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◆ AF治療 Spotlight

#4 心原性脳塞栓症二次予防の取り組み

お話の内容はインタビュー(2011年7月)時点のものです
熊本市立熊本市民病院  診療部長 / 神経内科部長 / 地域連携部長
橋本 洋一郎 先生

昨今、わが国では、脳卒中(脳血管障害)が増加し、中でも心原性脳塞栓症は予後が悪いことから、一次予防・二次予防の重要性が強く提唱されています。また、脳卒中の経過は長く、発症(急性期)から在宅(維持期)まで、継ぎ目のない医療整備が急務課題となっています。そこで、「心原性脳塞栓症の二次予防」をテーマに、予防・治療をはじめ、医療連携に積極的に取り組まれている橋本先生にお話を伺いました。


熊本市民病院が推進している地域連携・病診連携について教えてください。  
また、「熊本方式」についても教えてください。

◆連携ネットワークの構築が重要な鍵

   私は、脳梗塞を急性心筋梗塞並みに治療したいという思いで、研修2 年目に脳卒中を専門とする神経内科医を目指しました。私が、熊本市民病院に赴任した1993 年当時の脳卒中急性期医療は、脳卒中専門医の中でも特に内科医が少なく、病院完結型(急性期から回復期まで同一施設で治療する)が多くを占め、急性期ベッドが不足していました。またリハビリ専門医やリハスタッフが少ないことから、十分な急性期リハビリができないという問題も抱えていました。

 1998 年にドイツへ短期留学した際、留学先の脳卒中専門病棟の平均在院日数が5.3 日であったのには驚きました。神経内科全体でも8日だったのです。当院に私が赴任した1993 年の神経内科の平均在院日数は30 日でしたから、帰国後は積極的にチーム医療の推進に取り組みました。地域の医療資源の有効活用という観点で、かかりつけ医との前方連携、リハビリ専門病院との後方連携、専門病院との水平連携の診療ネットワーク構築をさらに推進し、「急性期病院の平均在院日数は14 日」を一つの目標とした結果、2000 年からはようやく14 日を割るようになりました。
 当時の脳卒中パスの原型は当院の看護師が最初に作り、1996 年に済生会熊本病院でパスとして仕上げられました。最初は、「14 日では脳梗塞を診られない」「ベルトコンベア医療だ」などの批判を受けましたが、その時の苦労が、現在の脳卒中診療システムや地域連携・病診連携ネットワークのベースになっているのだと思います。

◆地域に根づいた「熊本方式」

   神経内科では、地域のリハビリ施設との連携の下、「熊本方式」という急性期・回復期・維持期までを継続してケアするシームレスな診療体制を構築しています。

 

   脳卒中地域連携パスのポイントは、①どの症例も十分にリハが受けられる、②どの地域でも使える地域連携パス(よりシンプルに)、③地域で1 種類の地域連携パス、④ゴール設定は在宅を十分に考慮する、⑤現在の院内パスをそのまま利用(それぞれの病院のパスを包括したもの)の5 つで、キーワードは「リハの継続」と「治療の継続」です。
 熊本方式では、リハの継続は回復期リハを3 つのコース(軽障・標準・重障)に、維持期リハを2 つのコース(標準・重障)に分けているのが特徴です。回復期では、① ADL(日常生活動作)が在宅可能、在宅の準備ができている、②回復期リハの効果がプラトーである、③維持期への準備ができていること、維持期では、①在宅の準備ができている、②維持期リハの効果がプラトーであることを退院、転院の基準と定めています。治療の継続は、非弁膜症性心房細動(NVAF)におけるワルファリン治療では、PT-INR を70歳未満は2.0 ~ 3.0、70歳以上は1.6 ~ 2.6 を目標値としています。
 2007 年からこの地域連携パスをスタートさせ、現在では約700名が集まる会に成長して、一堂に集っての十分な議論が難しくなったため分科会を作りました。また、紙ベースではデータ収集がうまくいかず、脳卒中データバンク、リハビリデータバンクとリンクできる電子版地域連携パスを構築して活用できるようになりました。
   残るは在宅の問題です。在宅は最初の3ヵ月がポイントと言われています。2010 年の診療報酬改定でやっと診療所に点数が与えられましたので、この地域連携パスにかかりつけ医の先生が入ってくれるようになりました。
 脳卒中地域連携パスの目的は、①脳卒中の発症から在宅までの治療計画を作成し、患者に説明する、②参加病院、施設の質の向上、治療の標準化、③脳卒中治療の継続とリハの継続による地域全体の脳卒中再発予防とQOL の向上です。機能分化・地域連携によって、地域の多くの患者さんが広く平等に良い治療を受けられる(均てん化)、各ステージの医療が十分機能を発揮できる、救急の受け入れ拒否を回避できるなどのメリットが得られます。
 脳卒中に対しては「地域連携パスは地域に一つ」ということがほぼ達成できているのに対して、頚部骨折など他の疾患ではまだまだ理想の連携ではありません。また、疾患毎に連携の会が数多く立ち上がったことで、連携会議が多すぎること、会の重複といった課題なども見えてきました。

