動の場合は、生命予後の観点では洞調律維持治療と心拍数調節治療のどちらを選択しても有意差はないといくつかの研究結果が報告されていますが、ある程度若い年齢層の患者さん、例えば70 歳未満などでは、一度は洞調律維持治療を考慮してもいいと思っています。

   カテーテルによる肺静脈隔離術は日本でも数多く実施されるようになり、自覚症状の改善という意味では平均的には7割程度の患者さんに効果はあります。しかし、WPW 症候群のように病的部位が限定的な疾患とは異なり、心房細動の場合は心房全体に“ダメージ”があるのが基本ですから、カテーテルアブレーションで一部分を隔離しても心房細動が再び生じる素地は残っていると思います。つまり心房細動は実際にはなかなか完全に抑え込むのは難しいのが実情で、先ほど述べたような魔法は現実にはないのです。
 心房細動の患者さんに対しては、脳梗塞の予防(抗凝固療法)が最も重要な課題です。発作性、持続性、永続性にかかわらず、CHADS2 スコア等で必要と判断された患者さんに は適切な抗凝固療法を行うべきです。私の場合、CHADS2 スコア1 点以上は必ずワルファリンを導入しています。患者さんにはリスクとベネフィットを説明した上で「僕だったら飲むよ」などと言いながら強く勧めています。1 回の指導で服薬の理解が得られなくても、根気よく指導を続けていれば徐々に理解される方もたくさんいます。
しかしながら、現実には抗凝固療法はまだまだ普及率が十分ではないですし、ワルファリン療法がなされていても良好なコントロールが得られていない症例がかなりあると思います。心房内血栓の9 割が左心耳にできるという観察から、現在海外では左心耳閉塞デバイスが開発されているそうです。カテーテルアブレーションを行った後にこのデバイスを入れて手技を終了するようにすれば、脈が乱れることに起因する症状と血栓塞栓の予防が一度のカテーテル手術で達成できて非常に良いだろうと思います。
 心房細動は確かに一つの病名ですが、症状や基礎疾患など患者さんが10人いれば十通りの病気があります。それぞれの共通項を取り出して、より簡略化された治療のアプローチを取ることは治療の普及のためには重要ですが、“十人十色の疾患”ではなかなか治療方針を十把一からげに決めるのは難しいと思っています。今後も十分なエビデンスを蓄積しつつ、患者さん個々に合わせたテーラーメイド医療をしていくべきですね。

抗凝固療法の介入時期について教えてください。   
また、ワルファリン導入にあたり、出血の対処法などについて教えてください。

◆ 介入時期はより早期から

   心房細動と加齢現象の予防という観点では、より早い時期から介入を行うべきです。例えば30 ~ 40 代の人が会社の健診などで高血圧を指摘された場合、放置していることが多いようですが、この時期からしっかり降圧治療を行えば心房細動をのちのち起こしてくる人を随分減らせるのではないでしょうか。これが本当の意味での、“アップストリーム治療”と思っています。紫外線をたくさん浴びて、50 代半ばになってから、しみ・そばかすを気にしても遅いでしょう(笑)。それと同じことが心房細動の場合でも言えるのです。
 また、抗凝固療法の導入にあたり、患者教育は最も重要です。TTR(Time in Therapeutic Range:INR 至適範囲内時間)という指標で抗凝固療法の質について評価してみると、私の外来患者の上位7 割の患者さんの平均TTR は82.5%でした。逆に言えば、3 割の患者さんは十分なコントロールが得られていません。それへの対策として、我々は以前からワルファリン教室という患者指導プログラムを行っています。服薬の重要性が理解された結果、教室受講後は目標達成率が向上するという結果を報告しています(図1に典型例を示す)。「この薬は自分にとって重要な薬なんだ」「こんなものは食べてはいけない、または食べられる」「飲み忘れたらどうしたらいいか」ということを認識してもらうことが、“予防治療”では重要です。

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センターラインがワルファリン教室を受講したポイント。目標INR1.6 ~ 2.6。 2回連続で目標域に入れば目標域にあったとする。本例では、治療が不十分な状態が続いていたが、受講後は、コントロール域に入る確率が上がっている。

◆出血を十分に管理し治療を継続する

   ワルファリン療法を行っている患者さんの中には、時々PT-INRが4~5 になる場合がありますが、実際に出血が起こっていなければ、ワルファリンを1~2 日止めて、徐々に元の処方量の8 割程度の量に増やすように対処しています。高齢者やPT-INR が非常に高い(例えば8 ~ 9 以上)の場合でも、ビタミンK の点滴で中和するより、十分な降圧をしつつ数日入院して安静を保つことで合併症は随分減らせると考えます。
   ワルファリン導入後かかりつけ医に戻すと、アスピリンに変更されてしまうケースが以前は沢山ありました。ですから患者さん本人に、「ワルファリンは中止してはいけない薬なんだ」ということを理解してもらうよう指導しています。

