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◆ AF治療 Spotlight

# 9 実臨床から考える心房細動患者における抗凝固療法

お話の内容はインタビュー(2013年7月)時点のものです
一般社団法人大阪府内科医会 副会長/医療法人社団宏久会 泉岡医院 院長
泉岡 利於 先生

最近、ワルファリンと同等以上の脳梗塞発症抑制効果を有し、簡便に使える新しい経口抗凝固薬が相次いで登場しました。これらの薬剤はワルファリンに比べて頭蓋内出血が少ないといわれていますが、出血性合併症は皆無ではないので、処方前に出血リスクの高い症例を見極める必要があります。
そこで、今回は循環器専門の「かかりつけ医」として地域医療に携わっておられる泉岡利於先生に、日常臨床から考える抗凝固療法のコツについて解説していただきました。

1.日本における心房細動の現状

◆抗凝固療法の適応があるのに抗凝固薬を処方されていない心房細動患者がかな
   り多い

高齢化に伴い心房細動患者数が増加しているといわれますが、皆さん抗凝固療法を受けているのでしょうか。


  現在、当院を受診する心房細動患者数は約50例/月で、心房細動患者は増えている印象があります。その背景には人口の高齢化により心房細動患者自体が増加してきていることに加え、脳梗塞の原因として心房細動への関心が高まっていることがあると思います。
  私の経験では、心房細動患者のうち抗凝固療法が適応となる患者さんは7〜8割ですが、抗凝固薬を嫌がる患者さんもいるので、実際に抗凝固薬を服用しているのは約6割です。一方で抗凝固療法を実施している開業医は2〜3割にとどまっており、そのほかの開業医はアスピリン投与などで対応していると思います。現状では、適切に抗凝固療法が行われていない例が非常に多いと思います。

◆非専門医にとって抗凝固薬は処方ハードルが高い

血液凝固検査による用量調節が必要な抗凝固療法は、かかりつけ医には負担が大きいのでしょうか。


  従来から、ワルファリンの抗凝固作用のモニタリングにはPT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)が用いられてきました。実は、PT試薬のワルファリンに対する感受性は試薬間で異なるため、INRでその差異を標準化しています。したがって、PT-INRを用いれば試薬間、施設間の差異はなくなるはずです。しかし、当院が検査会社に依頼したPT-INR値が、地域の基幹病院で測定したPT-INR値に比べてかなり低く、ワルファリンの投与量に換算すると0.5 mgくらい違ってくることが判明しました。採血から検査までの経過時間、試薬(トロンボプラスチン)の動物種差(ヒト由来、あるいは動物由来)などによる誤差と考えられたため、院内に設置した簡易型迅速PT-INR測定器を用いたところ、病院の測定値との差は認められなくなりました。ワルファリン療法を行う場合は、こうしたPT検査時の条件(採血から検査までの時間、PT試薬・測定機器の違いなど)を考慮する必要があると思います。
  ワルファリンは個体差や食物、併用薬剤の影響によって抗凝固作用が変動するため、使い方が難しい薬というイメージがあるうえに、PT-INRの値が施設間で異なる可能性があるとなると非専門医にとって処方ハードルが高い薬剤であると思います。

2.抗凝固薬を安全に処方するために

◆新規経口抗凝固薬は、出血性合併症のリスクを最小化するために適応患者の選択に注
   意する

新しい経口抗凝固薬が登場して処方のハードルが下がり、抗凝固療法を受ける患者さんが増えるのでしょうか。


  新規経口抗凝固薬の導入初期に、重篤な出血性合併症が相次いで報告されたことから、安全性を疑問視して処方に慎重になった先生もいるようです。しかし、重篤な出血の背景には、ワルファリン療法に慣れていない先生が安易に処方したということもあったのではないかと私は考えています。安全性が比較的高いとされる新規経口抗凝固薬であっても、安全に処方するには処方前に抗凝固療法が適さない出血リスクの高い患者さんを見極めることが非常に重要です。

