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◆ AF治療 Spotlight

# 6 心房細動を見逃さない

お話の内容はインタビュー(2012年7月)時点のものです
国立病院機構 京都医療センター 循環器科 医長・診療科長
赤尾 昌治 先生

心房細動は、加齢とともに発生率が増加する、日常診療においても最もありふれた不整脈です。社会全体の高齢化のため、本邦でも罹患患者数は増加の一途を辿っています。また、心房細動は脳梗塞の発症リスクを5倍程度上昇させることが知られており、早期に発見し、リスクの高い症例には抗凝固療法を限りなく早く開始することが、将来の脳梗塞発症予防につながると考えられます。
そこで今回は、京都市伏見区にて「伏見心房細動患者登録研究/FUSHIMI AF REGISTRY」(以下 FAF)を設立さ れ、心房細動患者の疫学研究や脳梗塞の発症予防に積極的に取り組んでおられる赤尾昌治先生に、日常臨床において心房細動を見逃さないための診断のコツをご解説いただくとともに、FAFから得られた知見および抗凝固療法に対するお考えをご紹介いただきました。


1.日本の心房細動患者の現状

◆ 日本の心房細動患者は10年後には100万人を超えると予測される

心房細動の患者数は年々増加傾向と聞いていますが、日本の現状を簡単にご紹介ください。


    心房細動は加齢との関連が大きく、人口の高齢化に伴い、患者数は増加しています。現在、日本における心房細動の有病率は全人口当たり0.6〜0.8%、患者数は80〜90万人と推計されており、今後10年程度で100万人を超えると予測されています1)
    現在では、リウマチ性僧帽弁膜症を背景とした心房細動は少数で、高血圧・糖尿病などを背景とした非弁膜症性心房細動(NVAF)が大半を占めるようになってきており、心房細動は生活習慣病の一種と言えます。

◆ 心房細動患者の3人に1人が一生涯のうちに脳梗塞を発症

心房細動患者の脳梗塞リスクについてお聞かせください。


    心房細動を有していてもほとんど支障なく生活している患者さんは多く、心房細動自体は一般的に予後の悪い疾患ではありません。ただし、心房細動患者は脳梗塞の発症率が非心房細動患者の5倍程度高いことが報告されています2)。心房細動患者の脳梗塞の年間発症率は約5%3)、同じく一生涯のうちに脳梗塞を発症する確率は約35%4)との報告もあり、心房細動の患者さんは脳梗塞予備群と言ってよいでしょう。

2.心房細動診断の実際:見逃さないためのポイント

◆ 病歴の聴取:心房細動患者の約半数が無症状、有症候性の場合、症状は
多岐にわたる

心房細動の診断に重要な症状にはどのようなものが多いのでしょうか。


    心房細動を発症しても自覚症状のある患者さんは決して多いとは言えず、今回のFAFでは約半数が無症状です。無症状の場合、心房細動は健康診断やほかの病気の検査でたまたま見つかることになります。有症候性の場合、動悸が最も多いのですが、ほかにも倦怠感、息切れ、胸の痛み、めまいなどがあり、その症状はさまざまです。特異的な症状はないため、症状から心房細動の存在を疑って、心電図をとることで初めて確定診断できます。

◆ 患者像:生活習慣病を有する患者に注意

どのような人が心房細動を発症しやすいのでしょうか。患者像や発症の機序を教えてください。


     心房細動は加齢との関連が大きく、多くの患者さんが高血圧症、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病などの生活習慣病を合併していることが特徴です。こうした疾患があると、血管においては、血管内皮の細胞が傷み動脈硬化が起きますが、それと同じことが心臓でも起きていると考えることができます。つまり、このような生活習慣病を有する患者さんでは、心臓の細胞も「傷み」が早く、心房細動が起きやすい状況ができると考えられます。若く正常な心臓であれば、期外収縮が発生しても長続きしませんが、こうした心臓の細胞の「傷み」があると、電気の伝わりが途切れたり時間がかかったり、色々なルートができてしまうことで、心房内をでたらめに電気が旋回するようになってしまいます。こうした心臓の細胞の「傷み」は、抗不整脈薬やアブレーションで治るわけではなく、生活習慣病を是正することがもっとも大切です。

◆ 確定診断のための検査:心房細動を疑ったら、とにかく心電図を

心房細動を疑ったら行うべきことは何でしょうか。


    心房細動を発見するには、とにかく心電図をとるしかありません。持続性心房細動や永続性心房細動は心電図を1回とれば発見できますが、発作性心房細動の場合は、発作が起きている時に検査を行わなければ検出できません。言わば現行犯でつかまえるしかないわけです。たまにしか出ない発作性心房細動を捕捉するのは容易ではありません。24時間ホルタ―心電計や携帯型心電計を使用することで、発作性心房細動の検出率を高めることができますが、当然これでも限界があります。疑いを感じたら、諦めずに繰り返し心電図をとることがポイントと言えるでしょう。
 また、心房細動は喫煙、飲酒、ストレスとの関連も指摘されていますので、大量の飲酒後、身体的・精神的ストレスの負荷後に、発症しやすいと考えられます。手術で外科系診療科に入院中に、手術中やその前後に初めて心房細動が見つかって、循環器内科に紹介されるケースもしばしば見られます。
 有症候性の患者さんでは、動悸を感じた時に自分の脈を取ってもらうことも役に立つ場合があります。自動血圧計を装着して、脈拍音が乱れていることで気付かれた患者さんもおられます。

