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◆ AF治療 Spotlight

# 8 心房細動をめぐる医療連携の実際

お話の内容はインタビュー(2013年2月)時点のものです
日本赤十字社 武蔵野赤十字病院 循環器科 鈴木 篤 先生
さいとう医院 院長 斉藤寛和 先生

従来の抗凝固療法よりも簡便な新規経口抗凝固薬が登場し、実臨床での使用も増えつつあり、心房細動治療の医療連携において、新規経口抗凝固薬の役割が注目されるようになってきました。
そこで、今回は心房細動治療における医療連携をテーマに、かかりつけ医として、地域の基幹病院との連携に積極的に取り組んでいらっしゃる、さいとう医院の齋藤寛和先生、病院専門医として、武蔵野赤十字病院循環器科の鈴木篤先生をお招きし、「送る側」、あるいは「受ける側」としての本音をうかがいました。

◆増える心房細動患者数

心房細動患者が増えたという実感はありますか?


齋藤 当さいとう医院のレセプトで調べると、心房細動の診断名がついた患者数は2012年10月には80名であり、2007年の55名に比べて増加していました。受診患者数はほとんど変わっていないので、心房細動の患者数は増えている印象があります。
鈴木 現在、私は武蔵野赤十字病院で外来を週2日担当し、週に35~40名ほど外来患者を診察していますが、今回調べてみると、その3分の1以上が心房細動患者で、1ヵ月の心房細動患者数は50名前後と多いことに驚きました。当病院でも、2008年頃には心房細動患者は外来患者の4分の1程度だったので、やはり増加しているように思います。また、医療連携を推進している当病院の特徴でもあると思いますが、心房細動患者の8割以上が紹介患者でした。
齋藤 心房細動患者数が増加している原因を考えてみると、当院受診患者の平均年齢が2007年は63歳であるのに対し、2012年は66歳ですので、やはり高齢化の影響があるように思います。
鈴木 筑波大学の報告によると、茨城県民を対象に行った疫学調査の結果では、60歳代と70歳代における心房細動の有病率はこの10年で約1.5倍に増加しています。同じ年齢層で比較しても増加しており、加齢だけでなくメタボリックシンドロームに含まれる高血圧、糖尿病、脂質異常症との関連を示唆する文献も報告されています。社会の高齢化や生活習慣病の増加を背景に心房細動患者も増加していると思います。

◆生活習慣病に潜む心房細動

心房細動を疑う、あるいは診断するきっかけは何でしょうか?


齋藤 心房細動は、自覚症状で見つかるということはあまり多くなく、聴診したときや血圧を測定したときに「あれっ、ちょっと乱れがあるんじゃない?」、と疑って心電図をとると心房細動だった―そうしたことをきっかけに見つかる人が多いように思います。心房細動の合併症として高血圧は最も多いので、特に高血圧患者の場合は血圧測定時などには心房細動を念頭において診察するように心がけています。また、発作性心房細動の場合は、夜間尿量が突然増えた、血圧が下がったという訴えがあった場合に、ホルター心電図などで注意深くみると心房細動が見つかることも少なくないため、患者さんのそういった訴えにも注意を払っています。
鈴木 当病院でも心房細動の自覚症状で直接来院される方は少なく、高血圧や脂質異常症でかかりつけ医に通院中に、たまたま心電図に異常が見つかって紹介来院される例は比較的多いです。また、最近では、カテーテルアブレーション目的での紹介も増えています。かかりつけ医から紹介していただいた薬剤抵抗性の心房細動患者さんの多くが、カテーテルアブレーション治療後に心房細動が良くなって帰られるので、かかりつけ医の先生方にもカテーテルアブレーション治療に興味を持っていただけるようになり、紹介患者が増えているのかも知れません。
齋藤 以前は心房細動の完全治癒は難しいため紹介を躊躇することもありましたが、完治も夢ではなくなりつつある現在、アブレーションの適応も含め、抗不整脈薬の選択など心房細動の治療方針を決めてもらうという意味で、専門医へ紹介することは大切だと思います。