脳梗塞の一次予防の特徴はどのようなことでしょうか。
また、新規の経口抗凝固薬は一次予防においてどのような位置づけになるでしょうか。 
適正な薬物療法を導入するため の患者教育・啓発のポイントについても教えてください。

◆治療のモチベーションを維持する

   脳梗塞の一次予防と二次予防では患者さんの自覚は随分違います。脳梗塞を一度経験した患者さんは切実ですから、教育はしやすいし抗凝固療法のコントロールも良好です。しかし一次予防では、患者さんに切実感がないので教育が難しいところがあります。
 一次予防の患者さんにとって、抗凝固療法は車のエアバックに喩えられます。予防というのは、痛い! 苦しい!と言った症状に対する治療ではないため、治療継続のモチベーションの維持が難しいわけです。
 患者さんにワルファリンと新規の経口抗凝固薬の特徴を提示して「どちらの薬を選びますか?」と20 人くらいにアンケートを行ったところ、85%の人が「ワルファリンを続ける」と答えました。薬価の問題もありますが、PT-INR でモニタリングできることで患者さんは安心感を持ち、治療のモチベーションが維持できるという側面もあるのだと思います。つまり“エアバックの存在を具体的に想像できる”わけです。

◆新規の経口抗凝固薬は楽な薬ではない

   抗凝固療法は諸刃の剣ですから、服薬に当たっての十分な指導が必要です。これは新規の経口抗凝固薬でもまったく変わりません。これまで以上に重要かもしれないくらいです。手間暇かかるのが抗凝固療法なのです。新規の経口抗凝固薬は正しく処方され、正しく服用されていれば頭蓋内出血等の大出血はワルファリンに比べ随分と少ないというデータが示されているわけですから、ワルファリンの時と同じようにきめ細かい指導をしつつ使用すれば、ワルファリン以上に良い結果(高い脳梗塞予防効果と低い出血性合併症)が得られると認識すべきでしょう。
 皮下出血などが生じると短絡的に薬が効きすぎていると認識して、勝手に休薬する患者さんがいます。皮下出血などの出血性合併症は少ないに越したことはないけれども、皮下出血を避けるために脳梗塞を起こす確率が上がるようなことをしていてはいけないということを十分に知ってもらう必要があります。そういう意味でも患者教育は今後も重要で、新規の経口抗凝固薬といえども外来での継続的教育が必須です。医者に楽をさせるために開発された薬ではないということですね(笑)。
 先ほど述べたワルファリン教室には可能な限り家族にも参加してもらって、患者さんの服薬コンプライアンス維持に協力をしてもらっていますが、最近増えてきている独居老人は、飲み間違いや飲み忘れの可能性があるため、抗凝固療法の導入には慎重にならざるを得ません。ワルファリンの場合はPT-INR のモニタリングがその状況を把握する上で役に立つのですが、モニタリングをしなくていいという新規の経口抗凝固薬はそれがありません。患者さんの理解度や服薬コンプライアンスなどは具体的な数字になりにくい点ですが、これらの条件によっても新旧の薬をうまく使い分ける必要があると思います。

日常診療において「心房細動患者」を診ている多くの先生へメッセージをお願いします。

◆脳梗塞予防と厳格な血圧管理

   心房細動の患者さんで一番避けるべきはやはり脳梗塞です。頭蓋内出血は確かに深刻ですが、それ以外の出血は、大抵は対処可能で死に至ることはありません。やはり脳梗塞を避けるために適切な抗凝固療法を継続していただきたいと思います。
   血圧の管理も重要です。高血圧が続くと頭蓋内出血も脳梗塞も増えますから、しっかりと降圧する必要があります。
   洞調律維持治療を試みる場合、心不全がない患者さんでは、自分の使い慣れた抗不整脈薬を1~2 種類くらい試して、患者さんのQOL 改善がみられなければ、カテーテル治療の適応等について専門医に相談するということでいいのではないかと思います。
   この2、3 年で新規の経口抗凝固薬が次々と使用可能になる見通しです。正しい情報を共有できる講演会や勉強会には積極的に参加していただき、新たに手にした武器の使用法を正しく理解し、正しく使いこなせるようになってもらえればと願っています。


お話の内容はインタビュー(2011年7月)時点のものです。

奥山 裕司 先生

1990年大阪大学医学部卒業。大阪警察病院、米・ロスアンゼルス・シーダスサイナイ医療センター、大阪府立急性期・総合医療センターを経て、2011年より現職。日本循環器学会認定循環器専門医、日本内科学会認定総合内科専門医。

大阪大学大学院 循環器内科 / 先進心血管治療学講座

大阪府吹田市山田丘2番15号
TEL:06-6879-5111(代)
施設サイト

24時間体制で急性患者に対する救急医療を行っている。心不全の発症機序や動脈硬化の形成機序など、循環器疾患の中心的な問題についての研究に取り組み、最先端の治療法開発に繋げるよう日夜研究が行われている。また関連病院と協力して、心筋梗塞についての登録・疫学研究(OACIS)を行っている。またカテーテルアブレーション、ペースメーカーや植込み型除細動器などの心臓デバイス治療の症例も豊富である。