◆ 専門医への紹介:心房細動を見つけたらぜひ専門医に紹介を

心房細動診療におけるプライマリケア医と専門医の連携について教えてください。


    心房細動の患者さんの多くは元気で、普通に日常生活を送っておられる方が大半ですが、心房細動を発症後1年以内が脳梗塞や心不全を起こしやすく、最も危険な時期です。心房細動と初めて診断された患者さん、または疑いのある患者さんがおられましたら、一度は循環器専門医にコンサルトして頂きたいと思います。心房細動の背景因子を見きわめ、治療方針の決定、塞栓症のリスク評価などを早めに行う必要があるからです。専門医がリスクを評価し、治療や管理の方針が決まって方向性がついたら、近隣のプライマリケア医へ患者さんを返して治療を続ける、このような連携が理想的だと思います。

3.「伏見心房細動患者登録研究/FUSHIMI AF REGISTRY」の取組み

◆ 予測を大きく上回る3,000例を超える症例が集まる

京都市の伏見区で進めておられる疫学研究の概要についてご紹介ください。


    伏見区は京都市の南端に位置する京都市最大の行政区です。人口は約28万3,000人、商業、工業の盛んな人口密集地域です。年齢別人口構成は、京都市内全体、日本全体と良く一致しており、日本の都市型社会の典型例と言えます。伏見医師会と、伏見区の二大基幹病院である国立病院機構京都医療センターと医仁会武田総合病院の三者でタッグを組んで、心房細動の患者背景や治療の実態調査、予後追跡を目的とした研究組織を立ち上げました。アカデミックな気風の高い伏見医師会の全面的なバックアップを得ることができたおかげで、多くの開業医の先生方からご賛同いただき、79施設が参加してFAFが2011年3月にスタートしました。
 この研究では、伏見区の心房細動の患者さんを全例登録することを目指しました。心房細動の発症率を人口の0.6%として約1,700人、0.8%とすると約2,300人の患者数を推定していましたが、2012年6月末現在で3,183例を登録できました。現在も登録患者数は増えており、人口比で1%をすでに超えています。
     登録基準は、心電図で心房細動が証明されていることとし、除外基準はなし、としました。1回でも心電図で診断されれば登録可能です。循環器専門医だけでなく、プライマリケア医からも多くの症例が登録されたことが、本研究の最大の特色であると思います。

◆ 浮き彫りになった心房細動治療の現状~ 高リスクの患者を専門医でなく
開業医が管理

FAFでこれまで明らかになっていることをお聞かせください。


     FAFでは、登録患者3,183例のうち59.3%が男性で、平均年齢は74.2歳です。日本心電学会の心房細動前向き登録研究であるJ-RHYTHM Registry5)(158循環器専門施設、7,937例)における登録患者の平均年齢が69.7歳でしたので、FAFの患者群のほうが圧倒的に高齢でした。また、J-RHYTHM Registryは大学病院や公的病院などの循環器専門施設の症例が中心でしたが、FAFは開業医からの登録患者が多く、まさに地域のリアルワールドの患者群であり、好対照をなしています。
    平均のCHADS2スコアですが、FAFで2.09、J-RHYTHM Registryで1.70と、FAFのほうがリスクの高い患者さんが多くなっています。J-RHYTHM RegistryではCHADS2スコア1点の患者さんが最も多かったのに対し、FAFでは2点の患者さんが一番多いという結果でした。併存症ですが、FAFでは最も多いのが高血圧症で60.6%、心不全27.9%、糖尿病23.2%、脳卒中の既往が19.4%となっています。高血圧症はほぼ同等ですが、そのほかはいずれもFAFのほうがJ-RHYTHM Registryより高率です。一方、ワルファリンの処方率ではJ-RHYTHM Registryが87.3%で、FAFは48.5%でした。総括しますと、J-RHYTHM Registryと比べFAFの患者群のほうが、より高齢でリスクが高く、かつ脳塞栓予防が不十分である現状が浮き彫りになりました。
    FAFにおける病院の症例と開業医の症例をみてみますと、開業医のほうがより高齢でCHADS2スコアが高く、ワルファリンの処方率が低いことがわかります。本来重症の患者さんをみるべき大病院の専門医が比較的軽症の患者さんをみていて、より高齢でリスクが高い患者さんを開業医が診療しているという逆転現象がみられました。
    実際に3,000人以上の心房細動患者を、地域の循環器専門医だけで診療するのは不可能です。そのため、専門医による評価を早めに行い、プライマリケア医と専門医の役割を明確にして、分担していく必要があります。
 日本循環器学会による「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)」6)では、NVAFにおける脳梗塞のリスク評価にCHADS2スコアが取り入れられており、CHADS2スコアが2点以上の患者さんの場合、ワルファリン療法が推奨されています。また、近年リバーロキサバンなどの新規経口抗凝固薬は、ワルファリンに比べて頭蓋内出血のリスクが低いことが確認され、CHADS2スコア1点の患者さんでもメリットがあると考えられるので、抗凝固療法の適応となる患者さんが今後さらに増えていくと思われます。