脳梗塞急性期の治療戦略について教えてください。
また心原性脳塞栓症の治療について教えてください。

◆迅速な抗凝固薬治療がポイント

   当院では、CTとMRI を24 時間稼動にしており、脳梗塞急性期ではrt-PA 静注を行い、入院直後から二次予防を開始します。早期離床・早期リハビリを目指し、感染対策や栄養管理に傾注して血管内治療・外科治療を行います。
   ポイントは、急性期に心疾患を発見できるかどうかです。救急診察で病歴を聞き、過去に1 回でも発作性心房細動があれば、それに対応した治療になります。
 心原性脳塞栓症では、発症3 時間以内であればrt-PA 静注を行い、脳保護を目的に適応があれば24 時間以内に脳保護剤のエダラボンを開始します。脱水になると心内血栓ができやすいのでしっかり補液をすることが重要ですが、一方で、心不全にならないよう補液量のバランスに気をつけなければなりません。
   発症24 時間後にCT を撮り、脳出血がなければヘパリン、ワルファリンを使います。ワルファリンを早く効かせることが、心原性脳塞栓症の治療のポイントです。
   それとやはり、治療の継続(再発予防)をしっかりしなくてはいけません(図1)。禁煙・減塩・減量(適正体重維持、食事・運動療法)を行い、お酒は適量を守ります。高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療を行い、理想体重を守り運動を心がけます。



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新規の経口抗凝固薬の登場によって二次予防はどのように変わると思われますか。
期待や注意点について教えてください。

◆治療のモチベーションを保ちアドヒアランス対策をしっかりと

   現在ワルファリンは広く使われているいい薬ですが、毎回のPT-INR 測定や食事制限があり、さらに、他剤との相互作用や出血リスクなどいろいろな問題を抱えています。そこで、脳卒中を診る医師にとって、代替薬の登場が待ち望まれていました。
 新規の経口抗凝固薬は、凝固因子を間接的に阻害するワルファリンと異なり、Ⅹa やトロンビンを特異的に直接阻害しますから、ワルファリンの問題点が解消されて私たちも非常に嬉しく思っています。
 抗凝固療法は、ダビガトランの登場で大きく変りました。その1例を紹介します。この症例は過去に狭心症、左小脳梗塞、突然性難聴の既往があり、慢性心房細動、高血圧、糖尿病の現病歴のためワルファリンを服用していた患者さんで、夕食中に突然、上下肢麻痺などの症状が出現し、当院救急外来に搬送されてきました。入院時の身体所見では、NIHSS(National Institutes of Health Stroke Score:脳卒中評価スケール)が17 点、PT-INR は1.39 でした。rt-PA 療法とエダラボン投与によりNIHSSは翌日に0 点となり、CT を撮って出血がなかったので、翌日からダビガトランの内服を開始しました。以前ならヘパリンを24 時間ずっと継続しなければなりませんでしたが、エダラボンの点滴を5 日目で終了し、10日後には独歩で退院できました(図2、図3)。
   ただし、NVAF しか適応がなく、元気で意識がしっかりしていて嚥下に問題のない患者さんにしか使えません。また、立ち上がりが速い一方で抜けるのも速いですから、飲み忘れには注意しなくてはなりません。PT-INR 測定がないのは大きなメリットですが、薬が効いている実感がないのでありがたみがなくなるんです。治療のモチベーションをうまく保てるような指標が欲しいということです。新規の経口抗凝固薬は、患者さんにとっても医師にとっても期待できる薬ですから、正しく服薬してもらえるようアドヒアランス対策をしっかり練っておかなくてはなりません。