◆心房細動患者の出血高リスクの要因を見逃さない

抗凝固療法が適さない出血リスクの高い患者さんを見極める方法を教えてください。


  抗凝固療法の適応を判断する際に、私が最も重要と考えるのは服薬アドヒアランスが良好かどうかです。抗凝固療法では投与中止により血中薬物濃度が低下した時に血栓が飛びやすいため、処方した薬剤をきちんと服用できる患者さんでないと、かえって脳塞栓を起こす危険性を高めることになりかねません。
  高血圧や糖尿病の合併も出血リスク因子とされているので、私は血圧や血糖値が不安定な方には積極的な抗凝固療法をすぐには行いません。ただし、服薬アドヒアランスが良好な方であれば高血圧や糖尿病は薬物療法でコントロール可能ですので、血圧や血糖値を安定させた後に抗凝固療法を開始します。
  高齢者は出血リスクが高いとされていますが、高齢者ほど心房細動患者が多く脳梗塞のリスクも高いことがわかっています。したがって、高齢というだけで抗凝固療法の適応から除外するのは適切ではありません。認知障害がある患者さんでも、家族や介護者に服薬を管理してもらえれば抗凝固療法は可能と考えています。禁忌に該当する患者さんはもちろん、消化管出血などの既往がある場合や抗血小板薬やNSAIDsなどを服用している患者さんには処方しません。

◆HAS-BLEDスコアで簡便に出血リスクをチェック

出血リスクの高い症例を見逃さないコツはあるでしょうか。


   抗凝固療法が適応となる心房細動患者を見極めるには、出血リスクをきちんと問診で聞き取ることが、単純なようで非常に大事であると考えています。出血リスクを簡便に確認するツールとしてHAS-BLEDスコア1)が用いられており、7項目〔高血圧、腎機能異常・肝機能異常、脳卒中、出血または出血傾向、PT-INR値コントロール不良、年齢(>65歳)、抗血小板薬やNSAIDsの使用・アルコール依存〕を9点満点で判定し、3点以上を高リスクとするもので、製薬会社のウェブサイト上2)でもダウンロードできます。抗凝固療法に慣れていない場合は、問診での聞き漏らしを防ぐためにこうしたツールを活用するのもよいと思います。

◆抗凝固療法を開始した後も定期的な検査で出血をチェック

抗凝固療法中の出血をチェックするための検査について教えてください。


  当院では抗凝固療法中の患者さんには、半年に1回、便潜血検査で消化管出血をチェックし、陽性の場合は内視鏡検査を行っています。実はこうした定期検査により、大腸がんを早期発見できた例を経験しています。
  貧血については半年に1回の血液検査で、ヘモグロビン値が正常域にあるかだけでなく、これまでの測定値と比べて低下傾向を示していないかを注意してみています。腎機能についても、安定した状態の患者さんでは半年に1回の尿検査と血液検査でチェックしています。近年、CKD(慢性腎臓病)が心血管障害に密接に関連していることが判明したこともあり、腎機能については必ず定期的にチェックするようにしています。
 抗凝固療法の実施例には高齢者が多いので硬膜下血腫についても留意しています。硬膜下血腫の一般的な症状は頭痛やふらつきだと思いますが、高齢者の場合には症状を訴えないことも多く、また打撲などがなくても強く頭を振っただけで生じることもあるといわれています。数日の間に食欲が急に落ちたり、周囲からみて明らかにおかしな変化が認められた場合は、硬膜下血腫を疑って頭部CTを撮影するようにしています。