◆「顔の見える」医療連携

良好な医療連携のためには何が必要でしょうか。


齋藤 武蔵野赤十字病院循環器科では定期的に近隣の開業医の先生方も参加する検討会を開催してくれています。循環器科医のみならず、消化器内科医、呼吸器内科医、一般内科医であっても希望すれば参加でき、当日は開業医が実際に紹介した症例をもとにした症例検討会とともに、ワルファリンの具体的な使い方や新規経口抗凝固薬に関する最新情報のミニレクチャーなども行われます。この会は開業医にとって非常に役に立つ情報が得られるだけでなく、病院医師と直接顔を合わせて意見交換できるため、何か困った場合には「診てもらえますか」と気軽に依頼しやすく、「いつでも受け入れます」という言葉が安心感につな がって、良い関係を構築する基盤になっていると思います。かかり つけ医と病院医師が顔の見える関係になっていることが、この地域で医療連携が円滑に行われている背景にあると思います。
鈴木 齋藤先生からお話があった症例検討会の他にも、当病院では医療連携を目的とした各種の症例検討会・研究会を行っています。およそ月に1~2回はこのような会を開催して多くの先生が参加されています。直接は面識がなく循環器が専門ではないかかりつけ医の先生にアブレーション治療後の心房細動の患者さんを逆紹介する場合には、ワルファリンであればPT-INR(Prothrombin Time-International Normalized Ratio:プロトロンビン時間国際標準比)が安定するのを確認してから紹介したり、その後も2~3ヵ月に1回は病院を受診してもらってチェックするようにしています。一方、研究会に参加されて比較的密に意見交換している先生や、専門医でなくても抗凝固療法についてよく理解されている先生には早い時点で逆紹介することが可能です。用量調節が必要な患者さんは、元のかかりつけ医にすぐには返しづらいという例が少なくないのですが、そのような場合も研究会でよくお会いする齋藤先生のようなかかりつけ医の先生であれば安心してフォローをお願いできます。
齋藤 ワルファリンの至適投与量は個人で異なり、目標治療域の範囲で用量調節する必要があります。投与量が不十分な場合は脳梗塞のリスク、過量になると脳出血のリスクが増大します。その用量調節に必要なPT(秒)やPT-INRといった血液凝固能検査は、最近では異常値が出れば電話で至急連絡してくれるようになりましたが、すぐに結果が判明する病院とは違って開業医では結果がわかるのは通常翌日です。PT簡易迅速測定器もありますが、ランニングコストが高いためまだまだ普及していません。また、ワルファリンとの相互作用が報告されている食品があるので、患者指導が必要になることもあって、非専門医には使い方の難しい薬剤の1つであると思います。
鈴木 非専門医であっても、アブレーションが成功して患者さんを返した後に心電図などの術後管理に参画してもらうと治療効果を実感され、その後、紹介が増えたり病院との交流が始まった例もあります。何らかのきっかけで病院とかかりつけ医との交流が始まり顔の見える間柄になれば、医療連携がうまく動き始めるように思います。