◆ 研究チームは多種多様なスタッフで構成され連携が可能に
 〜研究はまさに地域医療そのもの

地域ぐるみの研究活動を推進することでどのような手応えを感じておられますか。


    FAFの研究チームは、患者さんを中心にして病院勤務医、開業医、臨床研究コーディネーター、薬剤師、看護師、理学療法士など、多職種のスタッフで構成されています。もちろん研究調査をすることが目的ですが、研究チーム内での連携は、まさに地域医療そのものです。患者データを収集して解析することで、治療や管理のクオリティ・コントロールを行えます。問題点や課題を抽出し、それをもとに改善へのアクションを起こすことができ、チーム内での意思統一や病診連携のコミュニケーションもよりスムーズになり、地域医療レベルの向上に直結する組織ができたと自負しています。

◆ 「脳梗塞地域で防げ」

今後の研究目標としてどのようなことを目指しておられますか。


    心房細動の標準治療の確立は、欧米発のエビデンスに多くを頼っているのが現状です。しかし、日本人の心房細動の患者さんと欧米の患者さんとでは臨床的背景が大きく異なります。例えば体格を比較すると、欧米で行われた心房細動の大規模治験のデータ7)では、平均体重が80kg、BMIが28kg/m2程度であるのに対し、日本人の心房細動の患者さんは非常に小柄でFAFのデータではそれぞれ58.5㎏、22.8kg/m2程度です。大柄な欧米人のデータが日本人にそのまま通用しないのは当然なことでしょう。国が違えば、生活習慣も違いますし、人種差もあり、疾病構造は異なります。

    日本国内の状況を考えても、現在80歳代の高齢者は、成長期が戦時中の食糧難の時代にあたり、FAFでも80歳以上のなんと35%が50kg未満の低体重でした。現在60代の団塊世代が70代や80代に、つまり心房細動世代になれば、心房細動患者の臨床的特徴も、現在とは異なるものになると思います。
 こうしたことから、地域ベースで、偏りのないリアルワールドの患者データを、時代の変化とともに追跡していくことは、日本人に最も適した治療を行ううえで不可欠であると思っています。
    FAFは、折しもワルファリンから新規経口抗凝固薬へと治療が変化しようとする節目のタイミングでスタートできましたので、新規経口抗凝固薬がどのように心房細動患者のアウトカムを変えていくのか、その効果と安全性についても検証できるであろうと期待しています。
     京都新聞にもわれわれ研究チームの取り組みがとりあげられました8)が、スローガンはこの記事の見出しのとおり「脳梗塞 地域で防げ」です。「京都の伏見区だけなぜこんなに脳梗塞患者が少ないんだ」とみなさんに驚かれ、また手本とされるような地域医療を目指していきたいと思っています。



■References
1)Inoue H, et al. Int J Cardiol 2009; 137: 120-107.
2)Wolf PA, et al. Stroke 1991; 22: 983-988.
3)Gage BF, et al. JAMA 2001; 285: 2864-2870.
4)Cerebral Embolism Task Force. Arch Neurol 1989; 46: 727-743.
5)Atarashi H, et al. Circ J 2011; 75: 1328-1333.
6)日本循環器学会ほか. Circ J 2008; 72(Suppl.IV):1581-1638.
7)Patel MR, et al. N Engl J Med 2011; 365: 883-891.
8)京都新聞2012年6月6日 http://www.kyoto-np.co.jp/environment/article/20120606000072

お話の内容はインタビュー(2012年7月)時点のものです
赤尾 昌治 先生

1991年京都大学医学部卒。京都大学病院、静岡市立静岡病院循環器科、京都大学大学院を経て、1999年米国ジョン・ホプキンズ大学循環器内科研究員・客員准教授。2003年京都大学先端領域融合医学研究機構特任助手。2004年京都大学循環器内科助手。2007年京都大学循環器内科助教。2009年より国立病院機構京都医療センター循環器科 医長・診療科長。現在、京都大学臨床教授を兼務。

伏見心房細動患者登録研究 FUSHIMI AF REGISTRY (FAF)

伏見心房細動患者登録研究事務局
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TEL:075-641-9161(代表)
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