◆良好な服薬アドヒアランスの維持が抗凝固療法を成功させるポイント

良好な服薬アドヒアランスを維持させるために、どのような工夫をされているのでしょうか。


  患者さん本人に何度注意しても服薬アドヒアランスが改善されない場合は、家族にお願いするようにしています。「非常に大事な薬ですが、きちんと服用できていないので、家族の皆さんがチェックして服用を促してください」と依頼しています。老人介護施設の居住者の場合は介護者の協力を得て、必ず目の前で服用してもらうように依頼しています。
  在宅介護のヘルパーに服用確認を依頼する場合、1日数時間しかない滞在時間中に服用確認を2回行うのは困難なため、1日1回の薬剤に変更する必要があります。高齢者は抗凝固薬だけでなく、高血圧や脂質異常症、糖尿病など併存疾患の治療薬も服用していることがよくあります。特に降圧薬などは1日1回の薬剤が増えているので、これらの併用薬も考慮し、できるだけ1日1回型に変更して服薬回数を減らすように工夫しています。
  また、ワルファリン療法では用量調節を行って1回の服用錠数が増えると病状が悪化したと勘違いされる方もいますが、新規経口抗凝固薬は、通常用量調節の必要がなく、こうした心配はほとんどありません。また、1日に何錠も服用する薬剤では、患者さんが勝手に服薬錠数を減らして薬を余らせてしまう場合がありますが、1日1回1錠というシンプルな用法・用量であれば、患者さんが勝手に服薬錠数を減らすおそれもなく、良好な服薬アドヒアランスを保つうえで好ましいと思います。
  臨床試験では服薬状況がしっかり管理されるので、良好な服薬アドヒアランスが維持されますが、実臨床では1日の投与回数や1回の錠数、剤形が影響すると思われます。非弁膜症性心房細動患者に対する長期薬物療法時において、1日1回投与は1日2回投与に比べて服薬アドヒアランスが高いことや3)、抗凝固療法中の非弁膜症性心房細動患者を対象にしたアンケート調査4)でも、1日1回で少ない薬剤数を好む傾向が示されています。したがって、臨床試験と等しい有効性を実臨床で期待するなら、良好な服薬アドヒアランスを維持するため、患者さんが受け入れやすい1日1回1錠のシンプルな用法・用量を選択すべきだと思います。


3.新規経口抗凝固薬への期待と今後の課題

◆新規経口抗凝固薬は医療連携を促進する

医療連携における新規経口抗凝固薬のメリットは。


  ワルファリン療法に慣れていない先生にとって、出血リスクを評価して新規経口抗凝固薬の処方を開始するのは面倒と思われます。そこで、心房細動を認めた場合はまず専門医に紹介して適応の見極めと処方薬を決定してもらい、その後は逆紹介してもらってフォローする方が良いと思います。
  ワルファリンの場合は、PT-INR値による用量調節をかかりつけ医の先生にお願いする必要がありますが、新規経口抗凝固薬は通常固定用量で他の薬剤との相互作用も少ないことから、かかりつけ医の負担も少なくなり、逆紹介もしやすく、さらに医療連携が促進されると思います。また、かかりつけ医がフォロー中に血圧や血糖値のコントロールが不安定になった場合も、病院と医療連携が構築されていれば、専門的な治療がよりスムーズに実施できるのではないでしょうか。

◆患者負担増やモニタリングの課題はベネフィット次第

新規経口抗凝固薬にも課題があるようですが、どのようにお考えですか。


  新規経口抗凝固薬の薬価がワルファリンより高いため患者負担増を心配する声も耳にしますが、今の患者さんは、健康のためであればある程度の出費は受け入れてくれるのではないかと思います。1日1回1錠でワルファリンと同等あるいはそれ以上の脳梗塞予防効果が得られ、食事制限がなく薬剤との相互作用が少ないことなどを、きちんと説明すれば、薬価差を気にしない患者さんがいると思います。これまでも、高血圧や脂質異常症の領域で、新しい作用機序やメリットを持った新薬が高薬価にもかかわらず普及していることを考えると、新規経口抗凝固薬の薬剤費を受け入れる患者さんは、医師が思っているより多いかもしれません。やはり医師自身が心房細動になった時に服用したいと思う抗凝固薬を患者さんにも勧めるべきだと思います。

◆新規経口抗凝固薬の普及により脳梗塞発症の減少が期待できる

抗凝固薬処方のハードルが低くなると、どのような変化が生じるとお考えですか。


  日本人の平均寿命と健康寿命との差は8年程あります。この差を短縮するためには、寝たきりの大きな要因になっている脳梗塞を減らすことが重要な課題です。新規経口抗凝固薬が登場し、かかりつけ医にとって、抗凝固薬処方のハードルが下がるのであれば、抗凝固療法を受ける患者さんが全体として増え、脳梗塞発症を減少させる大きな一歩になると思います。将来的には、心房細動患者に抗凝固療法を実施しない理由を問われる時代になっていくでしょう。

■References
1)Pisters R, et al., Chest 2010; 138: 1093-1100.
2)バイエル薬品株式会社.“HAS-BLEDスコア”.イグザレルト.jp.2012-12-11.
http://www.xarelto.jp/ja/home/medical-support-area/medical-care-calculator/ hasblend/(参照 2013-03-12).
3)Laliberté F, et al., Adv Ther 2012; 29: 675-690.
4)江藤 琢磨, Prog Med 2012; 32: 2677-2685.