一次予防と二次予防の患者さんでは、心房細動における脳梗塞リスクはどのくらい違いますか。
一次予防と二次予防の違いや問題点について教えてください。

◆ 発症リスク“倍々ゲーム”の怖さ

 例えば、CHADS2 スコア(以下、スコア)では1 回脳梗塞を起こすとプラス2 点ですから、スコア0 点の人はスコア2点に、スコア1 点の人はスコア3 点になります。
これを脳梗塞発症率でみると、発症率は1.9 → 4(スコア0 点→スコア2 点)、2.8 → 5.9(スコア1 点→スコア3 点)となり、つまり“倍々ゲーム”で発症率が上がってしまうんです。
 このことから、1 回脳梗塞を起こした母集団は、一次予防に比べて2 倍の発症リスクを背負っていると言えます。それが二次予防の特徴であり問題点です。
 また、CHADS2 スコアは脳卒中の起こしやすさであって、起こしたときの重症度とは関係ありません。ですから、再発しないようにすることが非常に大切なんです。

◆ 継続はチカラ-服薬を止めないこと

 ところが、一度脳梗塞を発症しているにもかかわらず、抗血栓療法を中断して再発している患者さんが多いという現実問題があります[臨床神経学 51(1),35-37,2011]。脳卒中協会のインターネット調査では、脳梗塞患者の5 人に1 人が自己判断で通院を中止、4 人に1 人が薬剤の服用を中断もしくは中止、3 人に1 人が生涯服用の必要性を理解していないという結果が出ています。打撲などでちょっとした皮下出血があると服薬を止めたくなる患者さんが多いようですが、その時にしっかりと「半身不随になったら大変ですよ。この程度の出血は我慢しましょう。お薬は勝手に止めずに相談して下さい」と医師が説得することが重要です。
 「抗血栓薬 勝手に止めれば 悔い残る」。風邪薬を処方されて、風邪が治ったら服薬を止める、胃薬を処方されて、胃の調子がよくなれば止めてしまう。こういう感覚ではな く、「死ぬまでずっと飲まないといかんとです」と言わなければいけません。

二次予防への取り組みとして、特に力を入れている活動について教えてください。

◆ 脳卒中予防を目的にまず禁煙

   「脳卒中予防」には、血圧を下げ、血糖を下げ、脂質を下げ、理想体重を維持、適度な運動、禁煙、抗血栓療法などの多角的アプローチが重要となります。その中でも禁煙は最も予防効果が高く、禁煙啓発にも積極的に取り組んでいます。「くまもと禁煙推進フォーラム」を設立し、学校敷地内を禁煙にする活動(2011 年9 月より熊本市で学校敷地内禁煙実施)をしたり、脳卒中週間には市民講座を開催したり、街頭で脳卒中リスクの無料検査を行ったりしました。
   Framingham 研究では、喫煙者が禁煙すると脳卒中になる危険性は5 年で非喫煙者と同等になると報告されています。一方、JACC Study(The Japan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer Risk)では10 年と報告されていますが、重要なのは生活習慣病の進展を上流(不適切な食生活、運動・睡眠不足、ストレス過剰、多量飲酒、喫煙)で食い止めるということなのです。

日常診療において「心房細動患者」を診ている多くの先生へメッセージをお願いします。

◆医療格差を是正し「救急医療を守ります」

   生物が等しく雨露の恵みに潤うことを「均霑」というのですが、医療連携においてもこれがキーワードになるのではないかと考えています。
 急性期・回復期・維持期の各ステージの機能を十分発揮することによって、救急受け入れ拒否を回避することができます。患者さんを一人断ったら治療は失敗なんです。
 地域連携を始めたとき、リハビリ病院が「急性期病院が救急車を断らなくて済むように頑張ります」と約束してくれました。私たちは、「リハビリテーションと医療連携は救急医療を守ります!」をキャッチフレーズに、どこでも平等に専門医療が受けられ、医療格差を是正するよう脳卒中治療の均てん化に取り組んでいます。

お話の内容はインタビュー(2011年7月)時点のものです

橋本 洋一郎 先生

1981年鹿児島大学医学部卒業。同年熊本大学医学部第一内科。1984年国立循環器病センター内科脳血管部門。1987年熊本大学医学部第一内科助手。1993年熊本市立熊本市民病院神経内科医長。1998年同院神経内科部長(9月~12月ドイツ・ハイデルベルグ大学医学部神経内科短期留学) 2010年同院地域連携室長兼任。2011年同院診療部長 / 地域連携部長・神経内科部長兼任。

熊本市立熊本市民病院

熊本市湖東1丁目1番60号
TEL:096-365-1711(代)
施設サイト

「周産期母子医療」「がん医療」「生活習慣病医療」「救急医療」の4項目を重点医療と位置づけ、チーム医療を特徴とした診療体制で地域の医療機関との連携を図りながら、総合病院として多種多様な疾患に取り組んでいる。また、橋本先生を地域連携部長として、地域連携・病診連携を推進し、地域の中核病院として、公共性、公益性の高い医療から高度な先進医療、地域の特性を踏まえた医療を提供している。