◆医療連携は患者、病院、かかりつけ医の3者にとってメリットがある

より良い医療連携とはどのようなものでしょうか。また医療連携のメリットとは。


齋藤 病院に紹介する心房細動患者の基準としては、75歳未満、自覚症状の強い方、高齢者でも心筋症などの基礎疾患が重い方などが挙げられます。自覚症状もなく重篤な基礎疾患もない高齢者の場合は、病院に紹介してアブレーションで根治を目指すのではなく、当院で抗凝固療法を行う方向で考えています。アブレーションを考慮するのは心房細動のタイプや年齢だけでなく本人の治療意欲にもよるので、通常は75歳未満の患者さんの場合には治療方法や成績などを説明して本人の希望を聞いています。病院側への紹介状には、アブレーション適応の判断、抗不整脈薬の薬剤選択・用量決定、心筋症などの基礎疾患自体の治療方針など、具体的な依頼内容を記載するようにしています。
鈴木 我々の病院では、心房細動であれば、可能な範囲で複数の医師で診断して治療方針を決定しています。そうした専門スタッフでしっかり診断・治療することが病院の最も重要な使命と考えます。一般的に病院は非常に待ち時間が長く、通院時間も含めて患者さんの負担が大きいと思います。一方、病院にとっては、毎週のように紹介されてくる患者さんをいつまでも抱えていると外来で対応しきれなくなり、医師も専門的な医療に集中する時間が保てなくなります。抗凝固薬の継続投与やアブレーション後のフォローであれば、いつも診てもらっている近所のかかりつけ医で受診された方が、患者さんにとっても安心で負担が少なく、患者、開業医、病院の3者にとってメリットとなります。したがって、患者さんだけでなく医療機関側の負担も減らしつつ、より多くの患者さんに専門的な治療を行っていくには、医療連携に参画されるかかりつけ医の先生方が増えていくことが重要と考えます。
齋藤 病院への紹介時には、どういった目的で何を検査する必要があり、その検査は病院でしかできないことを患者さんにきちんと説明します。こうした説明により専門的な検査ができる病院と良好な連携関係にあることを理解して安心してもらえますし、病院であの先生のところに戻っても安心ですよと説明を受けて返ってくると、我々への信頼感もより高くなっているように思います。患者さんが返ってくる場合は病院からの文書に処方などが記載されていますが、治療方針を決めた経緯、例えば腎機能低下がみられるのでこの薬剤にしたとか、こちらの薬剤を使って効果不十分であったのでこちらに変更したなど、詳しく記載されているので戸惑うことはほとんどありません。文書内容に疑問を抱いた場合には直接病院に電話して尋ねています。疑問があっても速やかに連絡でき、きちんと返事をもらえる連携関係になっています。
鈴木 かかりつけ医に患者さんを逆紹介する際の文書で、特に経口抗凝固薬の処方をお願いする場合は明確な記載を心がけています。例えば、アブレーションで洞調律になった症例でも再発を起こすと脳梗塞を引き起こす危険性があるため、最低でも3ヵ月以上は抗凝固療法が必要と考えられます。
アブレーション後も抗凝固薬の処方をお願いする先生には、洞調律になっているからといって油断することなく、しっかりと経過観察を行っていただき、もしも心房細動が再発した場合はすぐに連絡していただくよう注意喚起しています。

◆新規経口抗凝固薬が医療連携を容易に

新規経口抗凝固薬を使用してみての印象はいかがでしょうか。


齋藤 当院では、新規経口抗凝固薬のダビガトランとリバーロキサバンを使っています。納豆や海草を食べられないことに不満を抱いていた患者さんや、特にきっちり服薬しているのにPT-INRが安定しない患者さん、脳出血のリスクが気になる患者さんの場合に切り替えを検討しています。今のところ、ワルファリンからの切り替え例も含め新規経口抗凝固薬を投与した患者さんでは、脳出血を起こした患者さんはおらず、ダビガトランも用量を減量してからは消化管出血も発現していません。リバーロキサバンはまだ少数の患者さんですが、これまでのところ消化管出血や消化器症状も認められていません。抗凝固薬を服用している患者さんは高血圧の治療を受けていることが多く、1日1回投与の降圧薬と併用する場合には、1日1回投与のリバーロキサバンは服薬アドヒアランスの面からもメリットがあると思います。
鈴木 ダビガトランに関しては、APTT(activated partial thrombo-plastin time:活性化部分トロンボプラスチン時間)が70秒、あるいは80秒以上に延長した症例が何例かあり、それらの症例では出血性副作用は認められませんでしたが、投与を中止したケースもあります。新規経口抗凝固薬は、わが国での使用経験が蓄積されるまでは投与開始時にはAPTTやPTでチェックをして、問題ないかどうか確認してから投与継続していくべきと考えられます。
齋藤 新規経口抗凝固薬は食事制限の必要がなく、患者さんにとっても簡便なため非専門医でも扱いやすい非常に魅力的な薬剤だと思います。以前、入院中にワルファリン処方を開始されて返ってきた患者さんの用量調節に難渋した経験があります。コントロール不良になった原因は入院食と退院してからの食事が大きく変わってしまったせいでしたが、新規経口抗凝固薬はそのような心配も少ないと思います。ただ、使用経験がまだまだ少ないので、まずは病院専門医の使い方を参考にして使い慣れていくというのが良いのではないかと思います。
鈴木 新規経口抗凝固薬は、通常、用量調節は必要ないので、その意味で専門医がかかりつけ医の先生に紹介しやすい薬剤といえるかも知れません。なお、新規経口抗凝固薬の中での使い分けについては、まだ明確な基準はないと思いますが、投与回数(1日1回か2回)、禁忌、併用薬との相互作用、副作用、患者の好みなどに基づいて選択することが考えられます。また、ダビガトランとリバーロキサバンは腎臓からの排泄率が異なるので(ダビガトラン:約80%、リバーロキサバン:約35%)、薬物動態を考慮した薬剤選択が考えられます。リバーロキサバンは約3分の2が肝臓で代謝されるため、中等度以上の肝障害(Child-Pugh分類でBまたはCに相当)では禁忌となるので投与できません。しかし、高齢者では肝機能よりも腎機能の方が問題となる患者さんが多いと思います。腎機能低下例は低めで安定しているという保証はなく、急に悪くなる可能性はあります。そのような症例では、リバーロキサバンを選択する価値があると思います。
齋藤 CKD(Chronic Kidney Disease:慢性腎臓病)の概念が提唱され、心血管疾患に密接に関連しているために注意深く診るようになりました。高齢者では普段の血清クレアチニン値が正常域にあっても、風邪をひいたり、脱水を起こすと腎機能が急に低下することがあり、クレアチニンクリアランスの変動には注意すべきです。薬剤選択の際には、腎機能の変動を考慮する必要があり、投与開始後も定期的に腎機能をチェックする必要がありますね。
鈴木 また、抗凝固療法だけでなく、心房細動そのものの治療も大切だと思います。2003年の持続性心房細動に関する研究では、3年間で心房細動患者の20%以上が脳梗塞や出血性イベント、死亡などの重篤なイベントを起こすことが報告されています1)。さらに最近の報告では心房細動があると、認知症のリスクが1.42倍になるとされています2)。また、心房細動と認知症の合併により総死亡リスクが約1.4倍に増加するとの報告もあります3)
このような背景から、心房細動患者は、可能な限り積極的に抗不整脈薬やカテーテルアブレーションで治療を行っていくべきと考えられます。現在当病院での心房細動に対するアブレーションの成績は、発作性で70~90%、持続性でも50~70%の根治率が見込まれ、患者さんが心房細動から解放される可能性が十分に期待されます。このような観点からも、かかりつけ医との連携を深めていくことがきわめて重要だと思います。


最後に今後の医療連携について齋藤先生にまとめていただけますか。


齋藤 以前、診察中に、病院の先生から「こういう患者さんを紹介したいのだけれど」と直接電話をいただいたことがあります。「今、齋藤先生にお願いしましたから」と言われると、その患者さんはその電話を聞いているので、紹介されても非常に安心して当院に来てくれます。開業医に紹介されることに抵抗を感じている患者さんや、当院から送った患者さんではない場合、患者さんに安心感を与える良い方法と思います。もちろん、こうしたことができるのは「顔の見える」関係であることが必要で、医療連携を推進するには、日頃のコミュニケーションが重要であることは言うまでもありません。
   ワルファリンに比べて安全性が高く制約の少ない新規経口抗凝固薬が、心房細動患者の医療連携の普及に役立ち、さらに医療連携が促進されることを願っています。

■References
1) Carlsson J, et al., J Am Coll Cardiol 2003; 41; 1690-1696.
2) Santangeli P, et al., Heart Rhythm 2012; 9: 1761-1768.
3) Bunch TJ, et al., Heart Rhythm 2010; 7: 433-437.